発達障害のこどもが不登校になってしまったら、親や学校はどのように対応したら良いのでしょうか。発達障害が原因で学校に通えなくなるこどもは比較的多く、同じ悩みを抱えている人は少なくありません。
また、発達障害は生涯にわたって上手に付き合っていかなければいけないので、親だけでどうにかできることではなく周囲の理解も必要です。
以下では、発達障害のこどもが不登校になった時の対応方法について解説します。発達障害で不登校になっても適切に対応することで、こどもは過ごしやすい環境で成長していけます。
発達障害があることにより、学校生活でいくつも失敗体験を繰り返すことで自己肯定感が下がり自己嫌悪に陥り、学習面や友達関係に対する困難や小さな躓きを解決することができなくなります。
その結果、不登校や引きこもりになってしまうケースは少なくありません。これが、発達障害による二次障害の不登校です。
また、不登校だけではなく、自分自身を傷つけてしまい、他人を叩くなど暴力的な行動が表れることもあります。
不登校になってしまうきっかけは、個々により様々です。下記の表は、文部科学省が発表している「最初に行きづらいと感じ始めたきっかけ」の中で、特に割合の多いものです。
先生が怖い、合わない、体罰など先生のこと | 29.7% |
学校に行こうとするとお腹が痛くなるなど身体の不調 | 26.5% |
朝起きられないなど生活リズムの乱れ | 25.7% |
自分でもきっかけが分からない | 25.5% |
いやがらせやいじめなど友だちのこと | 25.2% |
引用:文部科学省「令和2年度不登校児童生徒の実態調査 結果の概要」
上記は小学生の不登校のきっかけです。もっとも多いのが先生に関する悩みで、先生に恐怖心を抱いてしまい、自分とは合わないと感じるケースが少なくありません。
また、友だち関係に悩み不登校になってしまうことも多く、こうした人間関係がきっかけとなる場合、発達障害が関係していることが考えられます。
また、中にはきっかけが自分でもよく分からないということもあり、知らず知らずのうちにストレスや負担が大きくなり、耐えられずに学校に行けなくなってしまうことも多いのが特徴です。
発達障害は、脳の働き方の違いにより幼児のうちから行動面や情緒面に特徴が出る障害です。成長の過程で発見されることが多いのですが、判断しづらい症状もあります。また、先天的で薬で治る病気ではないため、周囲の人が正しく理解して付き合っていく必要があります。
代表的な発達障害には以下の3つがあります。
・授業に集中することが難しく、落ち着きがない
・忘れ物が多い
・作業にミスが多い
・気持ちの切り替えが苦手でかんしゃくを起こすことが多い
症状の程度によってはADHDに当てはまるのか判断が難しいケースもあります。
・友達ができにくい
・好きな分野には何時間でも熱中する
・特定の音を嫌がる
・同じやり方にこだわる
自閉スペクトラム症は、早ければ1歳半検診(乳幼児健康検査)でその可能性を指摘されることもあります。
・文章を読むのが極端に遅い
・ひらがなやカタカナでも間違えることが多い
・人の書いたものを書き写すのが苦手
・数を数えるのが苦手
学習障害は本格的な学習に入る小学生頃までは判断が難しく、単に「勉強不足」「努力が足りない」と見過ごされるケースが多いので注意が必要です。
特性の一部が見られることはあるものの、はっきりとした診断名が付かない状態が「グレーゾーン」です。
「もしかしたら発達障害かもしれない」「他の子と違う部分が秀でている」など、日頃の生活を見ていて違和感をもつことも少なくありませんが、全員が必ずしも診断が受けられるわけではありません。
こうしたグレーゾーンのこどもは、発達障害の診断を受けているこどもと同様に、学校生活において何らかのトラブルや問題を抱えていることも多くあります。
自分自身を理解してくれる人、サポートしてもらえることで一段と生活しやすくなるため、家族の協力が欠かせません。
発達障害の不登校児の人数・割合については、調査した機関によってばらつきがあるのが現状です。そのため、一概に◯%とは断言できません。
福島県内での教育機関による調査では、不登校における発達障害児の割合が以下のように発表されています。
