聴覚障害のあるこどもについて

目次
 聴覚障害のあるこどもは……
 聴覚に障害のあるこどもの教育
 聴覚障害のあるこどもの指導内容
 聴覚障害のあるこどもの教育の場
 (1) 特別支援学校(聴覚障害)
 (2) 難聴特別支援学級
 (3) 通級による指導(難聴)
 (4) 通常の学級における指導

聴覚障害のあるこどもは……

聴覚障害とは、身の周りの音や話し言葉が聞こえにくかったり、ほとんど聞こえなかったりする状態をいいます。聴覚障害があるこどもたちには、できるだけ早期から適切な対応を行い、音声言語をはじめとするその他多様なコミュニケーション手段を活用して、その可能性を最大限に伸ばすことが大切となります。
こどもは、いろいろな経験をする際、音や音声を同時に聞くことによって、音の意味を知り、聞く気持ちが深まり、聞き分ける能力を伸ばしていきます。このような聴覚の発達は、ごく幼いうちから急速に始まっています。生まれたときから、あるいはごく幼いときから聴覚障害である場合、聴覚の発達のために必要な音・音声の刺激が少ししか(あるいは、ほとんど)入らないので、その発達が制約されることになります。ここで大切なことは、聴覚の発達は、本来ごく幼いうちから発達するものであって、仮に年齢が進むにつれて「きこえ」がよくなったとしても、幼いうちの聴覚の発達を完全に取り戻すことは難しいというのが現状です。このことは、言葉の発達についても同様です。幼児の言葉は、一般には、聞こえることによってコミュニケーションが成立するものですが、聴覚に障害のあるこどもの場合には、特別な手だてを講じて、「きこえ」の不足を補いながら言葉の発達を促す必要があります。したがって、幼いうちに適切な対応がなされないと、後になってから補完することが難しくなります。さらに、言葉の発達が不十分であれば、人間関係にも支障を来すことがあったり、学習にも困難が生じる場合があったりするなど、様々な面に影響が及ぶことになります。
このように、「早期からの対応でなければ効果が上がりにくい」、「対応が遅れると、発達の様々な側面に問題が広がりがちである」というような聴覚、ならびに言葉の発達の特性から、聴覚に障害のあるこどもの教育で第一に大切なことは、早期発見と早期からの教育的対応です。
近年の検査方法の発達によって、聴覚障害の診断は、乳児期から可能になってきており、その結果、適切な早期からの教育的対応が行われ、大きな成果を上げている例もしばしば見受けられます。しかしながら、乳幼児の中には、聴覚障害の有無そのものが分かりにくく、気になりながらも適切な対応が遅れてしまい、「言葉の遅れ」が目立つ段階になってから専門機関に相談するというような例が見受けられることも少なくありません。

聴覚に障害のあるこどもの教育

一般に、乳幼児期から青年期までの各時期を通じて、教育効果を上げるためには、保護者や家族のかかわりに負うところが大きいといえます。ところが、聴覚に障害のあるこどもについては、家族がそのようなこどもに接する経験をもっていないことが多く、したがって、こどもの身になって教育の方針を考え、適切な育て方を実践することが、難しい場合があります。そのため、各発達段階を通して、聴覚障害のあるこどもに対する教育を行う特別支援学校や相談機関などが個々のこどもの状態に即しながら、保護者や家族に必要な情報を提供し、助言や援助を行うことが大切となります。
特に、保護者がこどもの障害を知ったときの気持ちを出発点とし、障害を理解する態度をもつようになるまでの過程においては、関係者の十分な配慮が必要だといえます。また、保護者がこどもの障害や発達の実態を的確に把握し、それに即した教育の方針、方法が考えられるよう配慮して、就学先を決定することが大切です。

聴覚障害のあるこどもは、身の回りの音や話し言葉が聞こえにくかったり、ほとんど聞こえなかったりします。そのため、学校の中ではこどもたちが適切に情報を得られるように様々な配慮や支援、合理的配慮の提供が必要となります。

例えば以下のようなことに、聴覚に障害のあるこどもは困っています。

① クラスの中でたくさんの人が話していると先生や友達の声が聞こえないことがあります。
② 机や椅子の移動の音が大きくて、先生や友達の声が聞こえないことがあります。
③ 後ろから声をかけられても分からないことがあります。
 (※よくあるトラブルは、友達から声をかけられてもわからず、「無視した」と捉えられることです。)

④ 声を大きくすると聞き分けできることもありますが、声が大きいからクリアーでよく聞 こえるとは限りません。
⑤ 同じような音の言葉を聞き間違えることがあります。
⑥ 先生が黒板の方を向いて、板書しながら説明すると、分からないことがあります。

