肢体不自由とは運動機能の障害のことです。一口に運動障害といっても、それを引き起こす疾患にはいくつもあります。特に脳に起因する疾患は、運動障害にとどまらず様々な障害を伴うことがあります。肢体不自由児の教育を考える時は、運動障害の状態の正しい理解と、それに伴う様々な障害の背景を踏まえた適切な指導が必要となります。
新生児期には、まず口唇反射や把握反射がみられ、やがて消えてしまいます。また、4~6か月の頃には、非対称性緊張性頸反射(乳児を仰向けに寝かせ、首を一方に向けると顔面側の上下肢が伸展し、後頭側が屈曲する反応。例:首を右に向けると、右の手足は伸び、左の手足は曲がる)、対称性緊張性頸反射(乳児に見られる原始姿勢反射の一つ。 腹臥位で顎を上げると腕が伸びて足が屈曲し、顎を下げると、逆に腕が曲がって足が伸びる)、緊張性迷路反射(伏臥位になると、上肢が屈曲し腰が浮く屈曲優位の 姿勢になる。背臥位になると、四肢や体幹が伸びた伸筋優位の姿勢になる)などがみられ、やがて大脳皮質の成熟に伴ってこれらの反射は抑制されていくことになります。その後、立ち直り反応や平衡反応など姿勢を維持するために必要な反応があらわれます。
運動発達とは、反射・反応の抑制と促進のプロセスであり、随意運動(自らの意思を伴う運動)の獲得のプロセスであるとも言えます。そこには目で物を見るために頭を上げたい、対象物に手を伸ばしてつかみたい、などの意図がなければ随意運動は獲得されません。この随意運動には、「感覚器の動き」、「脳を含む神経の動き」、「筋肉と骨の動き」の3要素があり、それぞれの発達がそろって、協力することにより、初めて目的にかなった運動が可能になります。
発達は、ある段階からかなり高次の段階へと飛躍的に進むことはなく、必ず段階を踏んで進んでいきます。しかし、その進み方には、性差、年齢差、個人差が見られ、運動能力・運動技能の発達には、運動経験の差による違いが関係すると言われています。運動発達は、特に生後1年間の発達速度は著しいものがあります。
運動発達の傾向として、第1に「頭部から下部への発達」があり、頭部から体幹(たいかん)下部にかけて眼球運動、上肢(じょうし:肩口から先の手)の運動、下肢(かし:脚部)の運動へと順を追って発現するのが代表的なものです。第2に「中枢から末梢への発達」があり、身体の中枢部が末梢部より先に成熟し、機能を発揮します。第3に「全体から部分への発達」です。玩具を上肢で操作する場合、肩、肘など、体幹あるいは体幹に近い体の部位の操作から出現していきます。第4に「両側から片側への発達」です。最初、物を持ったり、食べたりするのは両手であり、その後、片手を使うことが増え始めて、左右の上肢の機能が分化し、利き手がはっきりとしてきます。第5に「粗大運動から微細運動への発達」です。乳児期の初期には、上下肢は体幹とともに粗大で不器用な運動ですが、やがて細かい、分化した目的に合った正確な運動に発達していきます。
肢体不自由とは、発生原因のいかんを問わず、四肢(しし)と体幹に永続的な障害がある運動機能障害のことです。四肢は上肢と下肢、体幹は胴体を指します。
肢体不自由という用語は、療育の父と呼ばれる東大名誉教授の*高木憲次博士が昭和の初めに提唱したものです。
*高木憲次(たかぎ のりつぐ、明治22年(1889年)2月9日) – 昭和38年(1963年)4月8日)は、大正から昭和にかけての整形外科医。1926年(大正13年)、東京帝国大学教授、後に日本医科大学教授を歴任。日本の肢体不自由児教育の創始者。日本の「肢体不自由児の父」と呼ばれ、「夢の楽園教療所」を提唱し,日本で初めて「肢体不自由児調査」という根拠に基づいて、肢体不自由養護施設が日本に必要であると説いた。日本初の肢体不自由療育施設である整肢療護園の初代理事長。レントゲン研究の第一人者でもある。
肢体不自由の原因疾患は、医療の進歩とともに大きく変容しています。現在、特別支援学校(肢体不自由)の在籍児童生徒における起因疾患として最も多いのが、脳性疾患、次いで、筋原性疾患、脊椎脊髄疾患、骨関節疾患、骨系統疾患、代謝性疾患とされています。ここでは、主な三つの疾患について説明します。
