国連で採択・締結された「障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」は、国際的な障害者権利条約であり、日本の障害者に対する法の整備は、この条約に込められた「社会モデル」をグランドデザインとして行われてきました。障害者権利条約がどのようなものであるかを知ることは、障害当事者や支援する福祉事業所、雇用する企業、教育機関、スポーツ事業、国際協力、文化事業においても有意義なことだと考えます。以下、外務省のパンフレットを転載し、読みやすさを考慮し手を入れさせていただきました。
障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)とは
障害者権利条約は、障害者の権利を実現するために国がすべきことを決めた条約です。条約とは、国際的な約束ごとを意味します。障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由を守るための約束ごとです。障害者権利条約は、障害者がもともと持っている自分らしさを大事にした権利条約だといえます。
障害者権利条約は、障害者の権利を実現するために国がすべきことを決めた条約です。条約とは、国際的な約束ごとを意味します。障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由を守るための約束ごとです。障害者権利条約は、障害者がもともと持っている自分らしさを大事にした権利条約だといえます。
条約は通常、国どうしの話し合いで作られます。でも、障害者権利条約を作るための話し合いには、障害者団体も参加することができました。それは、障害者の間で広く知られている「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」(英語で Nothing About Us Without Us)という考え方を重要視したからです。どの国も、本当に障害者のためになる条約を作ろうと思っていた現れといえます。
日本を代表して話し合いに参加した人たちの中には、障害のある人もいました。200人ぐらいの日本の障害者団体の人たちが、ニューヨークにある国連の本部まで行き、国連での話し合いの様子を聴きました。話し合いは5年近く継続され、2006年12月13日に国連で、障害者権利条約の全ての内容が決められました。
日本は、2007年に条約に署名(サイン)をしました。署名は、条約の内容に基本的に賛成していることを表します。署名の後、日本はまず自国の障害者制度の改革に力を入れました。
〇2011年 障害者基本法の内容が新しくされました。
障害者基本法は、障害者についての法律や制度の基本的な考え方を決めています。
〇2012年 障害者総合支援法が作られました。
障害者総合支援法は、障害福祉のしくみを新しくしたものです。
〇2013年 障害者差別解消法が作られました。
障害者差別解消法は、障害があるという理由で障害者を差別することを禁止しています。
また、その人に合った工夫、やり方を配慮すること(合理的配慮)で、障害者が困ることをなくしていく
ことなどを決めています。障害者への差別をなくすことで、障害のある人もない人も共に生きる社会を
つくることを目指しています。
〇2013年 障害者雇用促進法の内容が新しくされました。
障害者雇用促進法は、障害者が働くとき、働きたいときの差別を禁止しています。
障害者が働くとき、働きたいときに困ることなどをなくしていくことも決めています。
このような改革が行われたことから、2014年1月20日に、日本は条約を締結しました。
ここから、障害者権利条約の大事な内容を説明します。障害者権利条約の中には、「社会モデル」と呼ばれる考え方が反映されています。「社会モデル」とは、「障害」は障害者ではなく社会が作り出しているという考え方です。
〇平等、差別しないこと、合理的配慮
障害者権利条約の第2条では、障害者に「合理的配慮」をしないことは差別になると決めています。「合理的配慮」とは、障害者が困ることをなくしていくために、周りの人や会社などがすべき無理のない配慮のことです。第5条では、国が障害に基づくあらゆる差別を禁止し、「合理的配慮」がされるよう手続をとることも決めています。
〇障害者が積極的に関わること
第4条では、障害者に関わることを決めるときなど、障害者とよく相談することを決めています。 〇バリアをなくしていくこと(施設やサービスの利用のしやすさ) 第9条では、建物や公共の乗り物、情報や通信などが障害者にとって使いやすくなるよう決めています。生活するうえで、なるべく妨げ(バリア)になるものを取り除いていくための決まりを、国が作ることなどを決めています。
〇自立した生活と地域で共にくらすこと
