病弱・身体虚弱児について

目次
1.病弱・身体虚弱とは
    病弱とは
    身体虚弱とは
2. 病弱・身体虚弱教育の現状
    その他の疾患
3.自立活動の主な指導内容
    配慮すべきこと
        (1)体調や病状等を含めた実態把握
        (2)主体的に取り組む指導方法の工夫
    指導計画の作成
    健康の保持
    心理的な安定
    人間関係の形成
    身体の動き
    コミュニケーション
4.病弱・身体虚弱に配慮した指導
    こどもの不安への対応
    基礎的・基本的事項の精選
    教材・教具の工夫、ICT機器等の活用
    学習活動における負担などへの配慮

病弱・身体虚弱児の教育の対象は、悪性新生物や心臓疾患、腎疾患、希少疾患など様々な病気のほか、心身症やうつ病などの精神疾患、発達障害の二次障害としての行動障害などの、心のケアが必要な児童生徒は、多岐にわたります。このような多様な疾患の児童生徒への指導にあたっては、様々な配慮や支援が必要となります。ここでは、病弱・身体虚弱児の教育について、以下、説明します。

1.病弱・身体虚弱とは

病弱とは

「病弱」という言葉は、医学的な用語ではなく、病気にかかっているため体力が弱っている状態を示す一般的な意味で用いられます。病弱とは疾病が長期にわたっているもの、または長期にわたる見込みのもので、その間医療または生活規制が必要なものをいいます。しかし、たとえ病状が重くても急性(一過性)のものは含めません。ここでいう、「生活規制」とは、健康状態の回復・改善を図るため、運動、日常の諸活動(歩行、入浴、読書、学習など)および食事の質や量について、病状や健康状態に応じて配慮することを意味しています。

身体虚弱とは

「身体虚弱」という言葉も医学的な用語ではなく、「体が弱い」ことを意味する一般的な用語です。その概念にはいろいろなものが含まれ、広く解されています。身体虚弱とは先天的または後天的な原因により身体諸機能の異常を示したり、疾病に対する抵抗力が低下したり、あるいはこれらの状態が起こりやすいため、学校に出席することを停止するほどではないが、長期にわたり健康な者と同じ教育を行うことによって健康を損なうおそれがあるという程度のものをいいます。

2. 病弱・身体虚弱教育の現状

病弱・身体虚弱のあるこどもの教育の場として、「特別支援学校(病弱)」「病弱・身体虚弱特別支援学級」「通級による指導」があります。
たとえ入院中であっても教育を受けたい、受けさせたいと考えるこどもや保護者が多くいる一方で、「入院中は勉強したくない」、「病気のこどもに無理して勉強させなくてもよい」、「無理して勉強させて、病気が悪化したら大変」と考えているこどもや保護者がいるのも事実です。また、入院中に教育を受けることができるということを知らないということもありえます。病弱教育の制度や意義などを含めて、こどもや保護者に正しい情報が伝わることが必要とされています。
近年は、医学の進歩によって入院の短期化や入院の頻回化(繰り返しての入院)、退院後も引き続き医療や生活規制が必要となるケースの増加など、病弱・身体虚弱のあるこどもの治療や療養生活は大きく変化してきています。それにともない、病気で入院し、病院内の特別支援学級や特別支援学校への転校手続きをどうするか迷っている間に退院が決まってしまったり、感染症対策などのため退院後すぐに地域の学校に通うことができないなど、教育的な対応が十分にできないケースもあったりと、課題となっています。
しかし、病弱・身体虚弱の状態、生活環境などに応じた適切な教育を行うことは、学習の空白や学習の遅れを補完するだけでなく、生活を充実させ、心理的な安定を促すとともに、心身の成長や発達に好ましい影響を与えることが報告されています。入院の有無にかかわらず、病気の状態や必要とされる支援の内容に応じて、小・中学校の通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった多様な学びの場で教育を受けることができるようにすることや、それらを継続できるものにしていくことなど、柔軟な対応ができるようになっています。
病弱・身体虚弱教育は、病気自体を治すものではありませんが、情緒の安定や意欲を向上させることにより治療効果が高まったり、健康状態の回復・改善を促したりすることに有効に働くものとしてますます期待されています。