聴覚障害のあるこどもの指導内容

聴覚に障害のあるこどもに必要な特別の指導内容としては、以下のようなことがあげられます。

・保有する聴覚を活用すること
・音声言語(話し言葉)の受容(聞き取り及び読話)と表出(話すこと)及び多様なコミュニケーション手段に
 関すること

・学習場面では、こどもの具体的な経験などに照らし合わせて、言語(語句、文、文章)の意味理解を促進し、
 思考へと発展させること

・読書の拡充など、言語概念の形成に関すること
・人間関係の拡充、常識の補充に関すること

〇中学校の段階では、小学校の段階に加えて、以下のような指導内容が必要となります。
・障害の自覚や心理的な諸問題に関すること
・進路に関すること

また、指導内容についての特別な手だてと同時に、指導方法上の特別な手だてが必要となります。聴覚に障害のあるこどもについては、話し言葉によるコミュニケーションに、多かれ少なかれ不自由があるので、たとえ内容についての理解力はあっても、学習についていけなくなるおそれがあります。そのため、授業の中では、聞き取りの不足を補う対策が必要となります。また、言語(語句、文、文章)の意味理解が不足している場合や、学習内容の理解において遅れがある場合には、必要な経験を補充したり、進度を調整したり、個に応じた指導を増やしたりする必要が生じることもあります。

以上のような指導の内容及び方法上の手だては、すべての聴覚に障害のあるこどもに一律に必要というものではなく、障害の程度や発達の状態によって取捨したり、軽重を付けたりする必要があります。また、場合によっては(特に、他の障害を併せているとき)、さらに必要な内容・方法を加えて指導することがあります。
特別支援学校(聴覚障害)、難聴特別支援学級は、こどもの、こうした特別な指導の必要性にこたえるために設けられています。また、そうした必要性が少ない場合には、小・中学校の通級による指導や通常の学級において、留意して指導することによってこたえられることもあります。したがって、それらのいずれにおいて教育することが適当であるかについては、聴力の程度から短絡的に決めるのではなく、そのこどもの指導内容・方法に関して、どれだけの特別な指導の必要性があるかという観点で十分検討し、決定すべきものとなります。
一般的には、聴覚障害の程度が重いほど、話し言葉によるコミュニケーションの困難が大きくなります。しかし、補聴器などによる聴覚活用及び読話(口の形、表情などから話を読み取る)の能力も含めると、聴覚障害の程度と会話の能力とは必ずしも比例しません。
一方、言語の意味理解を始めとするもろもろの知的発達、社会性の発達については、近年、早期からの教育的対応を行うことで相当の成果を上げており、この面での特別な手だての必要性を軽減している例が増えてきています。この場合、基礎的な言語発達を遂げた後に聴力を失った場合(いわゆる中途失聴)と、具体的には多少異なる点もありますが、教育上の必要性については類似した状態といえます。
こうしたことから、聴覚に障害のあるこどもの就学先を決定するに当たっては、聴力、話し言葉によるコミュニケーションの能力、言語の意味理解を始めとする全体的な発達の状態に基づいて、そのこどもの指導内容・方法上の必要性を検討し、さらに、これにこたえ得る学校(学級など)かどうか、家庭の状況などを含めて、総合的に判断することが大切になります。

聴覚障害のあるこどもの教育の場

特別支援学校(聴覚障害)難聴特別支援学級通級による指導(難聴)は、次のような障害の程度のこどもを対象に設置されています。
教育の場の選択については、本人の障害の状態、教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制整備の状況その他の事情を総合的に勘案して決定することが適当であり、市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校などが教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを念頭においています。

(1) 特別支援学校(聴覚障害)

特別支援学校(聴覚障害)は聴覚障害が比較的重い者の教育のために整備された学校であり、一般的に幼稚部、小学部、中学部及び高等部が置かれ、それぞれ幼稚園、小学校、中学校、または高等学校に準ずる教育を行っています。対象となる障害の程度は以下のようになります。

両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上のもののうち、補聴器などの使用によっても通常の話声を解することが不可能または著しく困難な程度のもの。
                                  (学校教育法施行令第22条の3)