脳性疾患で最も多く見られるのが、脳性まひです。我が国では、1968年厚生省脳性麻痺研究班の「受胎から新生児(出生後4週間)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、また将来正常化するであろうと思われる運動発達遅滞は除外する」という定義が用いられています。
脳性まひは、運動機能障害だけでなく、てんかん、知的障害、コミュニケーション障害などを随伴します。脳障害が広範囲かつ重症であれば、四肢まひとともに嚥下障害(食べること、飲み込むことの障害のことで、上手く食べられない、飲み込めない状態をいう)・呼吸障害も合併しやすく、加齢により、障害された中枢神経機能の低下が比較的早期に起こり、側わん(弯:背骨が左右に弯曲した状態で、背骨自体のねじれを伴うことがある)・拘縮変形(脳の血管が詰り脳の一部がダメージを受けることで、麻痺側の腕や足を動かすことができない状態になると、関節が固まってしまう)などや呼吸障害、胃食道逆流症など二次障害を合併しやすくなります。
脳性まひは、痙直型、アテトーゼ型、失調型、混合型などに分類されます。また部位別に四肢まひ、両まひ、3肢まひ、片まひ、に分類されます。
《痙直型》は、筋肉のこわばり・硬さ(痙縮・固縮)をもち、常に筋緊張が高い(亢進)状態にあり、なめらかな動きができません。拘縮、変形、股関節脱臼をきたしやすい傾向があります。
《アテトーゼ型》は、筋の緊張が安定せず変動し、姿勢が定まらずに崩れやすく、不随意運動が出てしまいます。原始反射である非対称性緊張性頸反射(ATNR)に影響され、左右対称姿勢がとりにくく正中指向動作姿勢困難(例:仰臥位で胸の前(正中)で両手合わせができない)など、坐位に必要な体幹の安定性だけでなく、上肢操作の困難さの原因となります。心理的要因で筋緊張亢進が起きやすく、特に思春期年齢となり筋緊張が亢進することが多く見られます。
《失調型》は、小脳障害が主な原因で起こります。小脳半球の症状は、失調性歩行、企図振戦(自分から何か動作を起こしたときにふるえが発生するもので、動作が目標に達したときにふるえが最大になり、その姿勢を維持するとふるえが持続する)、眼振、構音障害(言葉を正常にはっきり発音する能力が失われる障害)などが見られ、小脳虫部では、体幹失調が主症状となります。
○デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー
我が国では最も頻度が高く10万人あたり5人の発症といわれています。X連鎖劣性遺伝で、通常は男子のみに発症します。
運動症状として、幼児期に走るのが遅い、転びやすい、階段昇降がうまくできないなどが見られ、筋疾患に特有のGowers徴候(しゃがみ姿勢から立ち上がるときに膝に手を当て、膝を進展させて固定してから上体を起こし、立ち上がる)が見られます。
小学校段階で歩行が困難となり、その後、体を起こしていることが難しくなっていきます。筋力低下、関節拘縮・側わん変形進行、呼吸筋の低下による呼吸障害さらに心筋症を合併し、呼吸不全か心不全となり20歳前後で亡くなることが多く見られました。しかし、最近の在宅呼吸器療法や非侵襲的人工呼吸器療法が普及し、平均余命が伸びています。
○先天性福山型筋ジストロフィー
10万人あたり2.9人の発症といわれています。遺伝子産物フクチンによるもので、常染色体劣性遺伝で発症します(日本人の保因率は90人に1人)。乳児期より全身の筋力・筋緊張低下が認められ、ときに出生時より関節拘縮を伴います。
合併症として脳形成異常を伴い、知的障害(中等度~重度)、てんかん、近視などがあります。思春期以後に呼吸・心筋障害の進行、嚥下障害が出現し、悪化します。
脊椎骨の後側が欠損して奇形の脊髄組織が嚢胞状に突出する先天性脊椎奇形で、脊椎まひが起こります。腰仙椎部に多く発生します。
原因はまだ特定されていませんが、一卵性双生児の調査から一部は遺伝が関与していると考えられています。
出生直後の脳外科治療、乳幼児期の歩行へ向けてのリハビリテーション・整形外科手術・就学前までの失禁への対応の確立、学童期以降の運動機能の退行や種々の合併症への対応、青年期における社会的自立に伴う課題への対応などライフステージに沿って治療・療育上の課題があります。
