10~16歳の思春期のこどもに多い起立性調節障害

目次

はじめに
起立性調節障害という病気
        <症状の特徴>
原因(影響を及ぼす因子)
起立性調節障害の対策
    ●起立性調節障害の症状チェック
起立性調節障害の治療とセルフケア
    ●病院での治療の流れ
    ●起立性調節障害のセルフケア
周囲からの理解と協力
起立性調節障害の予防法
    ●起立性調節障害の再発防止対策
最後に……

はじめに

起立性調節障害という病気についてご存知でしょうか。
起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)は、

  • 朝なかなか起きられない
  • 目が覚めても頭痛や腹痛がして寝床から出られない
  • 起きてから時間が経たないと食事が出来ない
  • 午前中は気分が優れず、午後になると元気が出てきて、夜なかなか眠れない

学童期のこどもにこのような症状がみられた場合、「起立性調節障害」という病気からくる症状である可能性があります。

「起立性調節障害」は、自律神経の乱れによって、座った状態の時や立ち上がった時に脳への血流が低下してしまう病気です。小学校高学年から中学生にあたる10~16歳の思春期のこどもに多く、倦怠感や起床困難、頭痛、めまい、立ちくらみ、腹痛といった症状があります。午前中に強く見られるこれらの症状は、その日の午後には軽減することが多く、周囲からは「怠けている」「甘えている」と受け取られてしまい、適切なケアが受けられないまま放置されてしまうケースも少なくありません。こどもたち自身も本当は学校に行きたいのに、行けないつらさや、体の不調に不安を抱えています。そんなこどもたちを理解し、ケアしてあげるためにも、起立性調節障害の正しい知識を身につけてください。

起立性調節障害という病気

起立性調節障害は、自律神経の調節の乱れによって起こります。自律神経は交感神経、副交感神経の2種類の神経からなり、内蔵のいろいろなところに分布し、前者は活動させる状態に、逆に後者は休める状態にする働きをします。脳の自律神経中枢の機能が悪くなると、交感神経、副交感神経のバランスが崩れます。人は直立歩行するため四足動物に比べると、心臓を中心とした身体の上下への血液循環は重力からみてかなり無理があります。全身の血液の動きを調節している自律神経に問題が起きると、起立していることによって心臓より上部では血液が不足し、下部では血液がたまってしまい、さまざまな症状が出現します。

主な症状は、起立時に脳血流が低下するために、立ちくらみ・めまい・ふらつき、頭痛、気分不良、倦怠感があり、さらに動悸、腹痛、食欲不振、朝起きられない、夜寝つけないことや、時には失神発作を起こしてしまうこともあります。多彩な症状のため診断がつかず治療が遅れることがあり、また本人の訴えでしか判断できない症状が多く、午後や夜には元気になることから怠けや学校嫌いと捉えられる場合もあります。

<症状の特徴>

  • 起立性調節障害の症状は午前中に強く、午後には軽減する傾向がある。そのため、夜眠れずに起床時間が遅くなるという悪循環に陥ることもあります。
  • 起立性という名の通り、起き上がる時に発症し、重症になると横になってしまうと起き上がれなくなる場合もああります。
  • 小学校高学年から中学生(10~16歳)に多く、軽症の例も含めると小学生の約5%、中学生の約10%に症状が見られます。
  • 不登校のこどものうち約30~40%にこの症状があります。
  • 勉強に集中できなくなり、記憶力も思考力も低下するため、知識を覚えようと思っても覚えられなくなります。

原因(影響を及ぼす因子)

思春期のこどもたちに「起立性調節障害」が起こる原因としては、次のものが考えられます。

  • 体の機能が変化する第二次性徴期には自律神経も変化し、調整が難しくなる。
  • 水分の摂取不足
  • 日常生活での活動量低下
  • 遺伝(日本人は自律神経の機能が弱い傾向がある)

また、症状を悪化させるものとして、思春期ならではの悩みや、学校・家庭でのストレスがあります。

起立性調節障害は自律神経の機能障害の上に、季節や気候の変化、生活リズムの乱れ、日常の活動力の低下による筋肉・骨や循環などの身体機能の低下(デコンディショニング)、心理社会的ストレス等が発症、悪化において複雑に影響を及ぼします。小学校高学年、中学生の年齢から発症する頻度が高く、中学生の時点では約1割に存在するといわれ、遅刻や欠席が増え不登校になることもあります。真面目で周囲の期待に応えて頑張ろうとするこどもに多い傾向がみられ、心理的な要因が関与している場合はそのサポートも必要となります。

起立性調節障害は自律神経の機能障害の上に、季節や気候の変化、生活リズムの乱れ、日常の活動力の低下による筋肉・骨や循環などの身体機能の低下(デコンディショニング)、心理社会的ストレス等が発症、悪化において複雑に影響を及ぼします。小学校高学年、中学生の年齢から発症する頻度が高く、中学生の時点では約1割に存在するといわれ、遅刻や欠席が増え不登校になることもあります。真面目で周囲の期待に応えて頑張ろうとするこどもに多い傾向がみられ、心理的な要因が関与している場合はそのサポートも必要となります。