その他の疾患

学校教育法施行令第22条の3の病弱者の障害の程度に示されている「その他の疾患」には、多くの疾患が含まれます。例えば、糖尿病などの内分泌疾患、再生不良性貧血、重度のアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、心身症、うつ病や適応障害などの精神疾患、高次脳機能障害などがあります。
なお、自閉症や学習障害、注意欠陥多動性障害などの発達障害の子どもは、それだけでは特別支援学校(病弱)の対象ではなく、小・中学校の通常の学級で学習することが基本となります(自閉症については、自閉症・情緒障害特別支援学級で学習することができます)。
しかし、これらのこどもの中には、様々な要因によりうつ病や強迫性障害、適応障害、統合失調症などの精神疾患の症状が顕在化し、在学中に診断名が付け加わったり変化したりすることもあります。このような状態のこどもの中には、特別支援学校(病弱)で学習することが必要となることもあります。そのため、最近は、特別支援学校(病弱)に転校してくるこどもが多くみられます。

3.自立活動の主な指導内容

配慮すべきこと

(1)体調や病状等を含めた実態把握
実態を把握していく上で、教育的な立場や心理学的な立場から実態把握を行うことはもちろん、病気による運動制限や食事制限など、様々な生活規制に対して医学的な立場から情報の提供や助言を得たりします。
また、目標を設定するにあたっては、こどもの実態把握に基づいて、入院期間や療養期間などを考慮しながら、中長期的な観点から目標を設定するとともに、短期的な観点も合わせて目標を定めています。
病弱・身体虚弱のあるこどもは、病状や体調が変わりやすいことが多いため、体調や病状を的確に把握するとともに、常に状態に気を配りながら指導を行うことが大切です。そのために、主治医や担当看護師、保護者、前籍校との連携を密にしておくことが求められています。

(2)主体的に取り組む指導方法の工夫
自立活動の指導においては、こどもが積極的な態度で意欲的に学習活動ができるようにすることが必要です。そのために、個々のこどもの実態に即した指導方法を創意工夫することが必要となります。
意欲的な学習活動を促すためには、こどもが目標を自覚するとともに、興味を持って主体的に取り組み、成就感を味わうことができるよう、課題をわかりやすく提示したり、課題達成の度合いを理解しやすくしたりするなど、指導方法を工夫しています。

指導計画の作成

具体的な指導内容等を決定するにあたっては、実態把握を適切に行うとともに、こどもが必要とする課題を明確にし、指導目標を設定しています。
特別支援学校学習指導要領解説自立活動編(幼稚部・小学部・中学部・高等部)を基に、病弱・身体虚弱教育に関する自立活動の主な指導内容を整理すると以下のようになります。ここで注意したいことは、一つの項目だけを指導するのではなく、複数の項目を選定し、相互に関連づけるということです。

健康の保持

(1)生活のリズムや生活習慣の形成に関すること
・食事、安静、運動、清潔、服薬等の生活習慣の形成及び定着化
(2)病気の状態の理解と生活管理に関すること
・人体の構造と機能の知識・理解
・病状や治療法等に関する知識・理解
・感染防止や健康管理に関する知識・理解
・安静・静養、栄養・食事制限、運動量の制限等に関する知識・理解
(3)身体各部の状態の理解と養護に関すること
・患部の状態の把握
・床ずれ防止のための体位変換
(4)健康状態の維持・改善に関すること
・各種の身体活動による健康状態の維持・改善等

心理的な安定

(1)情緒の安定に関すること
・カウンセリング的活動や各種の心理療法的活動等による不安の軽減
・安心して参加できる集団構成や活動等の工夫
・各種の体育的活動、音楽的活動、造形的活動、創作的活動等による情緒不安定の改善
(2)状況の理解と変化への対応に関すること
・場所や場面の変化による不安の軽減
(3)障害による学習上または生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること
・各種の身体活動等による意欲・積極性・忍耐力及び集中力等の向上
・各種造形的活動や持続的作業等による成就感の体得と自信の獲得