運動発達、反射・反応の発達と目と手の運動の発達は相互作用があり、例えばものを操作することで姿勢がより安定し、上肢の運動がより洗練されたものとなります。それを元に認知発達が進み、さらに運動が細かにコントロールされていくことで運動発達も進んでいきます。
しかし、脳性まひなどでは、反射・反応の発達が不十分であり、筋緊張が亢進するため、安定した坐位や円滑な上肢の使用が著しく制限され、能動的な視覚探索と手の使用が困難となり、循環反応が起こりにくい状態となります。その結果、外界の刺激を自己の内的なモデルに取り入れにくい状況が生まれます。
移動運動は、首すわり、肘立て、腕立て、寝返り、腹ばい、四つ這い、つかまり立ち、つたい歩き、ひとり立ち、独歩と発達していきます。乳児は腹ばいを獲得した頃には、目で見て興味ある物に移動していき働きかけることができるようになります。
さらに、運動発達が進めば行動範囲は広がり、より多くの知識を得るようになります。移動運動の制限は、この機会をかなり制約してしまいます。歩行が獲得されない場合は、自分の意思で自由に移動することが難しく、屋内外において様々な探索をすることができなくなります。同年齢のこどもたちと比べて、物事に対する直接経験が著しく少なくなり、認知発達や社会性の発達に好ましくない結果をまねきます。
肢体不自由の中でも脳性まひは、脳損傷によるもので、様々な認知面の障害が報告されています。特に視知覚の問題は古くから研究されています。一つは、知覚の固さです。図地反転図形で一つの見え方からもう一つの見方に任意に移行できないといった困難があります。また、図地知覚障害(図と背景となる地が知覚できない)も多くみられ、例えば本を読むとき、注目すべき文字(図)が周囲の文字(地)に妨害されて、文章を目で追って読むことができないといった状態になります。
脳性まひ児の知覚の固さや図地知覚障害は、脳損傷に基づく視知覚障害であると考えられており、特に痙直型の脳性まひに多いと言われています。
脳性まひ児の50~70%が言語に関する何らかの問題を持っていると言われています。まず、脳性まひでは発声発語器官の運動が妨げられ、発語機能の発達が阻害されることにより、音声言語の不使用、あるいは音声言語の明瞭度や流暢さが低い発語にとどまることがあります。脳性まひ児の多くは胸郭や腹部の動きや頸部の筋緊張のため、発声に必要とされる十分な呼吸を行うことが上手ではないことが多くあります。
発語は、口唇、舌、軟口蓋、咽頭などの構音器官の形を変化させ、語音を作り出すことですが、これが不適切な動きのために正確な語音が形成されにくくなります。
脳性まひ児では、自発的な感覚運動経験の不適切さや周囲の与える言語的・非言語的刺激の不適切さのため、概念形成や言語発達が遅滞しやすくなります。また、対人接触の機会とその内容が制限されるため、多様なコミュニケーション手段の使用や、様々な場面や人に適したコミュニケーション技能の未熟さを持ちやすくなります。これは、周囲の人々の対処の仕方によって二次的に作られてしまうことが多々あります。
非脳損傷性の肢体不自由児は、知的障害のない場合も多くありますが、肢体不自由によって教科の学習が十分に行えないことが多くみられます。例えば、授業において板書をノートに書き写すことをはじめ、文章を書くことなど上肢に障害があるために時間を費やすことになり、一定時間で終える授業中に十分な学習ができないことがあります。特に算数の計算では、小学校1年生程度のものなら暗算で対処していても、繰り上がりや筆算が必要になると上肢に障害がある場合大きな困難を伴います。図形に線を引きながら考える問題等は、線が引けないために適切に思考することができません。つまり、上肢の使用が困難なことから、思考の流れが成り立ちにくくなってしまいます。
一方、脳損傷性の肢体不自由である脳性まひは、先に述べた視知覚障害、知覚運動障害などの困難に加え、固執性、転導性、抑制困難などの行動特性のため学習に取り組みにくいことが想定されます。
社会性の発達のためには、乳幼児期において養育者との間で十分な愛情と信頼が形成されなければならず、また遊びを通しての集団への参加がなくてはなりません。この段階で肢体不自由児は様々な困難に出会うことになります。
