広汎性発達障害とは、対人関係の困難、パターン化した行動、強いこだわりの症状、などがみられる障害の総称です。これまでは、「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「こだわり、興味のかたより」の3つの基準をもって「広汎性発達障害」の診断がされていましたが、2013年に改訂されたDSM-5では広汎性発達障害の分類はなくなり、「自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症」という診断名に包括されることになりました。また、診断基準も「対人関係、コミュニケーションの障害」「こだわり、興味のかたより」の2つの基準による診断となりました。
最近は、発達が気になるこどもへの早期療育をおこなう例が増えてきています。早期から介入し療育をおこなうことで、特性自体を治療することは難しいものの、いじめ、不登校、抑うつなど二次的な問題を予防することがきると報告されています。
広汎性発達障害は、発達障害のひとつですが、発達障害は、言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳幼児では、その特徴となる症状が分かりにくい場合がほとんどです。ですから、生後すぐに広汎性発達障害が診断ででることはありません。
しかし、幼児期全体を通してみると、以下のような特徴的な行動をとっていたことが多いと報告されています。
視線を合わせようとしないことが多く、また他のこどもに興味をもたなかったり、名前を呼んでも振り返らなかったりすることが多いです。障害がない子が興味のあるものを指さしして示すのに対し、広汎性発達障害の子は、指さしをして興味を伝えることをしない傾向があるようです。
知的障害を伴う広汎性発達障害の子は、言葉の遅れや、オウム返しなどの特徴がみられます。会話においては、一方的にいいたいことだけをいったり、質問に対してうまく答えられないなどの特徴があります。障害がない子が友達とごっこ遊びを好むのに対し、広汎性発達障害の子は、集団で遊ぶことにあまり興味を示さないことが多いです。
興味を持つことに対して、同じ質問を何度もすることが多いです。また、日常生活においてさまざまなこだわりを持つので、ものごとの手順が変わると混乱してしまうことが多いようです。
児童期には、主に小学校での集団生活や学習において、以下のような特徴が現れやすくなります。
年相応の友人関係がないことが多いです。周囲にあまり配慮せずに、自分が好きなことを好きなようにしてしまう傾向があります。人と関わるときは何かしてほしいことがある場合のことが多く、基本1人遊びを好みます。人の気持ちや意図を汲み取ることを苦手とします。
きちんと決められたルールを好む子が多いです。言われたことを場面に応じて対処することが苦手な傾向にあります。
言葉がうまく扱えず、単語を覚えても意味を理解することが難しい場合があります。また、自分の気持ちや他人の気持ちを言葉にしたり、想像したりするのも苦手です。そのため、理由などの説明ができないこともあります。
中学生以降の思春期では、以下の様な特徴が現れやすくなります。
抑揚のない不自然な話し方をする子が多いです。これはアスペルガー症候群の子にみられる特徴です。
コミュニケーション能力が乏しく、他人が何を考えているのかなどを考えるのも苦手な傾向にあります。
目的の無い会話をするのを難しく感じる子が多いです。
広汎性発達障害の子は物事に強いこだわりをもつため、興味のあることにとことん没頭することが多く、その分野で大きな成果をあげられることもあります。
広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)のある子と関わるときには、以下のような工夫があることで生きづらさをやわらげることにつながります。
遠回しな表現や代名詞や、「ちゃんと」などの抽象的な表現を使うと混乱する可能性があるため、「○○をします」など具体的な声掛けをしてください。
広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)の子は、聴覚や触覚などの感覚が過敏な場合があります。その場合、周囲の刺激が気になって活動に取り組みにくくなります。そこで、掲示物など、ものが少なく静かな環境を整える工夫をしてください。
また、空間を目的ごとに区切って何をするのか明確に示すのも取り組みやすい環境の工夫のひとつです。さらに、音声よりもイラストや写真で活動の手順が分かり、活動の区切りを明確にすることも、こどもによっては安心感に繋がるひとつの工夫と言えます。
興味や関心を広げるために、その子が熱中しているものを取り上げるのではなく、「○○もやってみよう」と見本を見せるなどして誘ってみることも必要です。もちろん無理強いはせずに、少しずつ取り組んでいくことがポイントとなります。
興味や関心が限定的な子には、その興味関心を取り入れることもひとつです。例えば、ゲームが好きな子にはプリント1枚ごとに1ポイントとゲーム形式にしてみることで、その子が取り組みやすくなります。
こどもがパニックになったときには、指示を出しても声をかけても落ち着くのは難しいです。静かで刺激のない場所に連れていくなど、安全を確保した上で、冷静に関わるようにしてください。
広汎性発達障害のこどもたちに対する支援は、ひとり一人の特性や困難に応じて変わってきます。言語療法、行動療法、感覚統合など、さまざまなアプローチが考えられますが、家庭や園・学校などでの環境調整(特性に合った環境を用意すること)も非常に重要なポイントです。広汎性発達障害のこどもたちは、多岐にわたる特性や困難を抱えていますが、その背後には、独自の才能や魅力がたくさんあります。その特性を理解し、最適な支援を提供し、そして何より、そのままの姿を受け入れ、共に成長していく道のりを楽しむことだと考えています。