ADHDは、「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」とも呼ばれ、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつくと行動してしまう)といった症状が見られる障害です。症状の現れ方によって「不注意優勢に存在」「多動・衝動優勢に存在」「混合して存在」と分類されます。
ADHDのある子は、その特性により授業中、集中することが難しく、忘れ物が多いことなどが特徴としてあり、叱られることが多くなりがちです。叱られることが増えていくと、自信を失い、追い詰められてしまうということもあるので、その子の特性を理解し接することが大切になります。以前は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2013年に刊行された「DSM-5」で、「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」に変更されました。
「不注意」の特徴が強く現れ、「多動・衝動」の特徴があまり強くないタイプです。授業中に集中し続けることが難しく、忘れ物が多い、外からの刺激などですぐに気がそれてしまうなどの特徴があります。一方で、自分の好きなことについて考えたり取り組んだりしていると、話しかけられても気づかず、周囲の人に「無視をした」と誤解されることもあります。
「多動性や衝動性」の特徴が強く現れ、「不注意」の特徴があまり強くないタイプです。動いていないと気分的に落ち着かないだけでなく、無意識のうちに身体が動いてしまう、感情や欲求のコントロールが苦手である傾向があります。授業中でも立ち歩く、指名されていないのに答えてしまう、などの特徴から、集団生活で落ち着きのなさを指摘されることも多いです。
「不注意」と「多動性および衝動性」の特徴をともに満たしているタイプです。
最近は、ADHD傾向がある子への早期療育をおこなう例が増えてきています。早期から介入し療育をおこなうことで、特性自体を治療することは難しいものの、いじめ、不登校、抑うつなど二次的な問題を予防することができると言われています。
ADHDの発症率を調べたところ、人口調査によるとこどもの約5%および成人の約2.5%にADHDの症状があることが示されています。近年の研究によると、ADHDは行動などをコントロールしている神経系に原因がある脳の機能障害、特に前頭葉の働きが弱いことが関係していると考えられています。
前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり論理的に考えたりする働きをします。この部位は注意を持続させたり行動などをコントロールしたりします。ADHDの人はこうした注意集中や行動制御の機能に何らかの偏りや異常があり、前頭葉がうまく働いていないのではないかと考えられています。
また、男女によって発現率の違いが見られます。男:女の比率は小児期だと2:1、成人期だと1.6:1とされており、女性は男性よりも主に不注意の特徴を示す傾向があります。
こういった特徴を有する要因として遺伝や環境の影響を指摘する研究もありますが、まだはっきりとしたことは分かっていません。元々の素因と過去の環境、現在の環境の影響の相互作用によって症状が生じるという考え方もあります。そのため「育て方が原因」「しつけが悪い」ということではなく、さまざまな要因が影響し合って現在の症状があると理解してください。
〇落ち着きがなく注意を持続することが難しく、または困難である。
授業中立ち歩いたり、または途中でどこかに行ってしまう。
〇気が散りやすい。集中力が続かない。
与えられた課題の途中で、別のことに手を出してしまう。
〇物を失くしたり、忘れ物をしやすい。
おもちゃや文具などの失くし物や落し物が多い。宿題など忘れ物をすることがよくある。
〇ルールを守ることが難しい。
衝動を抑えることが難しい、待つことが苦手で、列に並ばずに割り込みをしてしまう。
〇指示は理解できても、従うことが難しい。
「静かにしてください」と言われても、おしゃべりを続けてしまう。
「注目してください」と言われても、すぐに他に関心が移ってしまう。
ADHDへの治療は大きく分けて「療育(発達支援)」と「薬による治療(薬物療法)」があります。
「療育(発達支援)」では、ADHDのこどもが過ごしやすい環境の整備(不必要な刺激を減らし、課題や目標に集中しやすい構を作る)をしたり、こどもが社会参加するために必要なスキル(集団活動するためのコミュニケーションや自己コントロールするための方法など)を身につけるための支援をおこないます。またペアレントトレーニングと呼ばれる保護者が、ADHDのこどもへ適切に関われるように対処法を学ぶプログラムもあります。
「薬による治療(薬物療法)」では、脳内の神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリンなど)の調整をおこなうために処方され、主に注意や衝動制御の作用があります。処方される薬によって効果が出るまでの期間や一日の服薬回数、副作用などが異なってきますので、主治医と相談しながら現在の状況に合わせて処方してもらってください。また、基本的には環境の整備などで対処できる場合はそちらを優先し、それだけでは対処が難しく、ADHDの症状によって生じる二次的な問題(対人関係のトラブルや学力不振によって生じる自尊心の低下など)などを防ぐためには薬物療法を用いられることがあります。
ADHDのある子は、その特徴から、怒られる機会が多かったり、忘れ物などの失敗を繰り返したりすることで、自分に自信が持てずに、色々な方面で支障をきたしてしまうことがあります。そのため、ADHDのある子と接する際は以下の点に注意することが必要です。
ADHDの子と接する際、できないことの方にどうしても目が行きがちですが、できないところばかり指摘されると、自信を失ってしまいます。できることの方により着目し、そちらに対して肯定的なフィードバックをすることで、「できた!」という体験が自信となり、次へのやる気につなげるようにしてください。
ADHDの子の中には、自分の好きなことに関しては集中力を発揮する方もたくさんいます。こどもの強みを発見し、サポートすることが、強みを伸ばしたり、自信を育んだりすることにつながります。
衝動的に行動をしてしまいがちな子には、事前に「順番に並びましょう」などと声掛けをしたり、気が散りやすい方には気が散らないように机回りを整理したり、準備物を一緒に確認したりするなど、失敗しないためのサポートをおこなうことが大切です。
じっとしなければならない場面では、多動性を押さえようとするのではなく、課題の途中に小休止を入れ、身体を動かせる何らかの役割を与えることにより、動ける時間と静かにする時間のメリハリをつけることをおすすめします。
どのような場面で失敗することが多いかを探り、一緒に対策を考えてください。「事前に確認したら忘れ物しなかった」などの成功体験を積みながら、自分の特性との付き合い方を一緒に探していくことが大切です。
繰り返しになりますが、ADHDの子はその特性から「わざと聞いてない」「無視している」「言うことを聞かずにふざけている」など誤解され、その結果として注意や叱責を受けることが多くなります。こどもの良いところにも注目して、長所を伸ばす関わりが心がけられるようにしてください。