令和5年3月31日発行の総合教育臨床センター研究紀要(京都教育大学総合教育臨床センター刊)第2号に、田中美生子、相澤雅文による「放課後等デイサービス利用におけるニーズと課題についての一考察 —知的障害特別支援学校の保護者対象アンケート調査を基にして—」が掲載された。著者の田中美生子は、大阪府立吹田支援学校の教員で、相澤雅文は、京都教育大学の教授で総合教育臨床センター長。この論文は、実態調査をしたうえで、放課後等デイサービスの展望と課題を明らかにした興味深いものである。この調査結果は放課後等デイサービスを利用する保護者の共通した意見として、多くの放課後等デイサービス事業に関わる人に目を通してもらいたい。
まず、発行元である京都教育大学教育創生リージョナルセンター機構総合教育臨床センターについて説明する。2019年4月に「特別支援教育臨床実践センター」と「教育臨床心理実践センター」とが統合され開設された。総合教育臨床センターには特別支援教育臨床実践拠点と教育臨床心理実践拠点とが置かれ、発達面の支援や心理面の支援に取り組んで来ている。
特別支援教育臨床実践拠点は、京都府・市の教育委員会や医療機関、福祉機関等と連携し、地域の障がいのあるこども等を対象とした発達相談や現職教員の研修等を実施している。また、教育臨床心理実践拠点は、教育臨床心理に関する教育・研究・支援や附属学校園のスクールカウンセラーに関連する事業を推進している。
2022年度からは、新たに総合教育臨床センター内に「学びサポート室」を設置し、次のような役割を果たしている。
・ 幼児児童生徒の各ライフステージにおける縦断・横断的な臨床研究・実践に基づく「KYOの特別支援教育実践データベース」の開発・発信。
・ 教員を目指す学生・大学院生等を対象とした「京教式特別支援教育カリキュラム」の開発・実践・発信。
・ 教育委員会と連携し、現職教員等を対象とした特別支援教育に関する「教職キャリア研修プログラム」の開発・研修・発信。
京都教育大学総合教育臨床センターでは、特別支援教育臨床実践拠点と教育臨床心理実践拠点の2拠点が個々に発刊していた年報・紀要を統合し、令和3年度より「総合教育臨床センター研究紀要」を新たに発刊している。第2号は最新号。
次に本研究の詳細について説明する。本研究では、公立の知的障害特別支援学校 2 校に在籍する児童生徒の保護者を対象に、放課後等デイサービス事業所に対する保護者の意識について調査を行い、利用者の年齢によるニーズや課題の違いの有無について明らかにした。
公立知的障害特別支援学校2校の小学部・中学部・高等部に在籍する、自宅から通学している児童生徒560名の保護者を対象として、調査の趣旨及び学会等での発表を説明した上でアンケートを配布し回収した。回答は無記名で実施した。
2017年11月
質問紙の選択回答項目の統計・分析については、Js-STAR version9.8.4j(田中、2016)を使用。
小学部 | 中学部 | 高等部 | 計 | |
アンケート回収数 | 113 | 117 | 151 | 381 |
デイサービス利用数(%) | 112(99.1) | 102(87.2) | 109(72.2) | 323(84.7) |
結果、アンケート 560 部を配布し、回収数は 396 部(回収率 70.7%)であった .そのうちの未記入等のあった質問紙を除いた381部(68.0%)を有効回答とし分析した。
その結果、小学部ではこどもの交友関係の広がり、高等部では余暇の充実というニーズがあること、そしてそのニーズが満たされていることが示された。一方、課題としては指導員の専門性の確保と、利用人数に対する施設設備の狭さが挙げられ、学部間に有意差はなく、共通した課題であることがわかった。そしてこの課題に対しての取り組みが、児童生徒の放課後や休日がさらに充実し、発達に大きく寄与すると考えられた。
放課後等デイサービス事業所数と利用実人数の推移が記されているのは見逃せない。近年、急速に受容が拡大しているのが一目瞭然である。
年度 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 |
事業所数 | 3,107 | 3,909 | 5,267 | 6,971 | 9,385 | 11,301 | 12,734 | 13,980 | 15,519 |
