特別支援学校は、「視覚障害」や「聴覚障害」「知的障害」「肢体不自由」「病弱(身体虚弱含む)」がある児童、生徒に教育を行う学校です。 この特別支援学校を卒業した生徒の学歴はどのような扱いになるのでしょうか。本記事では、特別支援学校を卒業した後の進路先や就職先の探し方などを解説します。
かつては「養護学校」「盲学校」「聾学校」の3つの学校がありましたが、2007年に学校教育法が改正されて、合わせて「特別支援学校」と呼ぶようになりました。
学校教育法の第8章第72条には、特別支援学校の目的が「幼稚園、小学校、中学校または高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授ける」と明記されています。
つまり特別支援学校は一般の学校とは、教育の目的が異なるため特別支援学校の高等部を卒業しても、学歴は「高卒」とはならず、「特別支援学校高等部卒」となります。
しかし、障害者雇用枠での求人の場合には、企業は特別支援学校高等部を卒業した人からの応募があることを想定しているため、高卒扱いとするケースが多いようです。
文部科学省が公表している「特別支援教育資料(令和3年)」によると、特別支援学校高等部の卒業後(21,846人)の進路は次のようになっています。
大学や短期大学、大学および短期大学の通信教育部、放送大学などに進学した人は、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱者を合わせて405人(1.9%)でした。この内、視覚障害が卒業者286人に対して進学が96人(33.6%)、聴覚障害が卒業者440人に対して182人(41.4%)と多くなっています。
前章で特別支援学校高等部の学歴は「高卒」とはならないと書きました。一方で、文部科学省が定める「大学入学資格について」では、「特別支援学校高等部または高等専門学校の3年次を修了した者」となっていることから、特別支援学校高等部の卒業者でも大学入学の資格はあります。
専修学校や公共職業能力開発施設などの教育訓練機関に進んだ人は、全部で344人(1.6%)でした。
就職した人は合わせて6,650人(30.4%)で、そのうち知的障害が6,339人(33.4%)で人数的には最も多くなっています。続いて聴覚障害が140人(31.8%)でした。
社会福祉施設などに入所や通所した人は、13,447人(61.6%)で全体の6割以上となっています。人数で多いのは知的障害で、11,538人(60.8%)、割合で多いのは肢体不自由の1,472人(84.4%)です。
〇特別支援学校高等部(本科)卒業後の状況(国・公・私立計)
区分 | 卒業者(人) | 進学 | 教育訓練機関 | 就職 | 社会福祉施設 | その他 |
計 | 21,846 (100%) |
405 (1.9%) |
344 (1.6%) |
6,650 (30.4%) |
13,447 (61.6%) |
945 (4.3%) |
視覚障害 | 286 (100%) |
96 (33.6%) |
16 (3.6%) |
23 (8.0%) |
128 (44.8%) |
23 (8.0%) |
聴覚障害 | 440 (100%) |
182 (41.4%) |
21 (4.8) |
140 (31.8%) |
79 (18.0%) |
17 (3.9%) |
知的障害 | 18,992 (100%) |
67 (0.4%) |
257 (1.4%) |
6,339 (33.4%) |
11,538 (60.8%) |
738 (3.9%) |
肢体不自由 | 1,744 (100%) |
37 (2.1%) |
26 (1.5%) |
83 (4.8%) |
1,472 (84.4%) |
125 (7.2%) |
病弱身体虚弱 | 384 (100%) |
23 (6.0%) |
24 (6.3%) |
65 (16.9%) |
230 (59.9%) |
42 (10.9%) |
参考:文部科学省「特別支援教育資料(令和3年)」
前章でデータを紹介した通り、特別支援学校高等部を卒業した人の3割以上が就職しています。国が障害者の就労支援に力を入れていることもあって、特別支援学校高等部卒業者の就職率も近年アップしています。
〇特別支援学校高等部(本科)卒業者の就職率の推移(国・公・私立計)
