答え6 今、私たちの暮らす世界は、未曽有の危機に見舞われた時代の分水嶺にあるといえます。新型コロナウイルス(COVID-19)によって引き起こされる社会的な葛藤が非日常性(緊急事態)を引き起こし、これまで当りまえと思っていたライフスタイルいまで急激な変化を迫り、そのことによって《心の問題》が深刻な局面を迎えているといってもあながち間違えとはいいきれません。親御さんの中にはコロナによるストレスが、お子さんの発達に与える影響を心配されている方も多いのではないでしょうか。気になる発達障害とコロナストレスとの関係や、コロナ禍で意識したいこと、障害を持つ人々への支援の基本について、以下簡単ではありますが紹介したいと思います。
目次 |
新型コロナウイルス感染症が「こどもの感情・発達」に与える影響 コロナのストレスで発達障害の症状が悪化する? ▷発達障害の症状の悪化の経緯とは ▷発達障害の症状の悪化の具体例 辛い症状を抱える人々に必要な支援とは? 最後に |
こどもたちは、困難な状況に直面すると、さまざまな形で無意識に不安を表現すると言われています。例えば、お母さんへの甘えが激しくなったり、おねしょや、寝つきの悪さが目立つようになったりするのもストレスによる反応のひとつです。さらに、怒りっぽくなったり、不安を感じやすくなったりするなど、気分にも変化がみられやすくなることも報告されています。
こうした変化は、非常事態で多くのこどもに見られる正常な反応で、社会全体の状況が落ち着くことで次第におさまっていくもの事実です。あるいは、社会が落ち着きを取り戻す前に、心身が今の環境に適応することで落ち着いてくるのかもしれません。
ところがこのような、こどもの変化を、新型コロナウイルスによる自粛や休校、テレワークの悪影響と捉え、無理に治そうとしたり、過剰に心配しすぎたりしては、こどもにとってかえってストレスになってしまいます。
お子さんのサインは「この子なりに、感じるものがあるようだ」と受け止め、落ち着いて接することが大切です。
新型コロナウイルスの感染拡大と、社会の変動が激しくなるにつれて、発達障害の症状の相談が増えているようです。
発達障害とは、本来持って生まれた特性や特徴からくるものです。今回のようなコロナの感染拡大に関連した社会変動という環境の大きな変化にともない、周囲の環境に上手く適応しきれずに大きなストレスを抱えることで、発達障害の症状が強く出てくることがままあります。
コロナ禍で症状が悪化すると考えられる要因の一つは、ストレスフルな状況下で、もともともっていた特徴が強く表れるようになったことだといえます。
発達障害は、「健常」と「異常」にはっきり分けられるものではありません。これまでの安定した環境では、目立って困ることもなくやってこられた子が、この異常事態では適応が追いつかず、キャパシティー・オーバーになってしまっているということが考えられます。
よって、これまでになかった特徴的な言動が目立つようになり、周囲が気づくことが増えたのかもしれません。
例えばテレワークに切り替わることにより、普段のやり方と異なる仕事の手順になることで不注意が生じやすくなってしまったり、職場の人との連絡をうまく整理できずスケジュール管理ができなくなってしまったり、メールの指示を上手く解釈できなくて勘違いをしてしまったり、等々があげられます。また、ボーっとすることが増え、反対に集中に欠けるといった変化が目立つようになった人の場合、発達障害だけではなく、ストレス性の抑うつの症状やうつ病を発症する可能性もあります。
このような不調のために、周囲と上手く連携が取れなくなり、また外出規制やテレワークの為に周りからのフォローが行き渡らないために、一層一人で抱え込んでしまう事が多いようです。このような症状でお困りの方は、医療機関などへご相談されることもお勧めします。
新型コロナウイルスの流行にあたって、障害をもつ人々の抱えるさまざまなハンデは、本人とその介護者・養育者の大きなストレスの原因となるといわれています。発達障害も同様のことがいえます。
発達障害の特徴のひとつに、「環境の変化が苦手」「見通しが立たない状況に不安を感じやすい」といったものがあります。そうした人々にとって、一刻一刻と状況が変わる今の社会情勢は大変なストレスと考えられます。コミュニケーションの問題から、行政や家族からのメッセージの受け止めに食い違いが生じ、適切な行動がとりにくいことがあるかもしれません。
周囲がわかりやすい言葉で、状況を見通し、求められる行動などを伝えることが大切です。特に、緊急事態宣言の期限や学校の授業の有り方の変更などは、今後変わる可能性があることを強調し、急な変更への心の準備ができるよう、配慮してあげることが大切です。
一方で、発達障害があることを理由に、手助けをしすぎることは、社会参加を妨げ、自己肯定感や自尊心(self esteem)の低下につながってしまうこともいわれています。大切なのは、障害をもつ人々のニーズを正しく把握し、必要な支援を必要な分だけおこなうことです。
また、ケアする側も疲れてしまわないよう、負担や悩みを抱え込まないことが大切ですし、行政や民間の相談機関やサービスなども利用されることも有効です。
発達障害の有無にかかわらず、昨今の変化の激しい社会情勢は多くの人たちにストレスや不安を与えております。今回は発達障害とコロナストレスをテーマに、両者の関係性や支援の基本をお伝えしました。つらい症状が少しでも和らいで生活できるように不安を軽減し、適切な支援をしてゆきたいものです。