2024年法改正に向けて、放課後等デイサービスの対策を考える

目次
1.放課後等デイサービスは潰れることがあるのか?
2.放課後デイサービスの現状
3.今後の動向
4.まとめ
5.これから放課後等デイサービスの開所を検討している方へ

 放課後等デイサービスとは、障害のある就学児童(小学生・中学生・高校生)が学校の授業終了後や長期休暇中に通うことのできる施設で、2012年の児童福祉法改正により設置されました。障害のあるこどもたちの放課後の居場所を作ることで、仕事をしている家庭のサポートに寄与することから障害児の学童といわれることもあります。生活力向上のための様々なプログラムが行われており、トランポリン、楽器の演奏、パソコン教室、社会科見学、造形など習い事に近い活動を行っている施設もあれば、専門的な療育を受けることができる施設もあり、厚労省のデータによると2021年時点では全国に15,000箇所以上あるといわれています。
 そんな多くの方に利用いただいている「放課後等デイサービス」ですが、近年運営が困難になり潰れてしまう事例も見受けられます。潰れていく事業所の多くが「一般的な放課後等デイサービス」であり、「重心向け放課後等デイサービス」は順調に実績を伸ばしているのが印象です。
ここでは、なぜ潰れてしまうのか? 今後どうなってしまうのか? という疑問をわかりやすく解説します。

1.放課後等デイサービスは潰れることがあるのか?

 「放課後等デイサービス」は2012年の法改正を機に、多くの民間企業がこの事業に参入したことで一般的な放課後等デイサービスの施設数が一挙に増え、私たちの生活にも身近な存在になっていきました。参入する企業が増えた経緯は、この事業自体が新しい事業だったこともあり、競合となる事業者も少なく、施設をオープンすれば、すぐに利用者が集まり儲かる見込みがあった、という理由があるためです。
 ですが、儲かる事業ということもあり営利目的に走り、テレビを見せるだけで専門的なケアをしない事業所や不正請求をする事業所といったように、ずさんな運営をする事業所が増えてしまいました。「事業所を増やすだけでなく、サービスの質を向上させなければならない」という考えから、2018年度に報酬改定が行われることとなりました。
 この報酬改定は、利用者に対してサービスの質を担保とすることを目的に行われたのですが、これによって人件費の削減や活動内容の変更を求められる企業が増えただけでなく、次々と赤字経営に陥り、経営が立ち行かなくなり潰れる事業所が急増する結果となりました。
 放課後等デイサービスを長期的に安定した経営を目指していくためには、利用契約を増やすだけでなく、余裕をもった人員配置を心掛け、質の高いサービスを提供することが必要でした。しかしながら、考慮せずに運営していた事業者が、一気に閉所に追い込まれる形となってしまったのです。
 そんな中でも健全に運営していた事業所はあったのですが、そういった事業者側としては、少しでも障害児の居場所を確保し、安心して生活し、自立できる場所を確保しようという気持ちで事業を行っていたにも関わらず、それとは裏腹に、収支上の問題で事業を継続したくても続けられないという「経営問題」に発展してしまっていたのです。

2.放課後デイサービスの現状

 このような経緯から、一般的な放課後等デイサービスではただ施設をオープンするだけでは利用者は集まらず、利用者のニーズをしっかりと把握し、それに応えられる質の高いサービスを提供できる事業所だけが生き残れる時代になっていきました。
 放課後等デイサービスの収入は、90%が国から支払われ、残りの10%が上限ありの利用者負担から得られます。利用回数が増えれば国からの給付金は増えます。しかし、ほかの事業所とサービス面などで差別化ができていなければ利用者は流れ、稼働率を上げることも難しくなります。そうなると、通常の活動の中だけでは単価はなかなか上がりません。
 その結果、契約数を増やすことばかりを考え、上辺だけを整えて保護者や学校との連携が取れなくなってしまったり、施設内の怪我やトラブルが増加したりなどして、サービスの質が落ちて利用者は集まらないという悪循環に陥ってしまうのです。
 その他に人材不足も大きな課題になっています。介護業界全体で言えることではあるのですが、「放課後等デイサービス」の場合は、児童との関係性や責任の重さ、という理由から離職される方が特に多いのです。
仕事の大変さはもちろん労働条件も見合わないといった問題もあるため、給料を上げたり、人手を厚くして休みを作りやすい状況を作るといった対策もあるのですが、潰れる事業所以上に新しい事業所が増えているため、そもそも職員を確保出来ずに継続できないという事例もあるほどです。
 また、報酬の加算を増やそうと思っても、看護師や理学療法士など専門性の高い職員の確保や、設備・備品などの整備、プログラムの構築などの投資が必要になるなど、事業継続への問題は非常に多い状況にあります。
「放課後等デイサービス」は福祉事業であり、ボランティアではありません。事業を営んでいく上ではビジネス的な視点は大切で、事業を黒字化させて稼働率を高く維持していくための方策を考えるなど、経営者としての手腕が試されるようになっており、一昔前のような、競合が少ないからやれば儲かるだろう、という事業ではなくなってきているということがいえます。
 そんな状況の中、2021年度には再度法改正が行われました。この改正では、塾などの機能や預かり中心の事業所があることを問題視することがあり、「放課後等デイサービス」に障害児の学童保育的な役割を担わせることなど、悪い事業所は排除され、より質の高いサービスを求められるようになりました。また、区分に関する概念が大幅に変更されることから、重要事項説明書や契約書の再締結が必要になるなど、新たな対応に追われてしまい、ますます経営が厳しくなる事業者が増えていくことが懸念されました。