第19条では、国は、全ての障害者が地域社会で生活できるよう決めています。障害者が障害のない人と平等の権利を持ち、地域社会に参加しやすくするために必要な手続を国がとることを決めています。 〇教育 第24条では、教育についての障害者の権利を決めています。国が、障害者があらゆる段階の教育を受けられるようにすべきことを決めています。また、教育を受けるとき、それぞれの障害者にとって必要な「合理的配慮」がされることを決めています。
〇雇用
第27条では、障害者が働く権利を障害のない人と平等に持つことを決めています。どんな形の働き方でも障害に基づくあらゆる差別を禁止するよう決めています。また、障害者が職場で「合理的配慮」を得られるように国が必要な手続きをとるよう決めています。
第30条では、障害者が生活の中で文化やスポーツを楽しむ権利について決めています。また、国は障害者が文化的な公演などを楽しみやすいようにするよう決めています。国は障害者がレクリエーションやスポーツに参加できるようにすることも決めています。
〇国際協力
第32条では、世界の障害者の権利を守っていくため、世界の国々と力をあわせていくことが大事であるということを決めています。
〇国内の実施と監視
第33条では、国の中で条約の内容が守られているかどうかをチェックするしくみを作るよう決めています。日本では、このしくみとして内閣府に「障害者政策委員会」が作られました。「障害者政策委員会」には、障害者や障害者団体の人たちが委員として参加しています。
〇国による報告
第34条では、「障害者の権利に関する委員会」について決めています。「障害者の権利に関する委員会」の委員は、条約を締結した国の中から18人が選ばれます。第35条では、条約がどのように実施されているかについて、国が「障害者の権利に関する委員会」に報告しなければならないことを決めています。また、「障害者の権利に関する委員会」が国からの報告の内容をくわしく調べることも決めています。
国連総会で、「障害者権利条約」(正式名称:「障害者の権利に関する条約」)が採択されたのは、2006年12月のことです。この条約は、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利を実現するための措置などについて規定しており、障害者に関する初めての国際条約です。その内容は、条約の原則(無差別、平等、社会への包容など)、政治的権利、教育・健康・労働・雇用に関する権利、社会的な保障、文化的な生活・スポーツへの参加、国際協力、締約国による報告など、幅広いものとなっています。
障害者権利条約が採択されるまでに国連では様々な取組が行われました。1975年には「障害者の権利宣言」が採択され、翌1976年には1981年を「国際障害者年」とすることが決議されました。1982年には「障害者に関する世界行動計画」と「国連障害者の十年」(1983年~1992年)決議が採択されました。1993年には「障害者の機会均等化に関する標準規則」が採択され、障害者の社会的障壁を取り除くべきとの理念が示されました。2001年12月の国連総会では、「障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約」決議が採択され、国際条約を起草するための「アドホック委員会」を設置することが決まりました。
条約の起草交渉は、政府間で行われることが通例ですが、このアドホック委員会では、障害者団体は傍聴できるだけでなく、発言する機会も与えられました。それは、障害者の間で使われているスローガン「“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」に表れています。それは障害者が自身に関わる問題に主体的に関与するとの考え方を反映し、名実ともに障害者のための条約を作成しようという、国際社会の総意の表れでした。日本の政府代表団は、障害当事者を顧問に迎え、起草交渉に積極的に関与したほか、日本から延べ200人にのぼる障害者団体の関係者が国連本部(ニューヨーク)に足を運び、実際にアドホック委員会を傍聴しました。2002年から8回にわたるアドホック委員会を経て、2006年12月13日、障害者権利条約が国連総会で採択されました。そして2008年5月3日、障害者権利条約は、効力発生の要件が整い発効しました。
日本は、障害者権利条約が採択された翌年の2007年9月28日に条約に署名しました。一方、条約の締結(批准)については、国内の障害当事者などから、条約の締結に先立ち国内法の整備を始めとする障害者に関する制度改革を進めるべきとの意見が寄せられました。政府は、これらの意見も踏まえ、2009年12月に内閣総理大臣を本部長、全閣僚をメンバーとする「障がい者制度改革推進本部」を設置し、集中的に障害者に関する制度改革を進めていくこととしました。これを受けて、障害者基本法の改正(2011年8月)、障害者総合支援法の成立(2012年6月)、障害者差別解消法の成立と障害者雇用促進法の改正(2013年6月)など、様々な制度改革が行われました。このように、条約の締結に先立って国内の障害者制度を充実させたことについては、国内外から評価する声が聞かれています。
