学びの多様化学校について

目次
学びの多様化学校の背景
学びの多様化学校の現状と設置に向けて
実際の学びの多様化学校について
 〇一日の流れ
 〇安心して学べる
 〇授業はどこからでも参加が可能
 〇疲れたとき
 〇進路について
学びの多様化学校の“高校”について
最後に……

学びの多様化学校の背景

不登校児童生徒に配慮した特別の教育課程を再編し実施する必要があると認められる場合、文部科学大臣が、学校教育法施行規則第56条に基づき学校を指定し、教育を実施することができると規定されています。これまで、その指定された学校を「不登校特例校」と呼んできました。
平成28年に実施された「不登校特例校調査」では、特例校(学びの多様化学校)の在校児童生徒数(小学生)は横ばいですが、中・高校生においては、年々増加傾向にあります。また、「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」の結果では、小学校、中学校、高等学校あわせて、全国に約30万人の不登校児童生徒がいることが分かっています。不登校状態の児童の定義としては、年間30日以上の欠席が基準になりますが、その判断は小学校またはその管理機関が行うこととし、断続的な不登校やその傾向が見られる児童生徒も対象になり得るとしています。
令和5年3月にとりまとめられた「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」(COCOLOプラン)において、実際に特例校に通うこどもたちの目線に立った相応しい名称とするため、全国の特例校に通学または勤務する児童生徒や教職員に対し、新たな名称の募集を行いました。その応募結果から、新たな名称に決定したのが、「学びの多様化学校」です。

学びの多様化学校の現状と設置に向けて

また、学びの多様化学校で特別の教育課程を実施するにあたっては、不登校児童生徒の実態に配慮し、その児童生徒の学習状況にあわせた少人数指導や習熟度別指導、個々の実態にあわせた支援、学校外の学習プログラムなどを活用して指導の工夫がなされています。
現在、学びの多様化学校に指定されている学校は、令和5年8月現在、全国に公立14校、私立10校の計24校ありますが、永岡桂子文部科学大臣は、全国に約30万人の不登校児童生徒がいるとの調査結果を受けて、不登校対策の会議にて全国300校をめざすと発言されました。

実際の学びの多様化学校について

では実際、学びの多様化学校はどのような学習をしているのでしょうか。以前、NHK番組で取りあげられていた札幌市内にある学びの多様化学校の事例を紹介します。当該学校には、およそ150名の中学生が通っています。

〇一日の流れ

1日のスケジュールは、9時10分までに登校、授業は6時間、16時から帰りの会。ただし「毎日1~6時間目まで参加して当たり前」という前提はありません。家を出るだけでもプレッシャーを感じる生徒、1日のうち数時間、授業に参加することが大きな一歩となる生徒、授業に留まらず自分の興味関心をより探究しようとする生徒など、多様な生徒たちが、それぞれのペースで学べるように配慮がされています。一日の最後は、先生と生徒がマンツーマンで、その日をじっくり振り返る時間があります。

〇安心して学べる

勉強面で不安や苦手意識を持つ生徒もいることから、主要5教科の授業は習熟度に合わせたクラスが用意されています。自分の能力に合わせた環境で、安心して勉強に取り組んでもらうのが狙いです。個別に復習・補習をする時間もあり、学校に行っていなかった頃の授業や学びを補うことも可能です。また「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」という授業では、生徒同士でボードゲームなどを楽しみながら、コミュニケーションスキルを身に着けることを目指します。他にも「自由ってなんだろう?」「もしこんなトラブルが起きたら?」というテーマで話し合いながら、他の人の考えや立場を考える時間もあります。

〇授業はどこからでも参加が可能

生徒全員が持っているタブレットを使って、学校内の別の部屋や自宅からでも授業にリモートで参加ができます。学校には、個別のブースが並ぶ部屋や、ハンモックのある部屋もあります。ハンモックにゆられながら授業を受けていた生徒は、「教室で授業を受けるのも好きだけど、ずっといると疲れちゃうから」と、1人で過ごしているようでした。

〇疲れたとき

校舎の中には、授業に参加することがしんどくなったり、集中力が続かなかったりする時のために、誰でも休憩していいスペースがあります。1人で静かに本を読む生徒、イラストを描いている生徒、先生や友人とおしゃべりする生徒など、それぞれのペースで自由に過ごしています。
さらに、夏休みや冬休み明けの1日目、2日目には、特別なカリキュラムがあるようです。

〇進路について

生徒の約7割が通信制高校へ進学しています。その他は、農業、運輸、情報科学、機械工学、経済、福祉など、より専門的なことを学べる高校へ。高等支援学校、離島などにある特色ある高校、そして、いわゆる“難関校”など、進路は多岐に渡ります。

学びの多様化学校の“高校”について

高校になると、通信制・定時制・工業高校・農業高校・・・学び方も学ぶ内容も選択肢がぐんと増え、自分に合った学校を探しやすくなります。しかし、前段でも説明したように「学びの多様化学校」は、高校もあります。どんなところなのか、以下、簡単に紹介します。
平成18年に初めて開校され、現在は全国に11校。不登校経験者向けに様々な配慮がなされており、特徴はコミュニケーションスキルを高める授業が多いこと。体験活動や地域活動を通じてさまざまな人と交流し、将来の夢を見つけるきっかけになるような授業に力を入れている学校などあります。通信の方法を用いた教育で一定数の単位認定を行うこともできますが、基本的には不登校を経験した人が社会経験を積めるように「対面での授業」に力を入れています。
学びの多様化学校の高校は、これまでは学費がかかる私立高校しかありませんでしたが、大阪府が府立高校として設置することを検討していると発表しています。公立高校として設置が実現すれば、全国初の試みとなるようです。

最後に……

文科省によると現在、379の市町村が多様化学校の設置を検討しています。文科省は、多様化学校「マイスター」派遣事業を、令和5年12月から始めました。特例校の現・元校長ら5人にマイスターを委嘱、授業の進め方、心構えなどについてアドバイスしています。
学校に行っていても、行っていなくても、どんなこどもにも、得意不得意があり、日々気持ちの変化もあるものです。また、心が傷ついた時には、勉強をする時間だけでなく「ほっとできる時間や居場所」も必要です。学びの多様化学校で行われているこどもたちのための様々な配慮が、どんな学校でも行われれば、すべてのこどもが安心して学んでいけるのではないでしょうか。学びの多様化学校が増えていくことをきっかけに、こどもの特徴に合わせ、気持ちに寄り添う教育が、社会の隅々まで広がっていくことを願います。
また、「学校に戻ることがベストではない」という子もいると思います。今はフリースクールやホームスクーリング、あるいは地域の居場所・フリースペースなど、様々な選択肢が増えています。“1つの学校”だけでこどもを支えるのではなく、その子の状況に応じて「様々な学びの場」を適宜活用しながら、その子らしい一歩をみんなで支える社会が、これから求められていく教育の姿ではないでしょうか。