3.今後の動向

 現状は更なる悪循環を生んでおり、最近では利益にこだわるあまり、利用者や職員を水増しして不正請求をするといったことが横行しており、問題視されています。こういった事業所は、指定取り消しや営業停止などの行政処分を受けることになるのですが、このような事業所の多くは不正を行う運営体制や目先の利益だけを追う経営方針が原因です。
 障害を持つこども達の行き場をなくしてしまわないためにも、各自治体には営利法人や新規事業所の重点的な実地指導、事業者には業務全体を定期的に見直し、適切なサービスを提供できるよう心がけることが求められています。
そんな中、2024年度に行われる法改正が今話題になっています。その内容は「放課後等デイサービス」が「総合支援型」と「特定プログラム特化型」に2類型化されるというものです。
 潰れる事業所が多いもののニーズは高まる一方で、事業所の数、利用者の数ともに増加傾向にあるのが実態なのですが、それに伴い習い事のような特定のプログラムに偏ったサービスを行う事業所が増えてきています。この状況を変えるために、運動や認知、コミュニケーションなど多様な面で児童の発達を促す「総合支援型」と、理学療法士によるリハビリなど専門性の高い「特定プログラム特化型」に2類型化させ、なおかつテレビを見せるだけなどの単なる預かりや、塾やピアノなどの習い事のような支援は公費の支給対象から外すというのが厚労省の方針です。
 「総合支援型」と「特定プログラム特化型」の分類はどう分けるのか。さらに、それらに属さない塾やピアノだけを行う支援は公費の支給対象から外すとあるが、専門性がないことをどのように認定するのか。専門性さえ高ければ「特定プログラム特化型」になるのではないか、などといった疑問や整理事項はありますが、いずれにせよ、この法改正が行われれば今後はさらに質の高いサービスを提供できる事業所が求められていき、より淘汰されていくことが予想されています。
 また、人材不足が懸念されてはいますが、職業としての将来性は高いことが予想されます。その理由として、少子高齢化により児童数が少なくなるが、児童指導員という仕事は人と密接に関わるためAIにはできないことも多く、仕事をAIに取られるという不安が少ないこと。また、福祉に携わる職業は世の中になくてはならない存在になりつつあるにも関わらず、福祉業の低賃金や人手不足が社会的に問題視されていることを受けて、政府としても何かしら対策をとる可能性もあります。
 様々な仕事が自動化されていき、多くの職種が無くなるといわれる今後の世の中において、AIよりも人が求められる仕事はそれだけで希少価値は高くなります。今後そういった職種を目指す人たちが増えることも想定されるため、利用者だけでなく職業先としても重要な事業であるといえます。

4.まとめ

 以上、説明したとおり、3年おきに行われる法改正により事業所としてのあり方やサービスの質、報酬内容が大きく変わることで潰れる事業所が増えてはおりますが、障害等を持つこどもの増加や働く女性が増えているという背景を考えると、「放課後等デイサービス」の需要は高まる一方であり、事業所の数は増え続けていくと思われます。
社会の需要が高いため事業所が増える。ただ増えただけでは意味がなく、質の高いサービスを行える事業所を増やすために法改正をする。不正をしている事業者やサービスの質が問われる事業所は潰されていく。世間の需要は依然として高いため新たな事業所が増える。
 このようなサイクルを回していきながら、少しずつ少しずつ良い事業所の割合を増やしていく。ということが、結果として利用者のためにできることなのかもしれません。
 一番に考えなければならないのは、こういった施設を必要とする児童と保護者がいるということです。そういった方々が安心して利用できる事業所を一つでも増やしていくことが求められている、ということを忘れずに課題解決をし続けていくことが必要になっていきます。

5.これから放課後等デイサービスの開所を検討している方へ

 これから放課後等デイサービスを経営していこうと計画している方には、ぜひ「重心向け放課後等デイサービス」も選択肢とされることをお薦めします。なぜなら、本記事のように経営が困難になる事業所の多くが「一般放課後等デイサービス」だからです。参入障壁が低く見える一般放課後等デイサービスですが、低いからこそ競合他社が多く、よりオーナー自身の経営手腕が問われます。
 「重心向け放課後等デイサービス」は、重症心身障害児を受け入れるための放課後等デイサービスです。一般放課後等デイサービスよりもより専門性が高く、市場ニーズに対して提供できる事業所がまだまだ不足しています。また、厚生労働省としても重心放課後等デイサービスを増やしていきたいと考えており、自治体からの報酬額も一般放課後等デイサービスの約3倍もあります。重心放課後等デイサービスは経営方法を確立することができれば、安定的に運営が可能です。

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