利用実人数 | 41,955 | 58,350 | 86,524 | 124,001 | 154,840 | 226,611 | 320,486 | 365,513 | 400,096 |
※厚生労働省HP 社会福祉施設等調査の概況(各年度10月1日現在を2021年4月に閲覧)
因みに現時点(2023年8月17日)での閲覧では、2021年度の数字まで確認ができる。2021年では、全国の放課後等デイサービス事業所数は17,372軒あり、利用者数は438,471人である。2020年からも確実に増加していることがわかる。これからもますます放課後等デイサービス受容は伸びてゆくことになるだろう。
放課後等デイサービスにおけるニーズは、小学部では児童生徒の家族以外の人との関わり
による社会性の伸長、高等部では余暇生活の充実と、年齢により違いがあると考えられた。
放課後等デイサービスの「発達支援」と「保護者支援」の側面に大きく関わる指導員の専門性向上が重要であり、専門性の高い指導員対象の研修の継続が求められている。
今回の調査結果では、「利用者 1 人当たりの使用面積の狭さ」が課題として挙げられていた。放課後等デイサービス事業創設時に、利用者1人当たりの使用面積を明確に定めなかったことについては、放課後等デイサービス事業に新たな事業所が参入しやすくするためでもあったと思われる。しかし、放課後等デイサービス事業所の開設後年数の経過に伴い、児童生徒の成長と共に1人当たりの使用面積が開設当初よりも狭くなっている可能性がある。しかし事業所の努力にも限界があると考えられ、事業所が十分なサービスを提供できない皺寄せは、利用者である児童生徒へと返ってくる。またサービスの実施には、利用者・指導員の双方にとって安全・安心な場であることが必要不可欠でもある。そこで「利用者10人以上に対して指導員2人以上」という人員基準を、「状況に応じて利用者 8 人以上」とするといった機動的な人員配置を可能にできないか、今一度検討が必要となるであろう。
放課後等デイサービスの利用については、保護者が居住地の市町村の担当窓口で申請し、サービスを利用できる支給日数が決定された後、事業所と契約を結び利用が開始される。この支給日数量は市町村によって違い、保護者の希望する日数量が支給されない場合もある。そこで本調査結果での「利用時間が足りない」との回答には、放課後等デイサービスの利用がこどもの余暇の充実、交友関係の広がり、家族のレスパイト(休息)につながる良かった点を踏まえ、保護者のもっとサービスを利用したいという需要に対して、市町村が決定できる支給日数や事業所に空きがないといった供給が追いついていない現状があるようだ。しかし、供給する側の事業所数を増加させるとしても、児童生徒の安心・安全な活動や居場所を保障できる十分な事業所の面積を保有し、かつ専門性の高い指導員が確保できる事業所が求められるため、現状としては難しい。
放課後等デイサービス利用におけるニーズについて、小学部ではこどもの交友関係の広がり、高等部では余暇の充実といった年齢による違いがあり、それぞれのニーズは満たされていることが示された。
一方、課題としては指導員の専門性の確保と、利用人数に対する施設設備の狭さが課題として挙げられ、学部間に有意差はなく、共通した課題であることが明らかとなった。また、サービスの利用に関する手続きや利用日数についても、可能な範囲で手続きの簡素化や支給日数量の調整など、保護者の負担感の軽減につながる行政のあり方が期待される。
放課後等デイサービスが創設されて 10 年、障害のある児童生徒のサービス利用は浸透し、大きく広がっている。障害のある児童生徒が放課後等デイサービスでは、年齢の異なる児童生徒が共に過ごす場としての良さを生かしながら、安心・安全な施設設備のもと、個々のニーズに応じた専門性の高いサービスを受けることが期待される。有意義な放課後や休日を過ごすことは、単なる児童生徒の居場所としての意味合いだけでなく、自身の課題に取り組み、社会性を伸長し、余暇を過ごすスキルを獲得していくことができる。発達や成長の促進に大きく寄与し、共に過ごす人たちと関わりながら、家族のレスパイト(休息)が進むと共に、児童生徒の成長がより一層促進され、児童生徒本人やその家族の「Well-Being」につながる点で非常に重要である。
今後も、障害のある児童生徒やその家族が身体的、精神的、社会的に良好に過ごしていくために、放課後等デイサービスの果たす役割は大きい。