2013年6月の障害者差別解消法の成立をもって、一通りの障害者制度の充実がなされたことから、同年10月、国会において日本の障害者権利条約の締結について議論が始まりました。そして、同年11月19日には衆議院本会議において、12月4日には参議院本会議において、日本の障害者権利条約の締結が全会一致で承認されました。これを受けて、2014年1月20日、日本は条約の批准書を国連に寄託し、日本は141番目の締約国・機関となりました。
日本が障害者権利条約を締結したことにより、障害者の権利の実現に向けた取組が一層強化されることが期待されます。内閣府に設置されている「障害者政策委員会」は、国内の障害者施策が障害者権利条約の趣旨に沿っているかという観点からモニタリングを行うことになりました。また、日本は、条約に基づく義務の履行についての報告を、条約に基づき設置されている「障害者の権利に関する委員会」に提出し、同委員会は、その報告の内容について審査を行うことになりました。さらに、障害者に関する国際協力も一層推進されることが期待されており、日本は国連の場やODAなどを通じて、世界の障害者の権利向上に貢献します。
従来の障害のとらえ方は、障害は病気や外傷などから生じる個人の問題であり、医療を必要とするものであるという、いわゆる「医学モデル」の考え方を反映したものでした。一方、障害者権利条約では、障害は主に社会によって作られた障害者の社会への統合の問題であるという、いわゆる「社会モデル」の考え方が随所に反映されています。これは、例えば、足に障害をもつ人が建物を利用しづらい場合、足に障害があることが原因ではなく、段差がある、エレベーターがない、といった建物の状況に原因(社会的障壁)があるという考え方です。
国連の議論においては、主に1980年代の様々な取組を通じて障害に対する知識と理解が深まり、障害者の医療や支援に対するニーズ(リハビリテーションなど)と障害者が直面する社会的障壁の双方に取り組む必要性が認識されるようになり、この条約もそうした認識に基づき作成されました。
この条約の目的は、「全ての障害者によるあらゆる人権および基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進すること」です。この条約では、障害者には「長期的な身体的、精神的、知的または感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含む」とされています。
条約の第2条(定義)では、障害者の人権と基本的自由を確保するための「必要かつ適当な変更および調整」であって、「均衡を失したまたは過度の負担を課さないもの」を「合理的配慮」と定義しています。これは、例えば車椅子用に段差に渡し板を敷いたり、窓口で筆談や読み上げなどにより理解を助けたりすることがそれに当たります。そして、障害に基づく差別には「合理的配慮の否定」が含まれます。また、第4条(一般的義務)では、締約国に障害者に対する差別となる既存の法律などを修正・撤廃するための適切な措置をとることを求めているほか、第5条(平等および無差別)では、障害に基づくあらゆる差別を禁止することや、合理的配慮の提供が確保されるための適当な措置をとることを求めています。この「合理的配慮の否定」を障害に基づく差別に含めたことは、条約の特徴の一つとされています。
条約の第4条(一般的義務)では、締約国は障害者に関する問題についての意思決定過程において、障害者と緊密に協議し、障害者を積極的に関与させるよう定めています。また、第35条(締約国による報告)では、条約に基づき設置されている「障害者の権利に関する委員会」に対する報告を作成するに当たり、先の第4条の規定に十分な考慮を払うこととされています。
これらの規定には、いわゆる“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)の考え方を背景として、障害当事者の声を重視するというこの条約の特徴が表れています。
条約の第9条(施設およびサービスなどの利用の容易さ)では、締約国は、障害者が輸送機関、情報通信などの施設・サービスを利用する機会を有することを確保するため、適当な措置をとることを定めています。この措置には、施設・サービスなどの利用の容易さに対する妨げ・障壁を特定し、撤廃することが含まれます。
条約の第19条(自立した生活および地域社会への包容)では、締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認め、障害者が、この権利を完全に享受し、地域社会に完全に包摂され、参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとることを定めています。
