トゥレット障害について

1.はじめに

トゥレット障害の同義語には、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、トゥレット症候群などの言い方がある。トゥレット障害(トゥレット症候群)は、まばたきや顔しかめなどの動きを繰り返し行う「運動チック」と、咳払いや奇声などを繰り返し発してしまう「音声チック」を特徴とする神経発達障害です。
専門的に言うと、多様性の運動チックと1つ以上の音声チックを有して、何らかのチックを認める期間が1年以上に及ぶ場合に、トゥレット障害と診断されます。
トゥレット障害は、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder: OCD)及び注意欠陥・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD)など様々な精神神経疾患を併発することがあります。4~11歳頃に発症することが多く、10~15歳頃に最悪時を迎えますが、成人期初めまでに消失や軽快に転じることが多いのが特徴です。皮質-線条体-視床-皮質回路(cortico-striato-thalamo-cortical circuit: CSTC回路)、特にドーパミン系の異常がメカニズムの要因として想定されています。根本的な原因はまだ解明されていませんが、緊張や不安、興奮などといったストレスが症状の誘因となることが多いと考えられています。治療には薬物療法、認知行動療法が用いられています。

2.トゥレット障害とチック

突発的、急速、反復性、非律動性、常同的な運動あるいは発声をチックと言います。チックを主症状とする症候群がチック障害であり、トゥレット障害はその一つです。詳細な症例報告をしたフランス人医師ジョルジュ・ジル・ド・ラ・トゥレットの名にちなんでジル・ド・ラ・トゥレット症候群(Gilles de la Tourette syndrome)と呼ばれてきました。それを縮めてトゥレット症候群(Tourette syndrome: TS)ということもありま。症状は重症なチック障害であると強調されてきました。その中でも重症度にはかなり幅があります。
チックには、《運動チック》と《音声チック》があり、それぞれが単純チックと複雑チックに分けられます。複雑チックは、典型的な単純チックよりややゆっくりで意味があるように見えます。

  • 単純運動チックには、瞬き、顔しかめ、首ふり、肩すくめなどがあります。
  • 複雑運動チックには、体の後方にそらす、拍手、ジャンプ、四肢の屈伸等、より複雑な日常動作を繰り返します。
  • 単純音声チックには、咳払い、鼻鳴らし、叫び声などがあります。
  • 特異的な複雑音声チックに、社会的に受け入れられない言葉を発してしまうコプロラリア(coprolalia、汚言症)、他者の発した言葉を繰り返すエコラリア(echolalia、反響言語)が含まれます。

チックは、これまで不随意運動とみなされてきました(不随意運動とは、自分の意思とは関係なく、体が勝手に動いてしまう現象です。四肢や顔面の筋や筋群がピクッと収縮したり、身体を細かく震わせたりするなど、さまざまな体の動きを指します。自分で止めようとしても止まらない性質があります)。今日においては、症例から部分的には随意的抑制が可能であることが解り、“半随意”と考えられるようになりました。
チックには、やらずにはいられないという抵抗しがたい感覚をしばしば伴うため、この感覚は、前駆衝動(premonitory urges)と呼ばれ強迫症状と似ており、強迫性障害を併発することがあります。チックは、種類、部位、回数、強さなどがしばしば変動します。変動は自然の経過で生じることもあれば、心理的な影響によることもあります。

5.経過・予後

チックは4~11歳頃に発症することが多く、6~7歳頃に最もよく認められます。10歳を過ぎると前駆衝動について気づく者が増えます。10~15歳頃にチックの最悪時を迎えることが多いです。
チックは成人期初めまでに消失や軽快に転じる場合が 80~90%あります。但し、少数では成人まで重症なチックが続いたり、成人後に再発したりします。

6.疫学

過去にはトゥレット障害はかなり稀な疾患と考えられていましたが、複数の国の14の疫学研究では5~18歳での頻度が0.4~3.8%に分布し、全体では約1%ありました。

7.病因・病態

トゥレット障害は生物学的な基盤のある神経発達障害と考えられています。
双生児研究、家族研究から、トゥレット障害に遺伝的要因の関与が大きいことが明らかになっています。慢性運動チックやOCDがトゥレット障害と遺伝的に関連する可能性が指摘されています。詳細な家族研究から単一遺伝子による疾患と仮説されたこともありましたが、現在では複数の遺伝子と環境要因が関与する多因子遺伝と考えられています。最近では、遺伝子変異を有する患者の知見に基づいて、膜タンパク質をコードするSLITRK1遺伝子、L‑ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするHDC遺伝子の関与が示唆されています。
また、遺伝的要因と環境要因との相互作用も検討されています。溶連菌感染症後の自己免疫疾患(pediatric autoimmune neuropsychiatric disorders associated with streptococcal infections;PANDAS)について関心が持たれてきましたが、いまだに議論が続いているのが現状です。
トゥレット障害の病態としては、皮質-線条体-視床-皮質回路(cortico-striato-thalamo-cortical circuit: CSTC回路)の異常が想定されており、その中でも基底核の機能低下を示唆する所見が多いです。CSTC回路には部分的には重なるが大局的には並行する複数の回路が存在しており、トゥレット障害にしばしば併発するOCDやADHDもCSTC回路の異常を有するとされています。
トゥレット障害におけるドーパミンD2受容体遮断作用の強い薬物療法の有効性などから、神経伝達物質の中でもドーパミン系が注目されてきました。ドーパミン系の受容体の異常、トランスポーターの異常、ドーパミンの相性の(phasicの)放出などが報告されており、機序は一律ではないかもしれません。ドーパミン系以外にもセロトニン系、ノルアドレナリン系をはじめ多様な神経伝達物質の関与も示唆されています。