養育者の働きかけに対して、反応が十分でない場合、養育者の働きかけも不十分になる傾向が指摘されています。遊びを通して集団に参加するときも、上肢の機能や移動能力に制限がある場合、ただ参加させれば何とかなるというものではありません。
肢体不自由児の多くは乳幼児期から学齢期に至るまで養育者の介助を受けることが多くあります。自分一人でなんとかやれる段階まで発達している場合であっても、本人が行うと時間がかかりすぎるため、大人が介助し続けることが多くあります。
この繰り返しは、年齢に応じた社会的スキルを学習する機会を奪い、自分が決定して行動するという経験が日常生活の中で限られたものとなってしまうなど、社会性の発達を阻害することになっています。
肢体不自由による移動能力の制限も、友達と遊ぶこと、買い物をすることなど同年齢のこどもたちに比べ、かなり経験が少なくなります。
身体の動きに困難があることから、様々な体験をする機会が不足しがちであり、そのため表現する意欲に欠けたり、表現することを苦手としたりすることが少なくありません。近年、児童生徒の障害が重度化するにつれて表現に対する困難さも大きくなっており、児童生徒の実態に応じて表現する力を育成に努めることが重要なこととなっています。
表現する力を育成するためには、体験的な活動を通して表現しようとする意欲を高めることが大切です。そのためには、日常生活や学習活動において不思議なことや面白いことに気づいたり、美しいものに感動したりする機会が十分になくてはなりません。そのために、各教科等の指導においては、自分の手で触れたり、実際の指導場面を見たり、具体物を操作したり、色々な素材に親しみ、作品をつくったりする体験的な活動を計画的に確保することが必要となります。こうした具体的な体験を通して得られた気づきや感動が生き生きとした表現へとつながります。
また表現しようとする意欲を高めながら、児童生徒の言語発達の程度や身体の動きに応じて、表現するために必要な知識や技能、態度や習慣の育成に努めることが重要です。また、表現は話し言葉や書き言葉をはじめとして、絵画や歌唱など様々な方法によっておこなわれます。指導にあたっては、感じたことや考えたことを自由に表現させるなど児童生徒の意欲を大切にしながら、次第に多様な表現ができるように指導の順序や方法を工夫することが目指されています。
児童生徒の身体の動きやコミュニケーションの状態等から学習に時間がかかること、自立活動の時間があること、肢体不自由児施設等における治療や訓練などの関係から、授業時数が制約されるなどの理由によって指導内容を精選することが必要となります。
指導内容の精選に当たっては、児童生徒一人一人の身体の動きの状態や生活経験の程度等実態を的確に把握し、それぞれの児童生徒にとって基礎的・基本的な指導内容は何かということを十分見極めることが大切なこととなります。さらに、指導内容の精選とともに各教科の目標と指導内容との関連を十分に研究し、その重点の置き方や指導の順序、まとめ方を工夫し、指導の効果を高めるようにすることも必要となります。
身体の動きやコミュニケーションが困難な児童生徒に対して、各教科における実践的・体験的な活動を展開する際には、その状態を改善・克服するように指導や援助を行うことが必要です。そのためには、特に、自立活動の時間における指導との密接な関連を図り、学習効果を高めるよう配慮しなければなりません。したがって、指導計画の作成に当たっては児童生徒についてどのような点に配慮して指導を行うのかを明確にしておくとともに、具体的な指導方法を身に付けておくことが求められます。
なお、このように各教科等での実践的・体験的な活動の際には、児童生徒の身体の動きやコミュニケーション等の困難の改善に重点が置かれすぎて、各教科等の目標を逸脱してしまうことのないよう留意することが求められます。
効果的に学習を行うためには学習時の姿勢に十分配慮することが重要です。学習活動に応じて適切な姿勢を保持できるようにすることは、疲労しにくいだけでなく、身体の操作等も行いやすくなり、学習を効果的に進めることができます。例えば、文字を書くこと、定規やコンパスを用いること、粘土で作品をつくる際などは、体幹が安定し、上肢が自由に動かせることなどが大切です。また、よい姿勢を保持することは、学習内容を理解する点からも重要です。例えば、位置、方向、遠近の概念は、自分の身体が基点となって形成されるものですから、安定した姿勢を保つことにより、こうした概念を基盤とする学習内容の理解が深まることになります。このように、学習活動に応じて適切な姿勢がとれるように椅子や机の位置や高さを調整することについて、児童生徒の意見を聞きながら工夫し、児童生徒自らがよい姿勢を保つことに注意を向けるよう日頃から指導することが大切です。