人間関係の形成

(1)自己の理解と行動の調整に関すること
・自分が得意なこと、不得意なことの理解
(2)集団への参加の基礎に関すること
・集団に参加するための決まりの理解

身体の動き

(1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること
・姿勢保持のための筋力の維持
(2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること
・コンピュータの入力動作を助けるための補助具の活用
(3)身体の移動能力に関すること
・日常生活に役立つ移動能力の習得
・心臓等に過度の負担がからない移動手段の選択

コミュニケーション

(1)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること
・(進行性の病気により、運動機能が徐々に低下する場合など)将来必要となるコミュニケーション手段の獲得

4.病弱・身体虚弱に配慮した指導

こどもの不安への対応

病気やそれに伴う入院によって、こどもの生活は大きく変化します。こどもの日常生活は中断され、様々な不安や心配事でいっぱいになります。
入院や治療のため学校を欠席しがちになると、「勉強はどのくらい進んでいるのか」、「仲間から取り残されるのではないか」、「クラスでは今、何がはやっているのか」、「学校に戻ったとき、以前と同じようにつきあってくれるのか」などといった恐怖感や不安感が高まってきます。
また、思春期のこどもの場合は、理想的な自分のイメージと現実の自分の容姿や能力を比較することで、劣等などをもつなど様々な葛藤が起きやすい時期です。さらに、自分の将来の生活についての考えを探求する時期でもあります。学業の遅れや欠席などの学校生活上の問題や薬の副作用への不安、ボディ・イメージに関する劣等感、病気の予後や自分の将来についての不安、進行性の病気の場合はできなくなっていく自分への不安や恐怖などを抱くようになり、複雑な心理社会的な問題を抱えるようになります。時には、保護者や医療者に反発し、治療拒否にまで発展することもあります。
このように様々な不安を抱えているこどもに関わる指導者は、これらの背景を十分理解することが大切になります。そしてその不安や心配事に対処するため、中断してしまったこどもの日常(特に学校生活)をできる限り取り戻すとともに、勉強を教えてくれる存在にとどまらず、こどもにとっての心理的な支援者としてこどもと関わっていくこととなります。
また、前籍校とのつながりで不安を抱えている場合は、本人や保護者、前籍校とよく相談した上で、交流および共同学習として手紙のやりとりやテレビ電話機能を活用するなど、そのこどものクラスでの存在や人間関係が途切れないように支援しています。

基礎的・基本的事項の精選

病弱・身体虚弱のあるこどもは、種々の要因により、一般に授業時数の制約を受けているほか、学習の空白や遅れ、身体活動の制限などを伴う場合が多くみられます。また、特別支援学校(病弱)や病弱・身体虚弱特別支援学級等の在籍期間がそれぞれ異なる上、小・中学校から転入学してきたこどもについては、学習の進度などに差がみられます。
各教科の指導計画の作成にあたっては、授業時数の制約をはじめ、こどもの実態を十分配慮し、教科の特質を踏まえて指導内容を精選し、基礎的・基本的な事項に重点を置いて指導することになります。

教材・教具の工夫、ICT機器等の活用

病弱・身体虚弱のあるこどもは、授業時数の制約、学習の空白、身体活動の制限、経験の偏り、病気の不安等による意欲の低下、社会性の未熟などの一般的傾向がみられます。特に体育・保健体育をはじめとした実技や実習(実験)などを伴う授業では、内容の取り扱いや教材・教具の工夫、ICT機器等を活用するなど、指導法を工夫することが求められます。
特に筋ジストロフィーなどのこどもの場合、補助的手段の活用を図り、姿勢保持や運動・動作の活動の制限の改善を図ることが必要です。そのために本人に合った教材・教具が重要になります。コンピュータなどの入力のためのスイッチの開発等、情報活用を行うための環境整備を行い、それを活用する能力を育てることで、高等部を卒業した後の生活を豊かなものにしていくことにつながります。

学習活動における負担などへの配慮

病弱・身体虚弱のあるこどもの病気の種類は多様で、その病状も様々です。したがって、それぞれの病気の特質や個々の病状などを考慮し、健康状態に無理のない指導計画を作成するように留意することが重要となっています。







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