ここではこどもの視覚障害について説明してみたいと思います。
視覚障害を説明するにあたって、まず視覚の能力ついて考えてみたいと思います。つまり、それは「みえる」ことと「みる」ことについて考えるということになります。
「みえる」とは、目に入るということを意味します。映像が目の中に入って、網膜上に像を結び、視覚中枢で知覚するということです。
では「みる」とはどういうことでしょうか。上記のように簡便にいうなら、目にとめて内容を知るということになります。つまり「みる」には、ものを見ようとする能動的な行動が備わることを意味します。
視覚のこれらのような特性から、専門用語ではこれらを視知覚といいます。視覚の能力には、目を通して形や色を感覚し、それがなんであるかを総合的に認識することであることがわかります。
では視覚障害とは、どういうこというかというと、何らかの原因で見えにくくなったり見えなくなったりすることで、将来にわたって日常生活または社会生活に相当な制約を受ける状態を意味することです。
ひとくちに視覚障害といっても、その状態は様々です。例えば、目を近づけてそのまま本を読む人から、点字や音声に変換して読む人までが含まれます。さらに、他の障害を併せもっている人もいます。
そこで便宜的に視覚障害のあるこどもを以下のように呼ぶことがあります。
○弱視児
視力が0.3未満のもののうち、普通の文字を活用するなど、主として視覚による学習が可能なものを指します。
○盲児
点字を常用し、主として聴覚や触覚を活用した学習を行う必要のあるものを指します。
では、こどもの眼疾患にどのようなものがあるか以下に解説します。
①未熟児網膜症
網膜血管の発達が終わっていない時期に、胎児が予定より早く生まれてしまった場合、出生してから網膜血管が発達することになります。その時、未熟な血管の先端から新たな血管が発達(血管新生と言います)しますが、これが硝子体の方へ延びたり、切れて出血したりするなどの異常を生じることがあります。それによって網膜が剥離してしまい、視力や視野に障害が生じます。
②網膜色素変性症
視細胞の変性や減少によって網膜の機能が低下していく進行性の病気です。病変は、最初は杆体に起こります。そのため、周辺視野が見えなくなる視野狭窄になり、暗所で見えなくなる夜盲が生じます。また、やがて錐体も影響を受け始めるので視力も低下していきます。視野狭窄のために視野の困難が強い一方で、あまり進行していない段階では、弱視児の中では相対的に視力の高いことが多いです。
③視神経萎縮
網膜、視神経の病変によって、あるいは原因不明で生じる視神経の萎縮です。原因が様々なため、症状も人によって異なりますが、視力の低下および視野の中心部や周辺部が見えなくなるなどの視野の障害が見られます。
④小眼球・虹彩欠損
いずれも眼球の形成が不完全な状態です。小眼球はその名の通り、極端に小さな眼球を指します。これは、眼球が正常な大きさまで発達しなかったことを意味します。他の病変の無い軽度の小眼球では強度の屈折異常を伴います。また、重度の場合は光覚弁や全盲になることもあります。先天性虹彩欠損は、眼球が形成される際に虹彩がきちんと円にならずに、下方が欠けている状態です。光量を調節することができないため、まぶしさを強く感じ、見づらくなります(羞明(しゅうめい)と言います)。小眼球で虹彩欠損を伴うこともあります。
⑤緑内障
視野の障害が見られ、マリオット盲点付近と周辺部から徐々に見えなくなっていきます。その結果として視力も低下していきます。緑内障は、眼の中の圧力(眼圧)が異常に高くなった結果、網膜が損傷する疾患ですが、「正常眼圧緑内障」という眼圧が正常で緑内障になることもあります。
ここでは5つの眼疾患について述べましたが、実際には、視覚障害児の多くはいくつかの眼疾患を併せもっています。
以上のことから、日ごろからこどもの「見え」の実態を知ることは、とても大切なことだといえます。こどもの「見え」について、以下のような行動はみられないでしょうか。
①異常に接近してものを見る→その距離がその児にとってよく見える距離
②対象に視線をまっすぐに向けない、顔や目を少しずらしてみる。→斜視や暗転で
偏心固視がある。
③目が常に揺れ動いている→注意して見ようとすると眼振になる
④顔をしかめたり横や斜めにしてモノを見たりする→ピントを合わせようとしている
⑤コントラスト差がある平面を段差と思ってすり足になる→遠近の判断や立体視が苦手
もし心配な症状がみられるようなら医療機関に相談してください。
視覚特別支援学校(盲学校)へ就学する対象となる視覚障害の程度は、次の通りとなっています。