条約の第24条(教育)では、締約国は教育についての障害者の権利を認めることを定めています。障害者が精神的・身体的な能力などを可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とすることを目的として、締約国は障害者を包容するあらゆる段階の教育制度や生涯学習を確保することとされています。
また、その権利の実現に当たり、障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと、個々の障害者にとって必要な「合理的配慮」が提供されることなどが定められています。
条約の第27条(雇用および労働)では、締約国は、障害者が、障害のない人と平等に労働に関する権利を有することを認め、その権利が実現されることを保障・促進することを定めています。特にあらゆる形態の雇用における、障害に基づく差別の禁止や、職場での障害者に対する「合理的配慮」の確保のため、締約国が適当な措置をとることを定めています。
日本では、2011年の改正前の障害者基本法では、障害者は「身体障害、知的障害または精神障害(以下「障害」と総称する)があるため、継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者」と規定されていました。
障害者権利条約における関連規定を踏まえ、2011年に障害者基本法が改正され、いわゆる「社会モデル」の考え方を反映し、障害者は「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する)がある者であって、障害および社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と規定されました。同様に、社会的障壁についても「障害がある者にとつて日常生活または社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念、その他一切のもの」と規定されました。
条約の第2条(「障害に基づく差別」の定義)や第5条(平等および無差別)の規定に関して、日本では、2011年の障害者基本法の改正時に、同法の「基本原則」に「差別の禁止」が規定され、障害者が社会的障壁の除去を必要とし、そのための負担が過重でない場合は、その障壁を除去するための措置が実施されなければならないことが定められました。
この規定を具体化する法律が障害者差別解消法です。この法律は、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、障害を理由とする差別を解消することを目的としています。この法律では、障害を理由とする差別を「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」の二つに整理しています。「不当な差別的取扱い」とは、障害があるというだけで、商品やサービスの提供を拒否するような行為をいい、国の行政機関や地方公共団体、事業者の区別なく禁止されています。また、障害者から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合に、その実施が負担になりすぎない範囲で「合理的な配慮」を行うことも求められており、この合理的な配慮を欠くことで障害者の権利利益が侵害される場合は、これも差別に当たるとされています。具体的に何が不当な差別に当たり、どのようなことが合理的な配慮として求められるのかは、個々の状況で判断されるため、この法律では、対応要領や対応指針を具体的に示すことにしています。
日本では、2011年の障害者基本法の改正で障害者、障害者の自立・社会参加に関する事業の従事者および学識経験者から構成される「障害者政策委員会」が設置されました。同委員会は障害者基本計画の策定に当たり「調査審議し」、また、同計画の実施状況を監視し、必要に応じて「内閣総理大臣または関係各大臣に対し意見を述べる」ことなどが定められています。
条約の第9条(施設およびサービスの利用の容易さ)に関して、日本では「どこでも、誰でも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方に基づいて高齢者、障害者の移動などの円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)が制定されています。この法律には、建築物や旅客施設、車両を新設などする際に、バリアフリー基準に適合させることが定められています。このようなハード面の取組みに加え、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め協力を求める「心のバリアフリー」についても定められています。
このほかユニバーサル社会の実現に向け、ICT(情報通信技術)による歩行者の移動支援や、障害者を含む誰もが安心して旅行を楽しむことができる「ユニバーサルツーリズム」が進められています。