起立性調節障害の対策

こどもの様子に変化が見られたら、以下の症状があるかチェックしてみてください。

●起立性調節障害の症状チェック

□立ちくらみ
□失神
□気分不良
□朝起床困難
□起き上がった時の頭痛
□腹痛
□動悸
□午前中に調子が悪く午後に回復する
□食欲不振
□乗り物酔いしやすい
□顔色が悪い

鉄欠乏性貧血や心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患などの病気を患っていない上で、3つ以上が当てはまる、あるいは、当てはまるものが2つ以下でも症状が強いようなら起立性調節障害を疑いましょう。風邪など他の病気と重なる症状もあるので、1週間ほど様子を見て症状が改善しないようなら、かかりつけの小児科医に相談してください。万が一、本格的な治療が必要になった場合も、専門医を紹介してもらえます。

起立性調節障害の治療とセルフケア

病院では検査によって起立性調節障害かどうかを見極め、治療へと進みます。薬物療法のみでは効果が少ないため、日常的なセルフケアやこどもの心理的なストレスを軽減する環境づくりも並行して行いながら、少しずつ治療していきます。

●病院での治療の流れ

  • 起立時の血圧や脈拍などを測定し、起立性調節障害かどうかを見極める新起立試験を行う。起立性調節障害の自律神経機能障害の診断は、10分以上臥床の後、安静時の血圧・脈拍を測定し、起立後の血圧低下からの回復時間、その後10分後まで血圧・脈拍を測定する新起立試験等によって行います。
  • 検査結果と日常生活状況の両面から重症度を判定する。
  • 「心身症としてのOD(起立性調節障害)」チェックリストなどを用いて、学校や家庭のストレスが関与しているかどうかもチェックする。
  • セルフケアなどの非薬物療法と共に、血管を収縮させる薬や交感神経の機能を促す薬による薬物療法を行う。

●起立性調節障害のセルフケア

日常生活では以下のようなことに取り組んで、症状を悪化させないようにしてください。

  • 立ち上がる時は、頭を下げてゆっくりと。
  • じっとして立っているのは1~2分までとし、時々足をクロスしたり足踏みしたりする。
  • 散歩などの軽い運動で、筋力の低下を防ぐ。
  • 血液量を増やすために水分と塩分を多めに摂る。
  • 血圧低下の予防に着圧ソックスやタイツを使用する。ただし、体を横にするときや睡眠時には使用しない。

周囲からの理解と協力

ストレスは起立性調節障害発症の原因にはなりませんが、自律神経の働きを妨げ症状の悪化につながります。治療やセルフケアについては、まずは全て完璧にやろうとはせず、こどもの様子を見ながら、小さなこと、できることから焦らずに取り組んでいってください。起立性調節障害は、身体疾患だということを理解して、むやみに叱ったり、無理やり学校に行かせたりするのはやめましょう。そして「起立性調節障害」について理解し、保護者として、学校関係者とも連携を取りながら、周囲の理解と協力を深めていくことが必要です。具体的には「遅刻を認めてもらう」「クラスメイトに病気について理解してもらう」ということが大切です。またこども自身にも、症状や原因を理解させることで当事者意識をもたせ、前向きに治療に取り組めるように導いていきましょう。ただ周囲の協力を得るためには、専門家の意見と知見が必須です。起立性調節障害と診断されたら、学校とのかかわり方についても、かかりつけの小児科医に相談してみてください。
尚、起立性調節障害の子どもたちの会など、当事者同士でセルフケアのネットをつくり、周囲の認知向上に取り組む活動も出てきています。

起立性調節障害の予防法

起立性調節障害の予防には、血圧や自律神経を正常な状態に近づけることが大切です。そのポイントとなるのが、規則正しく、健康的な生活を送ることです。とはいえ、健康で自覚症状のない思春期のこどもにあれこれ言っても、なかなか思うように動いてくれないでしょう。簡単にできて有効な予防法を1つだけお伝えするなら「家でゴロゴロ寝そべらない」ということです。帰宅後や食後などの空いた時間に横になってスマホをいじったりゲームをしたりしているようなら、やめるように声をかけてください。
また、起立性調節障害になってしまった場合の再発防止対策として役立つことを以下に紹介します。

●起立性調節障害の再発防止対策

  • 軽めの運動やストレッチで血流を促す。
  • 夜更かしせず規則正しい生活を送る。
  • 朝日を浴びて体内時計を整える。
  • ぬるめのお風呂でリラックスする。
  • 寝る前にスマホやパソコン、ゲーム機などを操作しない。
  • 水分や塩分の摂取を心がける。

最後に……

起立性調節障害は、まだまだ世の中での認知度が低い疾患です。しかもその症状から「怠けているだけでは?」「気のもちようで治る」などと勘違いされ、適切なケアがなされないこどもたちがたくさんいます。こどもたち自身も、学校に行きたいのに行けない、勉強が遅れてしまう、自分はこれからどうなるのだろう……といった不安やつらさを感じ、悩んでいます。
「うちの子も、もしかしたら……」と思い当たることがあれば、まずは、適正な診断を受けるためにかかりつけの小児科医に相談してください。もし、起立性調節障害と診断されても、しっかり治療をすれば完治できる病気です。周囲の大人は、病気を理解し、怒らず、焦らずに見守りながらサポートしてください。
尚、起立性調節障害サポート・グループ(「OD低血圧クリニック田中」の運営)や親の会など、全国各地に増え始めています。







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