HIVとエイズについて

目次

HIV感染=エイズではない
HIVとエイズの基礎的理解のために
 〇エイズ診断の指標 23種類の合併症
 〇免疫とはなにか
 〇CD4陽性リンパ球とはなにか
HIVに感染したら
   ①急性期(感染初期)
        ②無症候期
        ③エイズ期
治療するためには
感染しないためには
HIV陽性者の医療費について
    〇医療費総額(TDF+FTCとDTG)
    〇健康保険を利用した場合

自己負担を少なくするための制度
        ①自立支援医療(更生医療)
    〇自立支援医療(更生医療)の自己負担額上限額一覧(国の基準)
       ②福祉医療費助成制度
最後に……

HIV感染=エイズではない

HIVとは、ヒト免疫不全ウイルス (Human Immunodeficiency Virus)の頭文字を取ったもので、ウイルスの名前です。このHIVウイルスは私たちの体を細菌やウイルスから守る免疫細胞(Tリンパ球やマクロファージ)に感染してしまうウイルスです。
一方、エイズ (AIDS) とは、後天性免疫不全症候群 (Acquired Immunodeficiency Syndrome) の略称で、HIVが免疫細胞を攻撃し続けた結果、免疫機能が保たれなくなり、健康な状態だったら感染しないような病原体に感染して様々な病気(日和見感染症)を発症することを言います。
よってエイズとは、HIVに感染した人が、免疫機能の低下により23種類ある合併症のいずれかを発症した状態のことをいいます。ですからHIVに感染していても、この23疾患のいずれかを発症しない限りはエイズとは言いません。
つまりHIVはエイズの原因となるウイルスの名前で、エイズはHIVによって引き起こされる病気の総称です。くりかえします。HIVは病原であるウイルスの名前であり、エイズとは病気の名前です。つまりHIV感染=エイズではありません。

HIVとエイズの基礎的理解のために

〇エイズ診断の指標 23種類の合併症

A.真菌症 1. カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
2. クリプトコッカス症(肺以外)
3. コクシジオイデス症
 ①全身に播種したもの
 ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
4. ヒストプラズマ症
 ①全身に播種したもの
 ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
5. ニューモシスチス肺炎
B.原虫症 6. トキソプラズマ症(生後1か月以後)
7. クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
8. イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
C.細菌感染症 9. 化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌などの化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に2つ以上多発、あるいは繰り返して起こったもの)
 ①敗血症
 ②肺炎
 ③髄膜炎
 ④骨関節炎
 ⑤中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍
10. サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
11. 活動性結核(肺結核*または肺外結核)
*肺結核については、HIVによる免疫不全を示唆する症状または所見がみられる場合に限る
12. 非結核性抗酸菌症
・全身に播種したもの
・肺、皮膚、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
D.ウイルス感染症 13. サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
14. 単純ヘルペスウイルス感染症
・1か月以上継続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの
・生後1か月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの
15. 進行性多巣性白質脳症
E.悪性腫瘍 16. カポジ肉腫
17. 原発性脳リンパ腫
18. 非ホジキンリンパ腫
  LSG分類により
  ①大細胞型、免疫芽球型
  ②Burkitt型
19. 浸潤性子宮頚癌(HIVによる免疫不全を示唆する症状または所見がみられる場合に限る)
F.その他 20. 反復性肺炎
21. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成(LIP/PLH)complex (13歳未満)
22. HIV脳症(認知症または亜急性脳炎)
23. HIV消耗性症候群(全身衰弱またはスリム病)

〇免疫とはなにか

私たちの身の回りには細菌やカビなどの病原体がたくさん存在しています。健康な人にはそのような異物から身を守るためのバリアが備わっています。そのような仕組みを免疫といいます。

〇CD4陽性リンパ球とはなにか

血液中に流れている白血球の一種で、感染症から体を守る働き(免疫)の中心的役割をしている細胞です。健常人ではCD4陽性リンパ球数は500〜1500/μl程度ありますが、HIVがCD4陽性リンパ球に感染し、徐々にCD4陽性リンパ球を破壊していくことにより免疫機能が低下してしまいます。

HIVに感染したら

HIVの感染経路は、性交渉や医療従事者の針刺し事故、また母子感染が主なものです。感染後の経過は、医学的分類としては、①急性期(感染初期)、②無症候期、③エイズ期に分けられています。