情報バリアフリーに向けたICTの活用については、障害者の利用に配慮した情報通信機器・システムの研究開発が行われています。また、障害者の社会参加を支援するシステムの開発・普及や、手話や点訳によるコミュニケーション支援体制の充実も進められています。
条約の第19条(自立した生活および地域社会への包容)に関して、障害者基本法では、障害の有無にかかわらず共生する社会の実現を図るに当たって旨とするべき事項として「全ての障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化、その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること」が規定されています。また、2011年の同法の改正で新たに、全ての障害者は、可能な限り、「地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」「言語(手話を含む)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得または利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること」が規定されました。
また、同法では、国および地方公共団体は、障害者が「医療、介護、保健、生活支援その他自立のための適切な支援を受けられるよう必要な施策」を講じることが義務づけられています。これに関連して、障害者総合支援法に基づき、地域において暮らすことができるよう、障害福祉サービスなどの充実が図られています。
条約の第24条(教育)に関して、障害者を受容する教育制度(いわゆるインクルーシブ教育システム)とは、障害のある児童がその潜在能力を最大限に発達させ、自由な社会に効果的に参加できるようにするという教育理念のもと、障害のある児童と障害のない児童とが可能な限り一緒に教育が受けられるよう配慮することと考えられています。
日本では、同条の内容を踏まえ、2011年に障害者基本法が改正され、「可能な限り障害者である児童および生徒が障害者でない児童および生徒と共に教育を受けられるよう配慮」することが新たに規定されました。
2013年に、学校教育法施行令が改正され、従来、一定の程度以上の障害のある児童生徒は特別支援学校への就学が原則とされ、小中学校への就学は例外だったものが、障害の状態などを踏まえ、総合的な観点から就学先を決めるようになりました。
さらに、一人ひとりのニーズに応じたきめ細かな指導を行うため、通級指導の教員の増員や、特別支援教育支援員の経費に対する地方財政措置が行われています。また、障害のある児童に対する個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成が進められているほか、弱視の児童のための拡大教科書の普及促進、教育・医療・福祉・保健・労働といった関係機関の連携による、発達障害を含む障害のある児童に対する支援に必要な様々な施策が進められています。
日本では、条約の第27条(労働および雇用)の趣旨を踏まえ、2013年6月に障害者雇用促進法が一部改正され、雇用分野における障害者差別の禁止や、精神障害者を障害者の法定雇用率の算定基礎に加えることなどが盛り込まれました。
国や地方公共団体では、知的障害者を非常勤職員として雇用し、一定の業務経験の後に企業への就職を目指す「チャレンジ雇用」が進められています。
障害者の雇用に伴う事業主の負担を軽減するため、障害者雇用納付金制度が設けられ、法定雇用率を未達成の企業からは納付金を徴収し、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業には障害者雇用調整金・報奨金が支給されるなど様々な助成が行われています。
2013年4月からは、障害者優先調達推進法の制定を受け、国や地方公共団体、独立行政法人の公的機関による障害者就労施設からの優先的な購入も行われています。このほか、全国障害者技能競技大会「アビリンピック」の開催を通じて、広く社会の障害者に対する理解と認識が深められ、雇用の推進が図られています。
条約の第30条(文化的生活、レクリエーション、余暇およびスポーツへの参加)に定められている障害者の芸術活動に関して、芸術活動に取り組む障害者やその家族、支援者に対する具体的な支援の振興が進められています。
また、障害者も楽しめる舞台芸術公演、展覧会なども各地で開催されるようになっています。国立劇場や国立美術館、国立博物館では、障害者の入場料の割引や無料措置が行われているものもあります。また、全国各地の劇場や美術館、博物館でも、車いす用のトイレやエレベーターの設置など、環境改善が進められています。
障害者スポーツに関しては、2011年に成立したスポーツ基本法において、障害者の自主的かつ積極的なスポーツを推進するとの理念が掲げられています。同法を受けて、障害者スポーツ指導者の養成、全国障害者スポーツ大会の開催など、障害者スポーツの裾野を拡大するとともに、パラリンピックやデフリンピックの競技大会への派遣や、トップアスリートに対する強化支援などの障害者スポーツにおける国際競技力向上が図られています。
