知的障害とは、一般的に、認知や言語などにかかわる知的能力や、他人との意思の交換、日常生活や社会生活、安全、仕事、余暇利用などについての適応能力が、同年齢の児童生徒に求められる程までには至っておらず、特別な支援や配慮が必要な状態であるとされます。また、この状態は、環境的・社会的条件で変わり得る可能性があるといわれています。
文部科学省の「教育支援資料」によると、知的障害は、知的機能の発達に明らかな遅れと、適応行動の困難性を伴う状態が発達期に起こるものとされています。
つまり、知的障害とは①知的機能の発達の遅れ、②適応行動の困難性が有意に見られる状態であり、単に知的な発達の遅れだけで判断するものではないということができます。
運動能力とは、自分で自分のカラダをコントロールしたり、物や人を操作したり、物や人に対応して自分のカラダを制御したりする力のことをいいます。これらが発達することで、さまざまな能力が向上するものです。
一般に、知的障害児の運動能力は、アンバランスであり、運動機能が、①同年齢の健常児より劣っている場合が多く、統合・協応能力を必要とするような複雑な運動ほど著しいといわれます。また、②知的障害の原因によって、運動発達の特性が異なり、例えば、ダウン症児の場合は全身の筋肉が柔らかくなった状態(筋緊張低下)で、平衡機能の未熟さがみてとれます。知的障害を伴う自閉症児の場合は、カラダの潜在的な知覚(身体図式)が未熟であったり、運動を達成するために必要となる”カラダの使い方”(運動企画力)が低かったりします。さらには、③指導によって発達が促進する面と、発達に多くの時間を要する面とがあります。
もともと運動自体が「うまくできない」状態にある知的障害児は、「やりたくない」と運動を拒否し、「運動をしない」状態になり、その結果「動くのが億劫」になり、再び「やりたくない」の状態に入るという「運動嫌いのスパイラル」に陥っているケースも度々目にすることがあります。
「やりたくない」を起こさないためにも、まずは失敗させない工夫(課題の小分け=スモールステップ、不得意を補う教材の工夫等)をし、自信を持たせることがなによりも大切なことだといえます。
知覚とは、外界の刺激や自分の体内からの刺激を受容し、それによって周囲の事物・事象、自分自身の状態等について知る働きのことをいいます。
認知とは、感覚・知覚・記憶・イメージ形成、判断、推理などの情報処理の過程における一切の知的機能のことをいいます。
一般に、知的障害のある児童生徒の知覚機能は、未分化であるといわれています。例えば蜂の巣図形や重なり図形、埋もれ図形などを用いた実験から、次のことがいえるといいます。
・全体としてまとまっている形態から、一部の図形を抽出する課題に、困難さを示す場合が多い。
・経験上よく知っている事物では、知覚は良好であるが、幾何学図形などの抽象度の高い図形での知覚には、困難さを伴う。したがって、〇△▢などを学習の手がかりを刺激として用いることがありますが、児童生徒によっては図形の抽出に困難さがあることがいえる。
また、知覚体制については、次の実験が有名です。
A、Bの絵を提示し、「ア」のカードを見せ「A、Bどっち?」と尋ねる実験です。
上の問題で、Aの絵を選んだ場合、部分視であるということができます。逆に、Bの絵を選んだ場合、全体視であるということができます。
さて、知的障害の児童生徒は部分視なのでしょうか? それとも全体視なのでしょうか? 答えは、部分視です。部分に固執するため、全体を捉えることが難しいのが特徴であるといえます。
上記のように運動機能や知的機能の特徴によって、知的障害のある児童生徒は、自分がうまく出来ないということを必要以上に自覚してしまい、自信を失うことが度々あります。
障害のある子が、社会の中でしっかりと生きていくためには、その子にあった指導があり、その子が自分らしさを発揮できる集団があり、その子を大切にする地域があってはじめて、自分らしく生きることができるといえます。
障害のある子を対象に授業をする場合、興味関心を大切にしなさい、とよくいわれます。しかし、一般に知的障害のある児童生徒は、興味関心の幅がとても狭い状態にあります。こどもの好きなこと、得意なものを授業に取り入れることはとても有効な方法ですが、並行して、興味関心を広げられるような支援をすることも必要なことだといえます。
知的障害と発達障害はそれぞれ異なる障害ですが、『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版』では、知的障害も発達障害も同じ神経発達症群(神経発達障害群)としてまとめられていることからも共通点があります。
神経発達症群は各障害が併存する場合もあるため、例えばASD(自閉スペクトラム症)の人が知的障害を持ち合わせることもあります。逆に知的障害の人に発達障害の傾向が見られることもあります。
そのため、困りごとから障害を判断するのが難しいことがあります。障害が判明すれば、適切な対策やサポートをしやすくなります。気になることがある場合は自己判断せずに医療機関や、子育ての相談窓口に相談することをお勧めします。
自閉症とは、3歳位までに現れ、他人との社会的関係の形成が困難であり、言葉の発達の遅れもみられ、興味や関心が狭く、特定のものにこだわることを特徴とする行動障害です。中枢神経系に何らかの要因によって引き起こされた機能不全があると推定されます。大別すると二つの自閉症があると考えられます。
→知的発達の遅れを伴う自閉症
→知的発達の遅れを伴わない自閉症
学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、または推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものです。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されますが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではありません。