一方、認知の特性に応じて、指導を工夫することも重要です。脳性疾患等の児童生徒の場合には、課題を見て理解したり、聞いて理解したりすることに困難がある場合があります。こうした場合には、課題を提示するときに注目すべきところを強調したり、視覚と聴覚の両方を活用できるようにしたりなど指導方法を工夫することが大切です。また、地図や統計のように多数の要素が盛り込まれている課題や、理科の実験のようにいろいろな要素を考慮する必要がある課題について、順序立てて考えることを繰り返し指導することが必要となります。
身体の動きや意思の表出の状態により、歩行や筆記などが困難な児童生徒や、話し言葉が不自由な児童生徒などに対して、補助用具や補助的手段を活用し、指導の効果を高めるようにすることは、極めて大切なことです。
補助用具の例として、歩行が困難な児童生徒については松葉づえ、車いす、歩行器などが、また、筆記の困難な児童生徒については、筆記用自助具や筆記の代替をするコンピュータ等があげられます。また補助的手段の例としては、身振り、コミュニケーションボードなどの活用などがあげられます。
なお、補助用具や補助的手段の使用の是非は、児童生徒の身体の動きや意思表出の状態やその改善の見通しに基づいて、慎重に判断することが重要です。将来、改善が見込まれる児童生徒については自立活動の指導との関連に配慮することが大切です。
特別支援学校学習指導要領解説自立活動編(幼稚部・小学部・中学部・高等部)を基に、肢体不自由教育に関する自立活動の主な指導内容を整理すると以下のようになります。
※ここで示した内容のみが指導の対象となるわけでは勿論ありません。
(1)生活のリズムや生活習慣の形成
・体温調節、覚醒と睡眠など健康状態の維持・改善に必要な生活リズムの安定を図る。
・食事や排泄などの生活の習慣化、衣服の調節、室温・換気、感染予防のための清潔の保持など健康な生活環境をつくること。
(2)病気の状態の理解と生活管理
・二分脊椎の児童生徒の場合は、尿路感染の予防のため排泄指導、清潔の保持、定期的検尿等に十分留意した指導をすること。
・進行性疾患のある場合は、絶えず自分の体調や病気の状態に注意するとともに、これらについて正しく理解して、身体機能の低下を予防するような生活の自己管理に配慮した指導をすること。
(3)身体各部の状態の理解と養護
・下肢切断によって義肢を装着している場合は、断端の清潔保持等、当該部位に関して自ら適切な養生を施し、義肢を適切に管理すること。
・床ずれ等のある場合には体位の変換を行って、患部への圧迫が長く続かないようにし、床ずれが生じやすい部位の皮膚を清潔に保つこと。
(4)健康状態の維持・改善
(1)情緒の安定
・障害があることや過去の失敗経験などにより、二次的に生じる自信損失や情緒が不安定になる場合には、自分のよさに気づくようにしたり、自信がもてるように励ましたりして、活動への意欲を促すこと。
・障害が重度で重複している児童生徒の中で、情緒が安定しているかどうかを把握することが困難な場合には、安定した健康状態を基盤にして「快」の感情を呼び起こし、その状態を継続できるようにするための適切なかかわり方を工夫すること。
(2)状況の理解と変化への対応
・場所や場面が変化することにより、心理的に圧迫を受けて適切な行動ができなくなる児童生徒の場合には、教師と一緒に活動しながら徐々に慣れるように指導すること。
(3)障害による学習・生活上の困難を改善克服する意欲
・肢体に不自由があるために移動が困難な児童生徒の場合、手段を工夫し実際に自分の力で移動ができるようになるなど、障害に伴う不自由を自ら改善し得たという成就感がもてるような指導をおこなうこと。
・障害の状態が重度のため、心理的な安定を図ることが困難な児童生徒の場合には、寝返りや腕の上げ下げなど、不自由な運動・動作をできるだけ自分で制御するような指導を行い、自己を確立し、障害による学習・生活上の困難を改善・克服する意欲を育てること。
