質問2 我が子が衝動的に友達を叩くことがあり、このように落ち着きがないのは「愛情の不足」や、しつけの所為なのでしょうか。あるいは発達障害なのでしょうか?(幼児期)

回答2 こどもが、保育園や幼稚園で、お友だちを叩いてしまう。そんなとき、「家庭での愛情不足が原因である」という見方をされてしまうことがありますが、叩くという行動の原因が、家庭での愛情不足にあるとはかぎりません。

目次
「叩く」という行動の原因
叩いた子への対応
叩かれた子への対応
叩くことをやめさせるには?
「叩く」=発達障害?

親子関係は様々な理由があって、こどもになかなか手がかけられないことは現代社会にとって共通の悩みかもしれません。例えば、「フルタイム勤務で、両親とも帰りが遅く、こどもと接する時間が少ない」、「兄弟が生まれたばかりで、どうしても赤ちゃんに手がかかってしまう」。そのような家庭環境で、こどもが不安やストレスを抱えることが、叩く行動のきっかけになったりすることは確かにあります。しかし、それが「愛情が不足している」ということとイコールな関係にあるということではありません。

「叩く」という行動の原因

他の子を叩いてしまうという行動には、さまざまな原因があります。まずは、「なぜ叩いてしまうのか」その原因について考えてみたいと思います。

うまく言葉にできない 
自分の気持ちや要求を、うまく言葉にできないために、そのイライラや葛藤が「叩く」という行動にあらわれてしまう場合があります。こどもが低年齢の場合には、語彙が少ないということが、ひとつの要因となります。例えば、「おもちゃを取られた(やめてほしい)」というようなネガティブな気持ちだけでなく、「一緒に遊びたい」といったポジティブな気持ちが、きっかけとなることもあります。

ストレスが原因 
こどもがストレスを抱えており、その表現として「叩く」という行動にあらわれてしまう場合があります。例えば、「保育園や幼稚園に入園したばかりで、環境になじめていない」、「兄弟が生まれて、パパやママを独占できなくなってしまった」などもストレスの原因ともなりえます。

気を引くために叩く 
「叩く行動をすれば、大好きなママやパパ、保育園の先生が飛んできてくれる」ということを学習してしまうケースもあります。その場合には、大人の気を引くために、「叩く」という行動を繰り返してしまいます。

ある種のスキンシップ 
たとえば、「おやつが欲しい時には保護者を叩く」というようなコミュニケーションが、習慣化してしまっているケースもあります。こどもたちの力はまだ弱いため、叩かれた大人が、それを「一種のスキンシップ」ととらえてしまうことがあります。しかし、対処しないでいると、叩く行動がエスカレートすることもあるため、注意が必要です。

模倣として 
一見すると、関係がないことのように思われますが、「ドアを乱暴に閉める」「おもちゃを片づけるときに放り投げる」といった、物を乱暴に扱うという環境が、叩くという行動のハードルを下げてしまっていることも考えられます。お友だちを叩いてしまうからといって、必ずしもこのような環境が身近にあるとは限りませんが、こどもは大人の姿をよく見ているので、注意する必要があります

以上、ここまでにお伝えしてきた通り、お友だちを叩いてしまうという行動には、さまざまな原因があります。

こどもが他の子を叩いてしまったときには、どのように対応すればよいのでしょうか。ここからは、叩いた子・叩かれた子、それぞれに対する、対応のポイントをご紹介します。

叩いた子への対応

〇叩いた理由を訊ねる

言葉が話せる場合には、まず「どうして叩いてしまったの?」と訊ねてみてください。うまく説明できないときや、「どうして叩いてしまったのか、よくわからない」ときには、こどもの気持ちを想像して、「おもちゃを取られてしまって、イヤだったんだよね」、「一緒に遊びたかったんだよね」などと、気持ちや感情を代弁してあげることも大切なことです。

対応のポイント

大人が感情に任せて叱ったりすると、こどもはうまく心の整理ができなくなってしまいます。穏やかに、静かな声で、落ち着いて対応するよう心がけてください。
 

〇「叩くことはいけない」ということを伝える

どのような理由があったとしても、「叩くことはしてはいけないこと」であることは、ハッキリと伝えましょう。叩かれた子が痛かったことなど、相手のこどもの気持ちを伝えることも大切なことです。

対応のポイント 「叩く子は嫌いです!」「お友だちを叩く〇〇ちゃんなんて、もう知らない!」といったこどもを突き放し、孤立感や疎外感を与える対応は避けてください。


〇うまく言葉にできずに手が出てしまった場合

自分の気持ちや、お友だちにして欲しいことが、うまく言葉で伝えられずに叩いてしまった場合には、「こういうときには『貸して』っていうんだよ」、「今度からは叩かないで『一緒に遊ぼう』って言おうね」などと、叩かなくても済む方法を教えてあげてください。

〇背景にストレスや不安があると思われる場合

叩く行動の背景に、こどもがかかえる不安やストレスがあると思われる場合、こどもは自分の行動を注意されることが更なるストレスとなり、叩く行動を更に繰り返してしまうという悪循環に陥る傾向があります。このような場合には、叩くことが悪いことと教え、叩かずにすむ方法を教える、という対応に加えて、こどもの心に寄り添い、受け止めてあげることが必要です。

対応のポイント こどもの話をじっくり聞いてあげる時間を設けることです。また、ストレスを発散できるような遊びを取り入れるなどのフォローで、こどもの不安やストレスを和らげることも大切なことです。