児童生徒数 | 不登校生徒数 | 発達障害者数 | |
小学校 | 44,430人 | 130人(341人に1人) | 21人 |
中学校 | 18,411人 | 505人(36人に1人) | 40人 |
高等学校 | 17,473人 | 128人(136人に1人) | 17人 |
不登校で発達障害の生徒の割合 | |
小学生 | 16.1%(6人に1人) |
中学校 | 7.9%(12人に1人) |
高等学校 | 13.3%(7人に1人) |
引用:福島大学総合教育研究センター教育相談部門「発達障害が疑われる不登校児童生徒の実態」
上記のデータから分かるように、発達障害と不登校には深い関係があります。
不登校になったこどもは、何も考えずただ家にいるわけではありません。学校に行かない自分に対して焦る気持ちや不安な気持ちだけではなく、行かないことで安心するなど、様々な感情を抱えながら生活しています。しかし、保護者としては「何を考えているか理解できない」「どう接すればいいか分からない」と悩んでしまう方も多くいるのではないでしょうか。
ここで、発達障害の不登校のこどもの気持ちについて、データを参照して詳しくみていきましょう。
【発達障害の不登校のこどもの気持ち】
・発達障害で不登校中の小学生の気持ち
・発達障がいで不登校中の中学生の気持ち
発達障害で不登校中の小学生の場合、最も多いのが「ほっとした・楽な気持ち」です。次いで「自由な時間が増えて嬉しい」という気持ちがあり、学校に行かないことで安心感を得ているケースが多いのが特徴です。
ほっとした・楽な気持ち | 37.6% |
自由な時間が増えて嬉しい | 36.9% |
勉強の遅れに対する不安があった | 31.7% |
自分のことが嫌で仕方なかった | 23.0% |
進路・進学に対する不安があった | 21.2% |
早く学校に戻りたかった | 8.7% |
引用:文部科学省「不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書」
また、中でも特に低いのが「早く学校に戻りたかった」というものです。発達障害で不登校になった小学生は、学校に対して不安や恐怖を感じていることが少なくありません。
そのため、気持ちとしては「早く戻りたい」よりも「ほっとした・自由でうれしい」という感情が大きくなるのが特徴です。
発達障害で不登校中の中学生は、小学生とは違い勉強や進学に対して悩んでいる傾向にあり、安心感より不安を感じているケースが多くあります。
まず一番多い割合となっているのが「勉強の遅れに対する不安」、次いで「進路・進学に対する不安」という気持ちを抱えているこどもが多いのが、中学生の特徴です。
勉強の遅れに対する不安があった | 44.7% |
進路・進学に対する不安があった | 40.8% |
ほっとした・楽な気持ち | 36.5% |
自分のことが嫌で仕方なかった | 35.1% |
自由な時間が増えて嬉しい | 34.7% |
早く学校に戻りたかった | 9.4% |
引用:文部科学省「不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書」
さらに、「ほっとした気持ち」を感じる一方、同じくらいの割合で「自分のことが嫌で仕方ない」という嫌悪感を抱えていることもあります。
勉強から解放されて安心する気持ちと、勉強や進路など、今後に対する不安が大きく情緒不安定となるケースも少なくありません。
こどもが発達障害で不登校になっても、親は焦らず落ち着いて対応することが大切です。自分のせいで親がつらい思いをしていると感じると、こどもは罪悪感を覚えるかもしれません。
逆に親が気持ちに余裕を持って過ごせると、家庭内の空気が明るくなりこどもにもプラスに働きます。
以下で、親がこどものためにできる対応を具体的に8つ紹介するので参考にしてみてください。
不登校になったこどもは、限界まで我慢をしてきて精神的につらい思いをしています。そんなこどもを無理に登校させるのは逆効果です。こどもの気持ちを理解して、ゆっくり休ませてあげましょう。こどもは親が気持ちを分かってくれていると思うと心を開きやすいので、相談しやすい関係性が築けます。