(1)他者とのかかわりの基礎
・人に対する認識がまだ十分に育っておらず、他者からの働き掛けに反応が乏しい重度の障害がある児童生徒の場合には、抱いて揺さぶるなど児童が好むかかわりを繰り返し行って、かかわる者の存在に気付くことができるように指導すること。
(2)他者の意図や感情の理解
(3)自己の理解と行動の調整
・経験が乏しいことから自分の能力を十分理解できていない場合には、自分でできること、補助的な手段を活用すればできること、他の人に依頼して手伝ってもらうことなどについて、実際の体験を通して理解を促すこと。
(4)集団への参加の基礎に関すること
(1)保有する感覚の活用
・視覚、聴覚、触覚と併せて、姿勢の変化や筋、関節の動きなどを感じ取る感覚についても十分活用すること。
(2)感覚や認知の特性への対応
・位置関係の認知が困難で、文字や図形を正しく書くことができない場合には、一つの文字や図形を取り出して輪郭を強調して見やすくしたり文字の部首や図形の特徴を話し言葉で説明したりすることなどで効果的に学習すること。
(3)感覚の補助及び代行手段の活用
(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握
(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成
・身体の動きの不自由さから、上下、左右、前後、高低、遠近等の空間に関する概念の形成が妨げられ手いる場合には、自分の姿勢と対象の位置関係を意識化し、言葉と結び付けながら空間に関する概念の形成を図るよう指導すること。
(1)姿勢と運動・動作の基本的技能
・全身または身体各部位の筋緊張が強すぎる場合は、その緊張を弛めたり、弱すぎる場合には、適度な緊張状態をつくりだしたりすることができるように指導すること。
(2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用
・表現活動を豊かにするために、コンピュータの入力動作を助けるための補助用具も重要なものとして活用すること。
・補助用具を必要とする場合には、用途や目的に応じて適切な用具を選び十分使いこなせるように指導すること。
(3)日常生活に必要な基本動作
(4)身体の移動能力
・障害の状態により、筋力が弱く、歩行に必要な緊張が得られない児童生徒の場合には、歩行器を用いた歩行を目標に掲げて指導を行ったり、歩行が困難な場合には、車いすによる移動を目標にしたりするなど、日常生活に役立つ移動能力を習得するよう指導すること。
(5)作業に必要な動作と円滑な運動
・姿勢保持と上肢の基本動作の習得が前提として必要となる。自分一人で、あるいは補助的手段を活用して座位保持ができ、机上で上肢を曲げたり伸ばしたり、ものを握ったり放したりするなどの動作を指導すること。
・作業を円滑にする能力を高めるためには、両手の協応や目と手の協応の上に、正確さや速さ、持続性などの向上が必要となる。さらに、その正確さと速さを維持し、条件が変わっても持続して作業を行うことができるよう指導すること。
(1)コミュニケーションの基礎的能力
・話し言葉によるコミュニケーションにこだわらず、本人にとって可能な手段を講じて、より円滑なコミュニケーションを図る指導をすること。
(2)言語の受容と表出
・内言語や言葉の理解には困難がないが、話し言葉が不明瞭であったり短い言葉を伝えるのに相当な時間がかかったりする場合には、発語機能の改善を図るとともに、文字の使用や補助的手段の活用を検討して意思の表出を促す。
(3)言語の形成と活用
(4)コミュニケーション手段の選択と活用
(5)状況に応じたコミュニケーション
・相手や状況に応じて,適切なコミュニケーション手段を選択して伝えたりすることや、自分が受け止めた内容に誤りがないかどうかを確かめたりすることなど、主体的にコミュニケーションの方法等を工夫すること。
・友人や目上の人との会話、会議や電話などにおいて、相手の立場や気持ち、状況などに応じて、適切な言葉の使い方ができるようにしたり、コンピュータ等を活用してコミュニケーションができるようにしたりすること。