知的障害のある児童生徒の学習現場においてはどんな特性がみられるでしょうか。以下まとめてみました。
○学習によって得た知識や技能が断片的になりやすく、実際の生活の場で応用されにくい。
○成功経験が少ないことなどにより、主体的に活動に取り組む意欲が十分に育っていない。
○実際的な生活経験が不足しがちであることから、実際的・具体的な内容の指導が必要であり、抽象的な内容の指導よりも効果的である。
実際に個別の指導計画を立案し、授業を行うに当たっては、上記の特性を踏まえ、ひとり一人に応じたきめ細やかな配慮が必要であるといえます。
そこで求められる現場での対応の指針は、以下のように考えられています。
①児童生徒の実態等に即した指導内容を選択・組織する。
②児童生徒が自ら見通しを持って行動できるよう、日課や学習環境などわかりやすくし、規則的でまとまりのある学校生活が送れるようにする。
③望ましい社会参加を目指し、日常生活や社会生活に必要な技能や習慣が身につくようにする。
④職業教育を重視し、将来の職業生活に必要な基礎的な知識や技能および態度が育つよう指導する。
⑦児童生徒の興味・関心や得意な面を考慮し、教材・教具等を工夫するとともに、目的が達成しやすいように、段階的な指導を行うなどして、児童生徒の学習活動への意欲が育つように指導する。
⑧できる限り児童生徒の成功経験を豊富にするとともに、自発的・自主的な活動を大切にし、主体的活動を促すよう指導する。
⑨児童生徒ひとり一人が集団において役割が得られるよう工夫し、その活動を遂行できるよう指導する。
⑩児童生徒ひとり一人の発達の不均衡な面や情緒の不安定さなどの課題に応じて指導を徹底する。
これらの観点は、知的障害児童生徒への対応の基本であり、さらには本質的概念と言うことが出来ます。知的障害児童生徒への教育を考えるときのキーワードは、「生活に根ざした」「体験」「スモールステップ」などが挙げられます。
知的障害の児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の小学部御呼び中学部の各教科については、いわゆる小中学校に準ずる教育課程ではなく、知的障害独特のものであり、学校教育法施行規則第126条の2及び第127の2においてその種類が規定されています。
また、特別支援学校学習指導要領解説総則等編においては、「知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校においては、児童生徒の知的障害の状態等に即した指導を進めるため、各教科、道徳、特別活動及び自立活動を合わせて指導を行う場合と、各教科等それぞれの時間を設けて指導を行う場合がある」と示されています。
最後に知的障害教育の各教科がどのように考えられているかをお伝えします。特別支援学校小学部・中学部学習指導要領の知的障害者である児童生徒に対する教育で位置づけられた各教科の名称は、小学校や中学校の教科と名称が一緒でも、目標や内容は知的障害児童生徒の特性を踏まえ、独自に設定されているのが特徴です。
生活、国語、算数、音楽、図画工作及び体育の6教科
国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育及び職業・家庭の8教科
なお、これら以外に外国語科を加えることもできます。
以上の各教科の内容は、学年別ではなく、小学部は3段階、中学部は1段階、高等部は2段階(ただし、専門教科は1段階)で示されています。知的障害の状態は、ひとり一人様々であり、個人差が大きいため、段階で示した方が、実態に即した内容を選択しやすいためのものです。一方で、個々の障害の状態に応じつつも、その年齢段階にふさわしい内容や活動の選択に配慮することも大切であるといえます。
<小学部1段階>
主として教師の直接的な援助を受けながら、児童が体験し基本的な行動の一つ一つを身に付けることをねらいとする内容
<小学部2段階>
主として教師からの言葉かけによる援助を受けたり、教師が示す動作や動きを模倣したりして、児童が基本的な行動を身に付けることをねらいとする内容
<小学部3段階>
主として児童が主体的に活動に取り組み、社会生活につながる行動を身に付けることをねらいとする内容
主として経験の積み重ねを重視するとともに、他人との意思疎通や日常生活への適応に困難が大きい生徒にも配慮しつつ、生徒の社会生活や将来の職業生活の基盤を育てることをねらいとする内容
<高等部1段階>
中学部の内容やそれまでの経験を踏まえ、主として卒業後の家庭生活、社会生活および職業生活などを考慮した基礎的な内容
<高等部2段階>
高等部1段階を踏まえ、比較的障害の程度が軽度である生徒を対象とした発展的な学習内容
こどもたちの日常生活が充実し、高まるように日常生活の諸活動を適切に指導するものです。そのため、学校におけるこどもの日常的な生活を、より自立的に、より発展的に展開できるよう支援することが必要となります。
日常生活の指導のポイントの一つとしては、生活の流れに沿って、実際的な状況下で指導を行うことが挙げられます。非日常的な状況下で不自然な指導を行うのは適切ではありません。また、日常生活は家庭でも営まれているものであることから、家庭との連携なしには成立しません。
遊びを学習活動の中心に据えて取り組み、身体活動を活発にし、仲間とのかかわりを促し、意欲的な活動をはぐくみ、心身の発達を促していくものです。
こどもたちが生活上の目標を達成したり、課題を解決したりするために、一連の活動を組織的に経験することによって、自立的な生活に必要な事柄を実際的・総合的に学習するものです。
生活単元学習では、一定期間、一定の生活上のテーマに沿って、一連の活動に取り組みます。単元の長さはさまざまですが、1か月前後にする場合が多いようです。
作業活動を学習活動の中心にしながら、こどもたちの働く意欲を培い、将来の職業生活や社会自立に必要な事柄を総合的に学習するものです。学校を卒業した後、働きながら人と交わる社会生活ができるようになることを目指しています。