①急性期(感染初期)

感染機会の後2〜3週間後を急性期と言い、発熱・咽頭痛・筋肉痛・頭痛などの症状が現れます。これらの症状は10日ほど続き、自然と治ってしまいます。そのため、「風邪を引いたけれど自然に治った」と思って医療機関を受診しない方もいます。

②無症候期

急性期の症状が自然軽快した後は、症状のない無症候期に入ります。何も症状のないまま、数年から、中には10年以上続く方もいます。症状がなくてもHIVは体の中で毎日増え続け、免疫を破壊してしまいます。

③エイズ期

体の中の免疫が破壊され続けると免疫不全状態となり、先述した23項目の日和見感染症や癌などを発症します。

治療するためには

エイズを完全に治すお薬は残念ながらまだありません。
しかし、ウイルスが増殖していく過程の異なる時点で作用する数種類(3〜4種類)のお薬を組み合わせて使用していくことで、生涯エイズを発症する事なく過ごすことも可能となっています。しかし、毎日必ず、決められた時間に、決められた量を服用しなければならず、患者様の負担も大きいものでした。
しかし、2022年6月には日本初となる長時間作用型注射薬が承認され、1ヶ月〜2ヶ月間隔での投与が可能となりました。
さらに、2023年8月に世界初、年2回投与の多剤耐性HIV感染症治療薬「シュンレンカ」が日本での製造販売を承認されました。
このように近年、ウイルスの増殖を抑える新薬が次々に開発され、適切に治療を受ければウイルス量がほとんど測定できないくらいまでに抑えることができるようになっています。

感染しないためには

もし、周りにHIV感染症の方がいたとしても、普段の日常生活の中では感染することはまずありません。感染経路は、性交渉、血液感染、母子感染ですので、私たちが意識を持って予防できるのは、性交渉となります。自らが感染対策の意識を持つことが必要となります。
また、感染を疑う行為があった場合には、必ず検査を受けることが大切です。早期に発見できれば早期に治療が開始できるため、エイズを発症することなく、健康な方と同じくらいに日常生活を送ることができるようになります。

HIV陽性者の医療費について

〇医療費総額(TDF+FTCとDTG)

再診料 730円
ウイルス疾患指導料など医学管理料 5,630円
採血と尿の検査料 16,430円
処方箋関連 214,490円
医療費合計 237,280円

外来受診して、30日分の処方薬を受け取るには、例えばTDF+FTC(テノホビル/エムトリシタビン配合剤)とDTG(ドルテグラビル)の場合だと237,280円になります(上表)。検査の項目や処方薬によって金額が異なります。
自己負担は、健康保険に加えて、自立支援医療(更生医療)や福祉医療費助成制度などの助成制度が利用でき、継続して医療を受け続けられるように配慮されています。

〇健康保険を利用した場合

70歳未満の方の自己負担は3割となります。HIV感染症の治療が月237,280円であれば、3割負担で71,180円の自己負担となります。但し、健康保険には「高額療養費」として一か月の医療費の自己負担には、所得によって自己負担限度額が設けられているので、それ超えた分の自己負担はしなくて良いことになっています。以下に所得区分による自己負担限度額(高額医療費)の一覧を紹介します。

所得区分 自己負担限度額
年収:約1160万円~ 252,600円 +(医療費-842,000円)×1%
年収:約770万円~1160万円 167,400円 +(医療費-558,000円)×1%
年収:約370万円~770万円 80,100円 +(医療費-267,000円)×1%
年収:~約370万円 57,600円
住民税非課税 35,400円

自己負担を少なくするための制度

HIV陽性者は、一定の基準を満たすと「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能障害(以下、免疫機能障害)」として身体障害認定を受け、身体障害者手帳を持つことができます。これにより、障害福祉サービスとして、医療費の自己負担を軽減する制度を、感染経路に関わらず利用することができます。また、薬害被害者の方については、自己負担を0円にする制度(特定疾病療養費と先天性血液凝固因子障害等治療研究事業)があります。

①自立支援医療(更生医療)