平23 | 平24 | 平25 | 平26 | 平27 | 平28 | 平29 | 平30 | 令元 | 令2 | 令3 | |
就職率 | 24.3 | 25.0 | 27.7 | 28.4 | 28.8 | 29.4 | 30.11 | 31.2 | 32.3 | 31.7 | 30.4 |
特別支援学校高等部を卒業した後、就職を目指す場合には大きく分けて2つの選択肢があります。一つは一般企業に就職する場合と、就労移行支援施設を利用する場合です。
障害のある方が一般企業に就職する場合には、「一般雇用枠」で就職する場合と「障害者雇用枠」で就職する場合の2つの方法があります。しかし、現実的には特別支援学校高等部を卒業した人が、一般雇用枠で就職するのは非常に難しいでしょう。
「障害者雇用枠」とは、企業が障害のある求職者を対象として、一般雇用枠とは異なった基準で採用する雇用枠のことです。障害者雇用枠の求人は、障害に配慮した業務内容や勤務時間などがあるため、働きやすいといったメリットがあります。一方、デメリットには一般雇用枠と比べると業種や職種が限定されたり、求人件数が少ないといった点があげられます。
「一般雇用枠」と「障害者雇用枠」のどちらを目指して就職活動を行う場合でも、まず大切なのは、自身の障害の特性について知り、障害と向き合うことです。そのうえで、自分に合った求人を探しましょう。
自分に合った求人がわからない場合には、ハローワークの障害者雇用の窓口や、障害者に特化した就職エージェントなどの専門家に相談してみましょう。
特別支援学校高等部を卒業して、すぐに一般企業に就職するのが不安な人もいることでしょう。その場合には「就労移行支援」を利用してから就職を目指すのがおすすめです。
就労移行支援では、就職に必要な能力や知識を身につけるための訓練、履歴書など応募書類の書き方や模擬面接などの就職活動のサポート、就職活動に関する支援を行います。
また、一般企業で働くことが困難な方には、「就労継続支援」といった福祉サービスがあります。就労継続支援には、雇用契約を結ぶA型と雇用契約を結ばないB型があります。就労移行支援と就労継続支援のどちらを利用する場合も、まずは居住している自治体の福祉担当窓口に相談しましょう。
特別支援学校高等部を卒業する人をはじめ、障害のある方が就職を目指す際に相談できる機関やサービスを紹介します。
ハローワークは、正式名を公共職業安定所といいます。全国各都道府県に544か所設置されています。障害者の就職に詳しい専門員や職業相談員が配置されていて、障害の特性や適性、本人の希望に沿って職業相談や求人紹介を行っています。
地域障害者職業センターは、障害のある人に対して専門的な職業リハビリテーションを行っている機関です。全国各都道府県に最低1か所設置されています。
地域障害者職業センターでは、現状の職業能力を評価して職業リハビリテーションを実施したり、就職に向けての準備支援などを行っています。
障害者就業・生活支援センターは、名前の間に「・」があることから「なかぽつ」や「なかぽつセンター」とも呼ばれています。
特別支援学校とも連携していて、障害のある人に対して、就職相談や職場定着相談、生活相談などを行っています。令和4年4月時点で全国に338か所設置されています。
就職情報サービス(就職情報サイト)は、全国の企業からの求人情報が掲載されているサイトです。業界、職種、地域などさまざま条件を指定して求人を検索することができます。
就職情報サービスの中には、障害のある人の就職・転職に特化したサイトもあり、障害者向けの求人情報が提供されています。就職先を探す際に利用すると良いでしょう。
就職エージェントとは、専任のキャリアアドバイザーやキャリアプランナーが、就職活動のサポートをしてくれるサービスです。面談を通じて求職者の希望や適性にマッチした求人を紹介してくれます。就職エージェントの中にも、障害のある人の就職に特化したサービスがあります。
以上、特別支援学校の高等部を卒業した人の、主な進路先や就職先、就職先の見つけ方、就活活動について相談することができる機関やサービスについて解説しました。障害のない人でも、就職活動を一人で進めるのは不安なものです。
特に障害のある人は、自身の障害の特性に合った働きやすい環境の就活先を選ぶことが大切です。特別支援学校高等部を卒業して、就職活動を行う際には、ハローワークや転職エージェントを利用して、障害の就職に詳しい専門家に相談するのもひとつの方法だと思います。