ここで、「補聴器などの使用によっても」の「など」は、医学や科学技術の進歩に対応して、近年、聴覚障害児への装用が見受けられる人工内耳を指しています。また、「通常の話声」とは、人が通常の会話の中で使用する話し声のことであり大声、ささやき声とは区別して用いています。人工内耳を装用しても、通常、話し声の理解のためには適切な教育的対応が必要であり、そのための場として、特別支援学校(聴覚障害)が役割を果たすと考えられています。
「話声を解することが著しく困難」は、聴力レベルがおおむね60dB以上の状態において、補聴器などを使用しても、通常の会話における聞き取りができにくい状態を意味しています。
教育の内容においては、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずるとともに、聴覚障害による学習上または生活上の困難を克服し、自立を図るために必要な知識技能を授けるために、「自立活動」が設けられています。「自立活動」の内容は、幼稚部、小学部では聴覚活用や言語発達のための内容に重点を置き、それ以後は情報の多様化(読書の習慣、コミュニケーションの態度・技術など)、障害の自覚や心理的な諸問題に関するものなどへと次第に移っていきます。各教科などの指導は、個々のこどもの必要性に応じて取り上げることになっているので、個別の指導計画に基づいて指導がなされています。
こうした「自立活動」についてはもとより、幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準ずる教科などの指導に当たっても、個に応じた指導の充実を図るとともに、さらに、コミュニケーション(例えば、授業の際のやりとり)をより確実にするために、一学級の人数を少なくしています。
また、特別支援学校(聴覚障害)は、聴覚障害が比較的重い者が集団を形成しているため、自分だけが聞こえないという孤立感を味わうことはなく、障害の理解、自己理解がしやすい環境です。
施設設備の面では、聴覚活用のための機器(オージオメータ、補聴器特性検査装置、集団補聴器など)や、発音・発語指導のための音声直視装置など、さらに、教科などの指導において、その理解を助けるための視聴覚機器(液晶モニターなど)が用意されています。
また、他の障害を併せ有するこどものために、「重複障害学級」が置かれています。この学級では、個々のこどもの必要に応じて、様々な指導内容が取り上げられ、特に障害が重い場合には「自立活動」を主とすることもあります。こうしたことから、一学級の人数を一層少なくしています。

(2) 難聴特別支援学級

難聴特別支援学級は、聴覚障害が比較的軽い者のための特別支援学級であって、主として音声言語(話し言葉)の受容・表出(聞くこと・話すこと)についての特別な指導をすれば、通常の教育課程や指導方法によって学習が進められるようなこどもを主な対象としています。対象となる障害の程度は以下のように示されています。

補聴器などの使用によっても通常の話声を解することが困難な程度のもの。
(平成25年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知)

ここで、「話声を解することが困難な程度」とは、補聴器などを使用した状態で通常の会話における聞き取りが部分的にできにくい状態を意味しています。小・中学校での特定の教科などの学習において、聴覚活用や音声言語の理解について支障があり、かつ障害を改善・克服するための特別な指導を系統的・継続的に行う必要のあるこどもを指しています。そのほかの用語の意味は、「(1)特別支援学校(聴覚障害)」において説明したものと同様です。
教育の内容は、小・中学校におけるものに加えて、特別な必要性に応じたものとしては、聴覚活用に関すること、音声言語(話し言葉)の受容(聞き取り及び読話)と表出(話すこと)に関することが主なものとなります。さらに必要に応じて、言語(語句、文、文章)の意味理解や心理的問題、人間関係などの改善についての内容も取り上げられます。難聴特別支援学級では、聴力測定のためにオージオメータ、集団補聴器や発音・発語指導のために音声直視装置などが用意されています。通常の学級と交流および共同学習を行うとともに、障害により学習が困難な内容(音読、外国語の発音、歌唱、器楽演奏など)については、個別指導を受けるなど、障害の程度に合わせた柔軟な対応を行うことが可能です。

(3) 通級による指導(難聴)

聴覚障害の程度が比較的軽度の者に対して、各教科などの指導は通常の学級で行いつつ、障害に応じた特別の指導を特別の指導の場で行うという通級による指導が、平成5年度から制度化され、実施されています。対象となる障害の程度は以下のように示されています。

補聴器などの使用によっても通常の話声を解することが困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの。
             (平成25年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知)

ここで、「通常の話声を解することが困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの」とは、通常の学級における教科などの学習におおむね参加できることを指します。またこれらの者は、「一部特別な指導を必要とするもの」でもあります。「一部特別な指導を必要とするもの」とは、障害を改善・克服するための特別な指導や教科の補充指導が部分的・継続的に必要なこどもを指します。
通級指導教室では、聴覚障害に基づく種々の困難の改善・克服を目的とする指導を行いますが、特に必要があるときは、その障害の状態に応じて各教科の内容を補充するための特別の指導を行う場合があります。小・中学校での通級による指導(難聴)のほかに、特別支援学校(聴覚障害)において通級による指導を行っている地域もあります。

(4) 通常の学級における指導

聴覚障害が軽い場合には、通常の学級で留意して指導することが適当な場合もあります。この場合の留意事項は、主に指導方法上のことであり、教室の座席配置、授業の際の教師の話し方などの工夫により、話し言葉によるコミュニケーションの円滑化を図ることが第一に考えられています。教室内の音環境を考慮し、FM補聴器を使用して、教師の声が安定して聴覚障害のこどもに届くような配慮や、補助教材などの工夫がなされています。その他、状況によっては、人間関係の調整や危険防止などの面での配慮も怠りません。







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