両眼の視力がおおむね0.3未満のもの、又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能、又は著しく困難な程度のもの 学校教育法施行令第22条の3
学校教育法施行令第22条の3は、特別支援学校に入学可能な障害の程度を示していますが、平成25年9月の学校教育法施行令の改正により、障害の状態(第22条の3への該当の有無)に加え、教育的ニーズ、学校や地域の状況、保護者や専門家の意見等を総合的に勘案して、障害のある児童生徒の就学先を個別に判断・決定する仕組みと改められました。よって、学校教育法施行令22条の3に該当する児童生徒も、通常の学級や弱視特別支援学級、弱視通級指導教室への就学が考えられます。市町村教育委員会は、特別支援学校に就学したこどもについても、該当する学校や県教育委員会と密接に連携を図りつつ、障害のないこどもと同じ場で共に学ぶことを追求する姿勢で対応することが重要です。就学後も、継続的に教育相談・指導を行うことにより、就学先の変更や見直しを定期的に行うことができます。
視覚特別支援学校(盲学校)での自立活動の指導に当たっては、6つの区分について、個々の児童生徒の発達の状態やニーズを勘案して、具体的な「個別の指導計画」を立案します。その場合、6つの区分のそれぞれの達成を目指すわけではなく、この6つの区分の内容を、歩行指導や日常生活動作のような具体的な学習活動の要素として位置づけて考えることが必要となります。例えば、視覚障害児の歩行指導には、以下のように、6つの要素すべてが関わっています。
①元気に歩行するための「健康の保持」
②歩きたいと思い、怖いと思う気持ちを克服して前向きに取り組む「心理的な安定」
③学校では教師との信頼関係、社会に出てからはガイドヘルパーとの信頼関係など、「人間関係の形成」
④安全に目的地に行くための、地理的な「環境の把握」
⑤歩行動作を円滑に進めるための「身体の動き」
⑥公共の交通機関を利用したり、人に道を尋ねたりするための「コミュニケーション」
このように、歩行ひとつをとっても、6つの要素が複雑に関わっています。なお、指導計画の立案に当たっては、このような多様な要素を1回の指導に盛り込むのではなく、あるときには、「怖さを克服して歩く意欲を持つ心理的な安定」を重点目標にし、また、あるときには、「白杖を使って姿勢良くリズミカルに歩く身体の運動」を重点目標に指導するというように、目標・内容を重点化して、明確な意識づけのもとに指導を行います。一人で未知の場所に行く段階では、「歩行の途中で人に道を尋ねる場面での人間関係、環境の把握、コミュニケーション」のように、要素が複合した課題の達成を目標にすることもあります。
個々の視覚障害児童生徒のニーズを踏まえて、視覚特別支援学校(盲学校)で実施されている自立活動の内容は多岐にわたります。その中から、代表的な内容を以下に紹介します。
視覚障害児の探索行動においては、触覚が重要な役割を果たしています。手や指は、ものを握ることや持つことという本来の役割を越えて、視覚に代わってものの形や大きさを調べるためにも使われます。そこで、手指を効果的に使って探索する技術を身につけることが大切ですが、視覚による動機づけや模倣ができない視覚障害児には、幼少期からの系統的な指導がきわめて重要となります。
視覚障害児は、運動や動作の模倣ができないため、身体の各部のどこを意識してどのように動かすかを丁寧に指導する必要があります。そこで、自分の身体に関するイメージを持たせ、自分を中心として、前後、左右、上下といった方向性を確立させることが大切です。右手を挙げる、左足を前に出す、両手を前に伸ばす等の動作や、左を向く、右に曲がるなどの指示に従って身体を動かすことや、自分の動作を言葉で振り返る学習を通して、身体座標軸による方向の定位や表現ができるような訓練が必要となります。
次の段階として、東西南北、上下などの空間座標軸に自分を位置づけて、客観的な空間概念を発達させることが必要です。一般に空間の定位には、景観や建物の配置、道路など、視覚情報が拠り所になっています。しかし、車の走る音で道路の向きを知ることや、太陽の暖かさなど、視覚以外の情報の中にも空間の定位に使える確かな情報を見つけ出すことは可能です。これらの情報を活用した実際の行動を通して空間概念を育てることが重要となります。特に、なだらかな曲がり角や、階段の踊り場でのUターンは、進む方向が変わったという意識を持ちにくいものです。地図を使って確認したり、音の聞こえる方向の変化に注意させたりして、空間の中に自分の動きを位置づけることができるように、意識づけをすることが大切です。
