聞きなれない障害に、ディスレクシア(Dyslexia)という「文字の読み書きのみ」に難しさを感じる状態を指す学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)の一つがあります。ディスレクシアのあるこどもは、文章を読むのが苦手であり、漢字の書き取りでつまずいたりします。障害でなくとも学習過程ではよく見かけることなので、ディスレクシアは周囲の人にとっては判りにくく、気付きにくい障害です。しかしながら、二次的に学校不適応や心理的な問題に繋がる可能性のあるものなので、注意が必要となります。一方、環境調整や家庭での工夫次第では困りごとを軽減することが可能です。以下、詳しくディスレクシアの症状や原因、診断基準、また家庭や学校でできる工夫などについて説明します。
ディスレクシアとは、知的な困難や全体的な発達の遅れはないものの、文字の読み書きに限定した困難がある状態のことを指し、診断上は学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)に含まれます。日本では、ディスレクシアの他に、読み書き障害、難読症、識字障害とも呼ばれたりします。
ディスレクシアの特徴としては、「音読だけが苦手」「似た文字をよく間違える」などがあります。幼少期から兆候があっても、読み書き以外に困りごとがみられないので、こども自身も困りごとに気付きにくく、説明しにくいため、周囲から見ると「なんとなく読むのを嫌がる」程度にしか見えないことがあります。
ディスレクシアのあるこどもの困りごとには、読むことに困難がある「読字障害」、書くことに困難がある「書字障害」があり、ほとんどの場合併存しています。ただし、ディスレクシアの症状は人によって大きく異なるので、以下、参考程度に説明します。
・自分で絵本などを読もうとしない
・文字を一つ一つ拾って読む(逐次読み)
・読み飛ばしや、推測しながら不正確な読み方をしてしまうことが多い
・文章を読んでいるとすぐに疲れる(易疲労性)
・話すスピードと比較して、読むスピードが極端に遅い
・特殊音節(小さい「っ」のような促音、「ゃ ゅ ょ」を含む拗音など)の間違いが多い
・「わ」と「ね」、「人」と「入」のように似た形の文字の間違いが多い
・「お」と「を」のように発音が同じ文字の誤りが多い
・画数の多い漢字を間違いやすい
・文字を書くとき、反対向きに書いてしまう(鏡文字)
ディスレクシアのあるこどもは、初めて見る文章の場合は特に読むのに時間がかかります。また書くことにも困難があるため、テストでいい点を取りにくい傾向があります。
しかし、読み書き以外の困りごとがない場合が多く、ディスレクシアがあることに本人も周囲の人も気付かず、本人の努力不足だと判断されてしまい、辛い思いをすることがあります。
個人差はありますが、ディスレクシアのある方の見え方の例をいくつか紹介します。
・文字が二重に重なって見える
・文字が反転して見える(鏡文字)
・読んでいる文章がねじれたり歪んで見える
・テレビのノイズのようなものが重なって見える
紹介したのは一例ですが、ディスレクシアがあるこどもには教科書や本が上記のように見えている可能性があります。このような見え方をすることで「読みたくない」「読めなくはないがとても疲れる」と拒否感が生じます。
ディスレクシアを含む学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)の原因は、はっきりと分かっていませんが、ディスレクシアのあるこどもは、脳の部位に何らかの機能障害や偏りがあり、読むこと・書くことに困難が生じるのではないかといわれています。
「文字を読む」というのは一見単純な行為でも、実は以下のような複雑な脳の処理プロセスを経ています。
・文字を目で追う
・単語や文節のまとまりをつくる
・文章を音に変換する
・意味と結び付けて理解する
現在はディスレクシアの原因として、上記のプロセスをおこなう機能に障害があることが最も有力な仮説とされています。しかし、医学的な検査を行っても分からないほどの小さな困難の積み重ねや相互作用があり、実証は難しいとされています。
医学の診断基準では、ディスレクシアという診断名ではありませんが、「ディスレクシアの症状・特徴について」で解説したような兆候がある方は学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)と診断されることが多いです。
診断では、問診で赤ちゃんのときから今までの成育歴、既往症、現在の困りごとなどヒアリングがなされます。また、心理検査で全体的な発達水準や行動特性などについて調べ、脳波検査や頭部のCT、MRIでてんかんや脳の器質的な問題がないか検査することもあります。これらの結果を総合的に見て学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)かどうかが診断されます。
読み書きや識字に困難があると感じても、原因や具体的な対応方法を専門医以外が判断することは難しいため、こどもがディスレクシアかもしれないと感じたときは、専門医の受診をすることが必要となります。専門医がいる医療機関については、居住地域の保健センターや児童発達支援事業所、かかりつけの小児科などに相談してみてください。
こどもにディスクレシアの疑いがあるときは、まず本人の困りごとを把握することが重要です。そのうえで、その子に合った対策を講じることです。ここでは場面ごとにできる対処法や工夫を紹介します。
家庭でできることとしては、以下のような工夫があります。こどもの状態に合わせて考えてみてください。
・本人が読む前に一度読み聞かせる。
・ことばの区切りに「/(斜線)」を入れる。
・プリントなどは大きく印刷し、文字や行間を大きくする。
・読む行に定規をあてて、他の行を見えなくする。
・漢字のマスを大きくして練習する。
また学校では想像以上のストレスを感じている可能性があるので、家庭では適度にリラックスできる時間をつくるのも大切です。
ディスレクシアのあるこどもが学校で困ることの例としては以下のことがあります。
・初めて見る文章の音読。
・漢字の書き取り。
・黒板の文字をうつす。
・メモを取る。
家庭だけで全ての対策を講じることは難しいので、担任の先生やスクールソーシャルワーカー、カウンセラーと以下のような工夫ができるか相談してみることをお薦めします。
・プリントなどは拡大コピーしてもらう。
・読むときに虫眼鏡を使わせてもらう。
・授業などで音読をする必要がある場合は事前に知らせてもらい、一度読み聞かせをし、家で練習をする。
・板書を取る代わりに黒板の写真を撮らせてもらう。
現在大学受験などでは、ディスレクシアのあるこどもは配慮を受けることができます。
具体的には、以下のような配慮が受けられる場合があります。
・別室での受験。
・問題用紙の拡大。
・定規やマーカーを持ち込んでの受験。
将来的に試験を受ける際は、こどもが安心して試験に望めるように、テストセンターや大学にこどもに必要な合理的配慮を申請するなど、検討する必要性が出てきています。
こどもにディスレクシアがあるかもしれないと感じたときは、一人で抱え込まずに専門家に相談してみてください。相談することで、こどもや保護者の方が受けられる支援や改善策を一緒に探すことができます。相談先としては以下のような場所があります。
・保健センター
・市役所の子育て支援課や福祉課
・かかりつけ小児科
・総合病院の地域連携室など
・児童発達支援事業所・放課後等デイサービス
ディスレクシアは児童発達支援事業所などの専門機関でトレーニングを受けることにより、困りごとが軽減することが見込まれています。
ディスレクシアとは、読み書きに著しい困難がある状態のことを指す学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)の一つです。周囲から気付かれにくい障害であり、専門的なサポートも重要になりますが、工夫や支援次第で困りごとは軽減することができます。家族だけで抱え込まず、専門機関などを利用しながらこどもを適切にサポートできる環境を整え、前向きに子育てしてゆきましょう。