不登校になったこどもは多くの時間を家で過ごします。そんなこどものためにも家庭環境を整えることは大切です。こどもにとって居心地の良い場所であるように、家族間で十分なコミュニケーションをとりましょう。会話の最中で話をさえぎったり間違いを指摘したりせず、こどもを認めてあげる姿勢が重要です。
発達障害の特性をしっかり理解することは、適切なサポートをするために欠かせません。本やインターネットで情報を得るだけでなく、専門家から話を聞くことも有効です。どんなサポートがあれば生活しやすくなるのか、こどもの普段の行動から読み取れるように発達障害について知識を身につけてください。
発達障害のこどもが快適な学校生活を送るためには学校の協力が必要です。学校生活での様子を先生と共有し、サポートが必要な点は協力をお願いしてこどもが登校しやすくなるよう体制を整えましょう。こどもが家で見せる姿は学校での様子とは違うものです。こどもの現状を把握することは必要なサポートを準備するためにも重要なため、知ったつもりにならず学校と密に連絡をとってください。
ペアレントトレーニングとは、親が具体的な養育スキルを獲得するための保護者向けのプログラムです。これを受ければ日常生活でこどもに適切にかかわることができるようになり、その結果として行動改善や発達促進に役立つことがあります。ペアレントトレーニングを受けられる場所は地域によって異なりますが、下記のような場所で実施しています。
・発達障害者支援センター・教育センターなどの行政機関
・病院などの医療機関
・大学付属の心理センター
・NPO法人・民間の事業所
同じ状況で悩んでいる方との交流の場にもなるので有効活用してみてください。
「親の会」は、障害・不登校・非行などの問題を抱えるこどもの親たちが集まる会です。同じような経験をしている方のアドバイスを聞くことができ、気持ちを分かり合えるのでストレス解消にもなります。悩んでいるのは自分だけでないことを知るだけでも親にとってはプラスです。地域によって様々な種類の親の会があるので、自分に合った団体を選んでください。
発達障害などで特別な支援が必要と判断される場合、教育委員会と相談して所属学級を決めます。主な学級は以下の通りです。
種類 | 特徴 |
通常級 | 一般的な集団のクラス |
通級(通級指導教室) | 基本的には通常級にいるが、特別な指導が必要な際に週に数回程度通級へ移動して指導を受ける |
特別支援学級 | 障害のあるこどもが通い、個別に指導を受ける(8人が基準) |
交流級 | 特別支援学級に在籍し、学校行事・クラブ活動・給食・一部の教科の時間などを通常級のこどもと共に活動する |
特別支援学級に在籍するこどもは年々増えており、国もその必要性について重要視しています。こどもの状況に応じて学校の先生と相談し、柔軟に対応していきましょう。
不登校の解決だけを目指さず、まずは学校以外の場所で学びの場を作ることもおすすめです。
以下に学校以外の学習方法をまとめました。それぞれに特徴があるのでこどもの希望に耳を傾けて検討してみてください。
種類 | 特徴 |
フリースクール |
・学校のように決まったカリキュラムがなく、 |
学習塾 | ・発達障害に対応している塾を選べる ・同年代のこどもと交流の機会ができる ・家を出るきっかけになる ・学力を維持しやすい |
家庭教師 |
・環境を変えずに学習ができる |
放課後等デイサービス |
・こどもに合った療育が受けられる |
通信教育(タブレット学習) |
・環境を変えずに学習できる |
発達障害に対応したサービスは増えているので、こどもに適した学習方法を探してみてください。学力の維持・向上は復学の際にも役に立ちます。
親自身が心身ともに疲労している状態は、こどもにとっても悪影響が出るので、ご自身の負担を軽減させながら対応していきましょう。
学校に行かない間、どのように過ごすかで親子間の会話が増えたり絆を強めたりすることにも繋がります。無理強いや強制的な外出はお奨めできませんが、気持ちが落ち着き安定してきたら、不登校中の過ごし方について考えてみてはいかがでしょうか。