8.治療

a.治療の進め方

トゥレット障害を有する本人を包括的に評価するという姿勢が大切であり、トゥレット障害に伴う生活上の困難に関連する要因を、トゥレット障害の重症度、本人及び周囲の認識と対処能力の2つの側面で整理します。トゥレット障害の重症度は、以下をそれぞれ分けて評価します。

①チック自体の重症度
②チックによる悪影響の重症度
③併発症状の重症度

包括的な評価に基づいて治療を構成します。その際にはチック及び併発症が軽症か重症かで大まかな目安を立てます。
  1. チックも併発症も軽症な場合には、家族ガイダンス、心理教育、環境調整を行って経過をみます。本人にチックへの気づきがあり積極的な治療を望むならば認知行動療法を加えます。
  2. チックが軽症で併発症が重症な場合には、チックを考慮しつつ併発症の治療を優先します。
  3. チックが重症で併発症が軽症な場合には、環境調整をより積極的に行いつつ、チックに対する薬物療法を行います。
  4. チックの重症度が軽症寄り(すなわち中等症)で本人や家族が薬物療法を嫌うならば認知行動療法を行います。
  5. チックも併発症も重症な場合には、双方に対して薬物療法を行うことが多いです。標的症状がチックか併発症か明確にして認知行動療法を組み合わせることもあります

b.家族ガイダンス、心理教育

チックや併発症状について、本人および家族などの周囲の人々の理解と受容を促し、適切な対応のための情報を提供します。チックは、親の育て方や本人の性格に問題があって起こるのではないこと、チックの変動性や経過の特徴を踏まえて、些細な変化で一喜一憂しないこと、本人にチックを完全にやめさせようと求めずに、本人の特徴の一つとして受容していくこと、チックのみにとらわれずに長所を伸ばす、などの観点も含めて対応することなどを伝えます。

ⅽ.環境調整

本人がチックを持っていても大丈夫と感じ、前向きに生活できるような環境であることが望ましい。こどもであれば、家庭と並んで学校で理解を得ることが重要です。トゥレット障害に関する基本的なことに加えて、その特定のこどもや家族について、チックや併発症状のみならずその人たちのトゥレット障害に対する思いも含めて関係者に理解を促します。

ⅾ.薬物療法

薬物療法は主な標的症状がチックか併発症かで大別されます。チックに対する薬物の中心は抗精神病薬です。アメリカトゥレット協会医療アドバイス委員会がエビデンスを加味してまとめた薬物療法のガイドラインによると、我が国で使用できる薬物の中で、チックに対して十分にエビデンスのある抗精神病薬は、ハロペリドール、ピモジド、リスペリドンで、チックに対していくらかのエビデンスがある抗精神病薬は、フルフェナジン、チアプリドです。
ヨーロッパのチック障害の臨床ガイドラインでは、スルピリド、オランザピンもいくらかエビデンスがあるとされています。最近では、これらに加えて、アリピプラゾールの有効性を示す報告が複数あり、鎮静などの副作用が少ないこともあり、注目されています。
非抗精神病薬の中でいくらかのエビデンスがあるとされる薬物に、α2ノルアドレナリン受容体作動性の降圧薬のクロニジンがあります。

e.認知行動療法

チックが“半随意”であり前駆衝動を伴うとの認識が高まるにつれて、行動理論モデルを利用した治療法が行われるようになってきました。中心となるのがハビットリバーサル(habit reversal)であり、前駆衝動への意識を高めるトレーニングとチックに対する拮抗反応の形成からなりま。チックが悪化しやすい状況の分析に基づく対応の工夫やリラクセーションをハビットリバーサルに組み合わせる包括的な行動介入方法(Comprehensive Behavioral Intervention of Tic Disorders: CBIT)の有効性が示されています。
ハビットリバーサルは、チックに気づくことによってコントロールしやすくなることを目指しますが、チックを気にしすぎてかえって悪化しないように配慮を要します。チックをすべてなくそうとしないことを確認しつつ、最も改善したいチックを定めて、よりましな随意的な行動や良いイメージに置き換えることを促します。







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