視覚障害児童生徒に対する歩行指導は、外界への興味・関心を持たせることから始まり、歩行動作の獲得と、方向の定位という大きな課題を克服しながら、一人で安全に目的地に行くことを目標に、一般的には数年間の長い指導が続けられます。
文字の指導の中心は国語の授業ですが、自立活動では、点字学習の基礎能力の目的とした指導を行います。また、弱視児童生徒が、使用文字を墨字(活字)から点字に切り替えるときには、自立活動の時間を活用して点字の読み書きの指導を行います。特に、視力の低下が急激で、教科学習の基礎能力として点字の習得が課題となっている場合は、一部の教科を自立活動に振り替えて点字の習得を優先させます。急激な視力低下がある場合は、点字と歩行が最も大きな課題となりますが、学校においては、まずは点字の習得を優先させます。点字の読み書きが、教科をはじめとする全ての学習の基本になるからです。
幼少期など発達の初期の段階では、食事の仕方や衣服の着脱など、自分のことを自分でできるようにすることが課題になります。成長に応じて、整理・整頓、掃除、洗濯等、身の回りの家事を自分でできるようにします。高等部の卒業が近づく頃には、一人暮らしを想定して、買い物、調理、後片付けなど、毎日の食事に関わることをはじめ、洗濯、掃除など、暮らしに伴う家事を能率良く処理できることを目標にします。また、服装のコーディネートや身だしなみも、一人暮らしでは自分で考えなければなりません。さらに、戸締まりなどの安全確認や、郵便物の処理、福祉サービスの利用、近所の人とのつきあいなど、社会生活を送る上で大切なことも知っておく必要があります。日常生活動作の指導は、初めは学校内で行いますが、まもなく一人暮らしを始める時期になったら、実際に生活をするアパートなどで練習をすることが効果的です。教師の指導には時間的な限界がありますので、保護者や福祉サービスとの連携のもとに進めることが必要となります。
視覚障害者が、一般の人とまったく同じ方法で調理を行うことには困難があります。しかし、便利な器具を用いたり、方法を工夫したり、一般の人が目で見て確認するところを聴覚や嗅覚、触覚を活用することで、調理をすることができます。例えば、ハンバーグなどの焼け具合は、焼き色が見えなくても、匂いの変化や、箸で軽く押した時の弾力、油がはねる音などで判断することができます。また、1回押せば一定量の液体が出る調味料入れや、音声が出るはかり、2分の1カップ、4分の1カップの液体をきっかり計ることができる計量カップも市販されています。さらに、電子レンジ、トースター、電気炊飯器、洗濯機などの家電製品は、使いやすいシンプルな製品を選び、触って確認できる目印を自分で貼り付けたりすることで、十分に使いこなすことができます。
弱視児の自立活動では、できるだけ低学年のうちから、保有する視覚を最大限に活用し、見たものを認識する力を高めることが大切です。
主な指導内容としては、視覚活用を促す指導、形、大きさ、色などの弁別、平面に描かれた図の理解、弱視レンズや拡大読書器の使用などがあります。
最近では、パソコンを初めとして、携帯電話などを利用した日常的なサービスが増えています。また、障害を補償する技術としても情報機器が重要な位置を占めています。特に大学では、点字を使用する学生が、パソコンを用いて普通文字のレポートを作成すること、インターネットを活用して検索をすること、メールを使うこと、テキストデータを読むこと、普通文字と点字の相互変換をすることなどを日常的に行います。
したがって、教科「情報」の指導とも関連づけながら、高等部卒業までには、これらの技術を活用するための基礎指導を行う必要があります。
最後に視覚特別支援学校の児童生徒の進路は、どのようになっているのか、以下、主な進路先を記しておきます。
(1)小学部・・・中学部あるいは他の中学校への進学
(2)中学部・・・高等部あるいは他の高等学校等への進学
(3)高等部
①普通科
・専攻科あるいは大学(視覚障害者のための大学である筑波技術大学を含む)専門学校等への進学
・就職あるいは福祉施設等の利用
②保健理療科
・専攻科理療科への進学
・あんまマッサージ指圧師として開業あるいは就職(治療院、病院、企業のヘルスキーパー等)
(4)専攻科理療科
・あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師としての開業あるいは就職(治療院、病院、企業のヘルスキーパー等)
・筑波大学理療科教員養成施設等へ進学(盲学校の理療科の教員となるコースです。)