〇叩くことが習慣になってしまっている場合

叩くという行動は、エスカレートしやすいという性質があります。そのため、叩いてしまうたびに、それが「してはいけないこと」であると教え続け、やめさせる必要があります。

対応のポイント 家庭で保護者を叩いているような場合には、保護者とうまく連携をとり、家庭でも適切な指導をしてもらうことが必要です。

叩かれた子への対応

〇ケガをしていないかまずは、叩かれた部位を目で見たり、触ったりして確認し、外傷がないか確認してください。この時、擦り傷やこぶなどができていたら、適切な応急処置を行ってください。

〇心のケアも忘れずに叩かれた子の、傷ついた心に寄り添い、「痛かったね、びっくりしたね」と気持ちを代弁してあげましょう。抱きしめるなど、スキンシップで安心感を与えることも大切です。

〇一緒に謝ってあげる「〇〇ちゃん、痛かったよね。〇〇くん、一緒に遊びたかったんだって。止めてあげられなくてごめんね。」など、叩かれてしまった子に謝る姿を見せることは、叩いた子に「叩くことはいけないこと」だと伝えることにも繋がります。

叩くことをやめさせるには?

叩かれたらこんなに痛いんだよ」と、叩いて教え込むことはやめてください。大人が叩くという行動をすることで、「叩くことはいけないこと」という本当に大切なメッセージが、伝わらなくなってしまいます。他人の痛みを知ることも大切ですが、叩くのではなく、きちんと言葉で伝えてあげるようにしましょう。
こどもが他の人を叩いてしまったときに、上記に記したように適切な対応をすることも大切ですが、あわせて「叩かないで済む工夫」も重要なことです。
以下、叩く行動を予防するための対処法を紹介します。

〇ストレスや不安の軽減
不安やストレスを抱えることは、叩く行動のきっかけにもなります。「スキンシップを積極的にとる」「外遊びなど、思いきり体を動かしてストレスが解消できる時間をもうける」など、こどもたちが、心穏やかに生活できるように、工夫してください。

〇「叩く」ことに慣れさせない
たとえば、「他者を殴るようなシーンが多いテレビ番組を、日常的に見ている」など、叩く行動を目にする機会が多いと、それに慣れて、自然と真似をするような子もなかにはいます。「叩く」という行動が、日常的に身近にないか、改めてチェックしてみてください。

〇こどもの行動を観察
こどもにできるだけ目を向け、叩くという行動を未然に防ぐことも大切です。とくに、大人の目を引こうとして叩いている場合には、お友だちを叩いてしまう前に声をかけ、そっと手をとって止めてあげるなどを繰り返すことで、叩く行動を減らすことができます。

〇ごっこ遊びの活用
叩かないですむための行動を、遊びを通じて教えてあげるのも一つの方法です。
「〇〇ちゃん、おもちゃ貸して~」
「いいよ! はいどうぞ」
「ありがとう!」
「なにしてるの?」
「お店屋さんごっこだよ!」
「いいなあ、僕(私)も入れて!」
「うん、いいよ!」
ごっこ遊びで、このようなやり取りを経験することで、同じようなシチュエーションが生じたときに、叩かずに対応できるようになります。また、絵本などを通じて、適切なやりとりを伝える方法もあります。

〇叩かずにいられたら
友だちを叩かずに、適切な対応ができたときには、しっかりとほめてあげてください。成功体験を積み重ねること、さらにそれを評価されることは、こどもたちの自信にもつながります

「叩く」=発達障害?

ここまで、お友だちを叩いてしまうというこどもの行動について、その原因や対処法を述べてきましたが、ときに、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの特性が、叩くという行動にあらわれるケースも事実あります。しかしながら、もちろん「叩く行動が多い=発達障害である」というわけでは決してありません。この点は注意してください。

発達障害は、たとえ同じ診断名であっても、個々にあらわれる特性が異なります。また医学的な診断名はつかないものの、いくつかの特性を持ち合わせる「グレーゾーン」とよばれる状態もあります。ほかの障害をあわせ持つこともありますので、その特性は一様ではありません。叩く行動がなかなかやめられない場合で、発達障害の特性にあてはまる部分が、ほかにもあるなど、もしも心配なときには、各自治体の障害福祉課や、子育て支援センターなど専門機関に相談してみてください。
ADHDとは自分の行動が抑制できない障害です(不注意、衝動性、多動性)。ADHDによるトラブルはしつけのせいではなく、脳の発達における凹凸による障害が原因だということをよく理解しておいてください。
まず発達障害のこどもに接するときは不用意に叱らないことが大切です。なぜこういう行動をとるのだろうとこどもの気持ちに寄り添い理解するよう心掛けてください。発達障害のこどもは周囲から誤解されることもしばしばあります。拠って、幼児期のうちは親がこどもの気持ちを代弁することが必要となります。
かんしゃくについては、どういう条件でかんしゃくを起すのかよく観察をしておきましょう。傾向が判れば事前に対策を打つことができ、トラブルを未然に防ぐことができます。詳しくは本ホームページの障害の種類と対処法「こどもの発達障害について」を参照してみてください。
また放課後等デイサービスでは、児童にSST(ソーシャルスキルトレーニング)などの対人関係や集団生活を営みやすくするための技能(スキル)を養うようなプログラムを通じて療育訓練を行っているところもあります。ご相談されるのも良いかもしれません。