身体障害認定を受けている人が、その障害を軽くしたり重くならないようにしたりするため、治療を受ける権利を保障する国の制度です。例えば、腎機能障害の方が透析を受ける時などにも利用されます。免疫機能障害の場合には、抗HIV療法(抗HIV薬の内服継続)を受ける時と、日和見感染症の治療(予防を含む)が対象となる治療になります。ですので、転んで骨折した時の治療や、梅毒やB型肝炎といった性感染症の治療など、HIV感染症とは直接関係がない疾患の治療については対象になりません。
対象になる治療については、1割負担になること、所得によって自己負担月額の上限額が定められ、それ以上には自己負担をしなくて良くなります。
なお、生活保護を受給されている場合にも、自立支援医療(更生医療)の制度が優先されるので、抗HIV療法と日和見感染症の治療(予防を含む)を受ける場合には手続きが必要になります。

〇自立支援医療(更生医療)の自己負担額上限額一覧(国の基準)

自治体によっては、この基準より自己負担を軽減しているところもあります。

所得区分 自己負担月額上限額
市町村民税(所得割)235,000円~ 20,000円*
市町村民税(所得割)~235,000円 10,000円
市町村民税(所得割)~33,000円 5,000円
市町村民税非課税(年収80万円~) 5,000円
市町村民税非課税(~年収80万円) 2,500円
生活保護世帯 0円

この制度は、2006年4月1日に障害者自立支援法という法律が施行され仕組みが変わり、それまで「更生医療」という制度を利用されていた方は自己負担が増えることになりました(表3)。そして制度自体も自己負担額が3年毎に見直しをするとされています。特に、高所得の方については、自己負担を増額するか、対象外にする方向で検討が続いています。

②福祉医療費助成制度

何らかの障害がある方が安心して医療を受けられるよう、医療費の自己負担を軽減する自治体(市町村)の制度です。「重度障害者医療証」や「福祉医療証」などという名称で呼ばれることが多いです。
自治体によって、対象となる身体障害者手帳の等級や、所得制限、自己負担額など、様々なことが異なります。例えば、等級が同じで、同じくらいの所得の人でも、A県B市在住のCさんは利用ができるのに、D県E村在住のFさんは利用ができないという場合もあります。ご自身がお住まいの自治体のホームページで確認をしてみてください。
医療費を助成する制度には優先順位が決められています。自立支援医療(更生医療)は福祉医療費助成制度より優先されます。どちらも利用できる場合には併用することが推奨されています。
しかし、自治体によっては併用することができず、福祉医療費助成制度の方が自己負担が軽い場合があり、自立支援医療(更生医療)を手続きせず福祉医療費助成制度だけを利用されている方もいます。

最後に……


1981年にアメリカで初めてエイズが認識されました。当時は死の病として恐れられていましたが、40年間で飛躍的に治療が進み、現在では適切な治療を行えば、決して恐れる病気ではなくなりました。
みなさんはU=U(ユー・イコール・ユー)というのをご存知でしょうか?
2016年頃からU=Uの考えを広める啓発活動が世界的に広がり始め、現在では国際的にも多くのHIV分野の研究者や医師がU=Uに同意しています。また、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、国際エイズ学会(IAS)、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)、英国HIV学会(BHIVA)なども賛同しており、日本でも日本エイズ学会やエイズ支援NGOの多くが支持を表明しています。
U=U(ユー・イコール・ユー)とは、HIVの治療を受けて血液中のウイルス量が検出限界未満に継続的に抑えられているHIV陽性者からは、セックスによってHIVが感染することはないということを表すメッセージです。抗HIV療法を継続することで、血液中のウイルス量が検出限界値未満(200copies /mL未満の状態)を6ヶ月以上維持しているHIV陽性者はセックスを通じて他の人に HIVを感染させることはないという、科学的根拠に基づいた事実を指します。Undetectable(検出限界未満) = Untransmittable(感染しない)の略称です。
U=U のメッセージは、HIVをめぐる差別や偏見をなくすことを最大の狙いとしています。また、HIVに感染したらもう終わりと勘違いをせず、検査を受け、もしもHIV感染がわかったら治療を受けることで、性生活も含め日常生活を送ることができるというメッセージにもなっています。つまり、陽性者が自分がHIV陽性であることを知ることをうながすことにより、HIVの世界的な流行を終えようとすることも、U=U のメッセージの狙いの一つです。
HIVに感染した患者が幹細胞移植後にウイルスが体内から検出されない状態(寛解状態)となった症例も発表されており、今後が大いに期待されています。