日本はこれまで、障害者施策に関する技術や経験を数多く蓄積してきました。これらを、政府開発援助(ODA)の活動を通じて開発途上国の障害者施策に役立てることは、極めて有効であり、重要です。条約の第32条(国際協力)を踏まえ、障害と開発に関する国際協力がこれまで以上に進められています。
具体的には、鉄道建設や空港建設にバリアフリー設計を取り入れるなどの有償資金協力、リハビリテーション施設の整備などの無償資金協力、障害者の社会参加に関する研修員の受け入れや専門家・JICA(国際協力機構)ボランティアの派遣などの技術協力が行われています。また、日本NGO連携無償資金協力を通じた、障害者への職業訓練などの、草の根レベルの支援も行われています。
これらの協力においては、障害当事者を中心とする意思決定や実施が重視されており、日本の協力によりタイのバンコクに設立された「アジア太平洋障害者センター」、ODA事業として初めて盲ろう当事者が専門家として派遣された、ウズベキスタンでの「タシケント市における盲ろう者のコミュニケーション支援」など、様々な事業で約10年間に延べ100人以上の障害当事者が派遣されています。
こうした直接的な援助のほか、国連における協力や地域協力のため、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)を通じた活動支援も行われています。
条約の第33条(国内における実施および監視)は、締約国が自国の法律上・行政上の制度に従って「条約の実施を監視するための枠組み」を自国内に設置することを定めています。
日本では、この規定を念頭に2011年に障害者基本法が改正され、障害者、障害者の自立・社会参加に関する事業の従事者および学識経験者から構成される「障害者政策委員会」が設置されています。委員は内閣総理大臣により任命されますが、その構成については、同委員会が様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた調査審議が行えるよう配慮されることが定められています。
同法では、政府は障害者施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、障害者基本計画を策定することが定められています。障害者政策委員会は、この障害者基本計画の作成・変更について調査審議を行い、必要に応じて内閣総理大臣または関係各大臣に対して意見を述べることとされています。また、同委員会は障害者基本計画の実施状況を監視し、必要に応じて内閣総理大臣または内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告を行うこととされています。どちらの場合も、同委員会は関係行政機関の長に対して、資料の提出などの協力を求めることができます。このような機能を通じて、同委員会は条約の実施を監視することになります。
この「条約の実施を監視するための枠組み」は、「合理的配慮の否定」に関する規定と同様、これまでの人権条約には見られない新たな規定があり、障害者権利条約の特徴ということができます。
条約の第35条(締約国による報告)では、締約国は、条約に基づく義務を履行するためにとった措置に関する包括的な報告を「障害者の権利に関する委員会」に提出することを定めています。この報告の作成に当たっては、公開された透明性のある過程を踏むことを検討するとともに、障害者の関与について十分な考慮を払うことが求められています。
「障害者の権利に関する委員会」は、締結国から選ばれた18人の専門家から構成され(第34条)、締結国による報告を検討し、報告について提案や勧告を行うこと(第36条)が定められています。この仕組みにより、締約国は条約の実施について国際的に審査されることになります。
出典:外務省.障害者権利条約パンフレット.障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)(Convention on the Rights of Persons with Disabilities).2015.3.20.
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html (参照 2015-06-03)
外務省.障害者の権利に関する条約.障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)(Convention on the Rights of Persons with Disabilities). http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000899.html (参照 2015-06-03)