児童養護施設で暮らすこどもが利用できる障害に関する福祉サービスは主に次の5つです。
- ①児童発達支援
- ②放課後等デイサービス
- ③保育所等訪問支援
- ④共同生活援助(障害者グループホーム)※施設退所後の利用
- ⑤宿泊型自立訓練(通勤寮)※施設退所後の利用
社会的養護の児童が児童発達支援を利用できるようになったのは2016年(平成28年)からです。
原則0歳〜小学校入学前の障害のあるこどもを対象に、発達支援を提供するものとして位置づけられ、集団生活の中で生きる基礎力を身につけていけるよう様々な療育の要素を取り入れた支援活動を行っています。
多動や自閉傾向、また言葉の発達に気になったりしたら、幼稚園やその先の小学校での生活にうまく適応できるように児童発達支援を利用するケースも増えています。また児童発達支援でのアセスメントについて幼稚園の先生と共有し、その子にとって過ごしやすい環境を一緒に考えることもでき、その子自身の困りごとも軽減できるように手厚い体制のなかで特性にあったサービスをしてくれます。
社会的養護の児童が放課後等デイサービスを利用できるようになったのは2016年(平成28年)からです。
原則6歳~18歳までの障害のある子や、発達に特性のある子が、放課後や夏休みといった長期休暇に利用できる福祉サービスです。
通常は、利用したい施設が決まったら市区町村に申請し、「受給者証」が発行され通所することが可能となります。しかし、施設のこどもの場合には「やむを得ない事由による措置」(児童福祉法第21条の6)という扱いでの利用となるため、申請から通所するまでが複雑になっています。
2018(平成30)年4月から児童養護施設のこどもたちも訪問支援を利用できるようになりました。
一般社団法人全国児童発達支援協議会が発行した「保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書(平成29年3月)」によると「保育所等訪問支援は、(中略)保育所や幼稚園、認定こども園、学校、放課後児童クラブなど集団生活を営む施設を訪問し、障害のない子との集団生活への適応のために専門的な支援を行うもの」です。よって、保育所等訪問支援は「普段通所している場所での集団適応を支援するサービス」と書かれているように、専門のスタッフがこどもの利用している施設に訪問し、個別に支援をする事業ということになります。
なお、平成 30 年 4 月からは「乳児院その他の児童が集団生活を営む施設として厚生労働省令で定めるもの」が追加されることになっており、乳児院や児童養護施設も訪問支援を提供できることになっています。
グループホームとは障害のある人たちが日常生活を送る場所で、介護や支援を受けながら共同生活をする場所です。障害者総合支援法の障害福祉サービスの一つで、共同生活援助は「グループホーム」とも言われます。
具体的には……
- 一軒家やアパートなどで一緒に生活
- 食事の用意・風呂・トイレなどの介助がある
- 家事は支援員がやるケースが多い
特別支援学校を卒業し、就労した子達の大半が通勤寮に行っていますが、通勤寮に行った子の大半は仕事が続いているようです。
宿泊型自立訓練とは知的障害または精神障害のある方に対して、生活の場やその他の設備を利用することを通して、家事等の日常生活能力を向上するための支援、生活等に関する相談・助言など、必要な支援を行います。
具体的には……
- 施設で生活をする
- 基本、家事はじぶんで行う
- 自立度が高い
特別支援学校を卒業し、就労した子達の大半が通勤寮に行っていますが、通勤寮に行った子の大半は仕事が続いているようです。
児童養護施設で暮らしている障害をもつ子も、放課後等デイサービスや保育所等訪問支援事業、グループホームを利用できることがわかりましたが一つ大きな課題があります。
それは施設や里親家庭のある場所ではなく、親(保護者)の住所のある市区町村が申請先になるということです。
「障害児通所給付費又は特例障害児通所給付費(以下、「障害児通所給付費等」)の支給を受けようとする障害児の保護者は、市町村の障害児通所給付費等を支給する旨の決定(以下、通所給付決定)を受けなければならない。 通所給付決定は、障害児の保護者の居住地の市町村が行うものとする。ただし、障害児の保護者が居住地を有しないとき、又は明らかでないときは、その障害児の保護者の現在地の市町村が行うものとする。」
*児童福祉法第21条の5の5(障害児通所給付費、特例障害児通所給付費及び高額障害児通所給付費の支給)
「(略)当該障害者等が満十八歳となる日の前日に当該障害者等の保護者であった者が有した居住地の市町村が、支給決定を行うものとする。」
*障害者総合支援法第19条の4(介護給付費等の支給決定)
ちなみに親が死亡していたり、行方不明だったりする場合等は、施設等の所在地が申請先になります。
親の居住自治体=申請先 / サービスの決定先になるということは、親が引っ越してしまうと再申請が必要になります。
例)特別支援学校 高等部3年生のBさんは、この秋無事に企業から内定をもらい、会社の近くの知的障害者通勤寮への入所を希望し、C区に利用申請をしました。スムーズに手続きが進んでいたのですが、その矢先に親がD区へ引っ越し。そのため手続きが大幅に遅れてしまい、通勤寮へのエントリーが済んだ頃には入所が3年待ちになってしまいました。
※親の居住自治体が申請先になる理由
なぜ、施設や里親家庭のある場所ではなく、親の住所のある市区町村が申請先になるのか?
施設等に所在する自治体に財政的負担が偏らないようにするために、このような制度設計になっています。それによって一部のこどもへの不利益・権利侵害ともいえる状況が生じてしまいます。
例)東京都の児童養護施設で暮らすE君は退所後の住まいとして、アフターケアがしやすく、かつなるべく慣れ親しんだ環境で暮らせるよう施設の近隣の障害者共同生活援助(グループホーム)への入所を検討していました。その際、親の居住地が埼玉県F市にあり、F市が支給決定自治体であることをグループホームに説明すると「都外ケースになってしまうのでごめんなさい」と言われ、そこに入所することができませんでした。
- 社会的養護のこどもがサービスを利用する場合は、上記のように厚労省の通知に書かれているように「やむを得ない事由による措置」という特殊な扱いになるため戸惑う自治体担当者の方が多いようです。
- 費用の徴収が免除(施設・里親はもちろん親からも)される点も、イレギュラーな扱いになるため申請にてこずることがあようです。
以上のような制度上の理由から通所を打ち切りになったり、卒園後の住まい探しが難航しているのが現状です。
が、こうした現場の声を受け、厚生労働省は2021(令和3)年3月31日付で「措置児童が障害児通所支援等を利用する場合の事務処理要領及び障害児を受け入れる乳児院及び児童養護施設における保育所等訪問支援の積極的な活用について(周知のお願い)」という通知を各都道府県・自治体へ発出されました。根本的な解決とは言えないまでも、少しでもサポートが必要な子が円滑なサービス利用につながることを期待しています。
児童養護施設に関する課題を深堀すると、実親がネックになる課題というのがいくつか発生してきます。例えば、携帯電話の契約・住居の賃貸借契約などがそうです。児童養護施設というと親のいない子が預けられる施設という印象がありますが、実はその93.3%が親のいるこども達であり、その内の71.6%が施設入所後も面会など交流を続けています。しかし、こども達が施設に入るということは、多かれ少なかれ親子間で良好な関係を維持することができなかったり、または築けなかった結果だと少なからず言えます。今後、社会的養護における課題を議論していくうえでも、施設にいるこども達と実親の関係(法的含む)については実際に多くの課題があることは確かなことです。