ここで、発達障害で不登校のこどもの3つの過ごし方について紹介します。ぜひここでお伝えする内容を参考に、こどもにとってどんな時間の使い方が有意義となるか検討してみてください。
お皿洗い、お風呂やトイレ掃除など、小さなことでも家事や周囲へのお手伝いを促してみてはいかがでしょうか。
人から感謝される、喜んでもらえるという経験を繰り返すことで、下がってしまった自己肯定感を戻し、気持ちに余裕を持つこともできます。些細なことでもまずは手伝ってくれたら褒め、感謝を伝えるようにしてください。
興味のあることや元々好きだったものに集中する時間を作るのもおすすめです。将来の仕事に繋がるケースも多くあり、また、同じ趣味の仲間に出会うチャンスを作ることもできます。しかし、注意しなければいけないのがゲームです。ゲームが好きなこどもの場合、やり過ぎると食事もとらず時間を忘れ没頭してしまうこともあり、健康被害が出てしまうこともあるため注意してください。
自由に学べるフリースクールや、新しいことにチャレンジできる習い事なども検討してみてください。学校以外で人とのかかわりを持ち、様々な世界を知るよいきっかけになります。また、フリースクールや放課後等デイサービスの場合は、学校との連携を図り認められれば、出席扱いを受けることも可能です。視野を広げ色々な体験をしたり経験を積むことで、ネガティブな気持ちが薄れ楽しい時間を多く過ごすことができるようになります。
発達障害や不登校についての悩みは、親だけで試行錯誤するよりも専門家の力を借りることをおすすめします。こどものために自分で解決してあげたくなるのが親心ですが、より知識のある人に助けてもらう方が賢明でしょう。
発達障害や不登校についての相談先は以下の通りです。
・地域の子育て支援センター
・地域の発達相談窓口
・市町村の保健センター
・家庭児童相談室
・児童相談所
・発達障害者支援センター
・療育センター
・小児科
発達障害が伴う不登校の場合、周囲の協力が必ず必要です。一人で抱え込まず適切な支援を受けることが、こどもの過ごしやすい環境作りのためにも役に立ちます。
発達障害で不登校の中学生の多くは、勉強や進路・進学に対する不安を抱えている子が多いのが特徴です。保護者の中にも将来に対する不安や心配を感じている方も少なくありません。こどもの将来を考える場合、まずはその子が持っている特性を考慮し、どんな環境が合うかをしっかりと見極める必要があります。たとえば、高校の卒業資格が欲しいけれど、人と会うのが怖い・教室に入れないというこどもには、通信制高校がおすすめです。実際、通信制高校から専門学校へ進学し、その後就職を果たしているケースもあります。まずはその子の特性を正しく理解し、適した環境で過ごせるように将来へつながる道を一緒に導き出してください。
発達障害のこどもは、勉強の遅れや友達とのコミュニケーションの問題が発生しやすいです。誰からも理解されず孤立した状況が続くことで過ごしにくさを感じ、次第に学校へ通うことの意欲が薄れてしまいます。しかし、周囲の理解と適切なサポートさえ受けられれば、こどもは学校に居場所を見つけることが可能です。学校と連携をとり、先生だけでなく周りの生徒にも協力をしてもらいながら、こどもが過ごしやすい環境を整えてください。
発達障害のこどもが勉強しない・できないという認識は正しくありません。発達障害は、先天的な脳の働き方の違いによって行動面・情緒面に特徴がある状態です。発達障害の症状がある人が、特定の分野で飛び抜けた才能を発揮するという事例はよくあります。親はこどもに合った学習の場を準備するためにも、成長の過程をしっかりと見守り必要な手助けをしてください。
発達障害は生まれつきの特性で病気ではありません。これまでお話してきたことからも分かるように、大切なのは発達障害の特性を理解して上手に付き合っていくことです。発達障害のこどもが学校生活・日常生活を送りやすくするためには、先生・生徒・家族などのかかわる人全員の協力が必要になります。不登校になってしまっても焦らずに、専門家の力を借りながら長い目でこどもと向き合ってください。