質問4 五歳になる女の子なのですが数を数えることが出来ず、指を使っても難しいようです。来年小学校に入学するのですが授業についていけるか心配です。学習障害の可能性はありますか。(学童期)

回答4 障害があるかどうかは、まだ小学校に上がっていないので判断は保留しますが、ここでは発達障害に分類される学習障害の一つである「算数障害(ディスカリキュア)」について説明しておきたいと思います。

目次
算数障害とは何か?
    《数処理》
    《数概念》
    《数的推論》
算数障害のあるこどもの特徴
    算数障害になる原因
こどもへの学習支援
    家庭では

算数障害とは何か?

算数障害であることを判断する基準として、「数処理」「数概念」「計算」「数的推論」があります。

《数処理》
数処理」というのは、数詞、数字、具体物、これらの3つの対応関係がわかるかどうかということです。たとえば1という値の読み方は「いち」で、これが数詞です。書き方は「1」で、これが数字です。この数詞と数字と具体的にある物と結びつけて考えられるかどうか。この3項が結びついていないと、数字は書けるけれど読めなかったり、「3個とって」と言われたときに正しい数をとれなかったり、ということが起こります。
《数概念》
「数概念」では、数の量的な概念を表す「基数性」と、数の順序を表す「序数性」が理解できているかが問われます。「基数性」がわからないと、数の大小関係が理解できません。「序数性」がわからないと、列の何番目に自分がいるか答えられなかったり、数詞等の系列が正しい順序で言えなかったり、といったことが起こります。
「計算」は、暗算と筆算にわけて考えられています。暗算は和が20までの数のたし算やひき算や、九九の範囲のかけ算わり算ができるかどうかが判断基準となっています。また、筆算はそれ以上の計算の問題で数字をうまく配置できるかどうかという視空間認知の能力と、くり上がりやくり下がりなどの手続きができるかどうかがポイントになります。
《数的推論》
「数的推論」では、具体的には文章題のことを表しています。設問の文章を読んで具体的な場面を思い浮かべることができ、式を立てて、計算し答えを導くことができるかどうかが問われています。
知的能力は低くないのにこのような問題が見られる場合、「算数障害」である可能性が考えられます。「算数障害」と聞くと、学校の算数にまったくついていけないというイメージがありますが、細かく分類がありそのどれかができないというのが定義となります。暗算はできるけれど、筆算ができない。数の序数性、順番はわかるけれど、基数性、量としての数がイメージできない。このように算数の一部分がうまくいかないお子さんを算数障害と考えます。

算数障害のあるこどもの特徴

算数障害であるといえるのは、数処理や数概念は、算数という教科を学んでいくなかで身についていくものですので、就学後でないと算数障害という定義がつけられません。故に就学後に気づくことが多いと言えます。ただ、小学校に入る前にも数にかかわる様々な体験から数処理に関する知識や10までの数の概念は理解しています。就学前でも、みかんを3個ちょうだいと言ったときに2個しかくれないとか、数を数えるときに数詞の序数性が安定しないといったことで気づくことがあるかもしれません。

算数障害のお子さんの一般的な特徴としては、「いつまでたっても計算が遅い」、「学年が上がっても指で数えないとうまく計算できない」「数の大小がわからない」などが挙げられます。

算数障害になる原因

算数障害になる原因は、知的能力は低くなくても、認知能力にアンバランスがあるために起こると考えられています。もうすこし細かく説明すると、認知能力は視覚、聴覚、運動覚といった感覚の問題と、一つひとつ順を追って処理する継次処理、全体を把握する同時処理といった処理様式の問題に分けて考えることができます。たとえば、数詞を覚えるには耳で聞いて覚える、つまり聴覚認知能力や聴覚的短期記憶などが主に必要になります。数には順序があることを理解するためにかかわってくるのは、一つひとつの情報を順を追って処理する継次処理能力です。
 発達障害は、脳の機能に問題があるために起こります。その発達障害の1つである算数障害でも、同じことが言えます。ただし、算数にかかわる脳の部位は広く、特定が難しいのです。たとえば、「さん」という数詞は聴覚的なもので、具体物であるみかん3個と「3」という数字は視覚的なものです。聴覚認知と視覚認知のどちらが劣っていても3項の対応関係が成り立ちません。これはほんの一例で、算数にかかわる脳の部位はあまりにも多く、算数障害に対応する脳の部位は特定できていないというのが現状です。

算数障害は、障害という名前がついていますから、根本的には治りません。ただ、それぞれのお子さんの課題によっては、うまく解決できるようにさせることはできます。つまり治すのではなくて、課題を解決する方法を探すことになります。

こどもへの学習支援

教科としての算数というのは「できるか」「できないか」で、できなければ「バツ」と評価されてしまいます。このことから、算数障害のお子さんはもちろん、算数に困難があるお子さんの多くは自尊感情が傷つきやすいといえます。そこで計算問題をくり返し解くようなドリル形式の学習をさせても課題の解決は見込めません。算数がどんどん嫌いになるだけです。学習支援を行うときには、お子さんが楽しく興味を持って課題に取り組めるように工夫することが何より大切となります。

家庭では

家庭では、算数を教えこもうと思わないでください。いくら紙の上で問題を解いても、数というものを理解せずに計算という手続きを覚えるだけになってしまうこともあります。これでは、根本的な解決にはなりませんし、学年が上がればいずれ限界がきます。それよりも、生活のなかで数を使った経験を沢山させてあげてほしいと思います。

例えば、「みかんを3個もらうより、5個もらうほうがうれしかった」「友だちは虫を5匹も捕ったのに、僕は2匹しか捕れなくて悔しかった」など。お子さんの発達の過程を考えるとき、このような自分の喜びや悲しみといった情動に結びついた経験が、数と量の感覚を育てるのに大切なことになります。 たとえば、お風呂で「お湯につかって30数えようね」ということも、とても大切な経験です。このとき重要なのは、30まで正しく数えられるようにくり返し唱えることではなく、「10まで数えたときより、30まで数えたときのほうが身体がぽかぽかする」というように自分の気持ちと結びつけて体験できることです。

お買い物など、「お肉を150g買ってきてね」と言われたときに、それがいくらでどれくらいの量なのか、持ち運んでいるときどのくらいの重さだったのか、そのように体感することがとても大切です。いつも買い物に行くお店まで何メートルの距離があって、歩くと何分かかるのか、測ってみるのもいいですね。自分の手足を動かして、日常生活のなかで与えられた数量的な課題を解く体験をたくさんさせてあげてください。

保護者が「うちの子、算数障害かも」と思ったとき、どんな機関に相談すればいいかというと、小学校や中学校に設置されている特別支援教室であれば、知能検査も含めて専門的な相談ができると思います。発達障害を扱う大学の相談室や、療育専門の塾なども増えつつあるようです。他には自治体の保険センター、子育て支援センター、児童発達支援センターなどにも相談窓口があります。そうした施設を探してみるのも1つの方法です。
また学習障害(LD)で学校の授業についていけない場合、指導実績のある放課後デイサービスにおいて学力を補うために学習療育を受けるのも良いかもしれません。