目次 |
教育分野 1 総論 2 初等中等教育段階 3 高等教育段階 4 社会教育・生涯学習 5 スポーツ・文化芸術分野 6 留意事項(追加) |
文部科学省は、此度の法改正に伴う障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針が1月に策定された。特に教育分野の留意事項が別紙2で説明されているので、以下、抜粋し読みやすく修正しました。障害児の保護者の方々の参考としていただきたいと思います。障害のあるこどもやその保護者がどのように守られているのかを理解するための助けとなれば幸いです。
学校教育分野においては、障害者の権利に関する条約、障害者基本法、教育基本法の規定も踏まえて、既に取組が進められており、合理的配慮等の考え方も、中央教育審議会初等中等教育分科会が取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」及び文部科学省高等教育局長決定により開催された「障害のある学生の修学支援に関する検討会」が取りまとめた「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)」等により示されています。また、「学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議」報告書において、障害の有無にかかわらず共に学ぶ場づくりに当たって、合理的配慮の推進の必要性が示されていることや、障害者権利委員会からの総括所見において、合理的配慮の保障も含めた教育環境の改善等について勧告されたこと、また「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議報告」も取りまとめられ、通常の学級においても障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援がなされるよう方向性が示されています。 加えて、法の改正等を背景として、障害のある学生の修学支援に関する検討会が改めて設置され、高等教育段階における障害学生の修学支援のあり方について検討が行われています。視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律と障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律が、それぞれ成立したところであり、これらの法による理念や規定を踏まえた取組は、学校教育段階だけでなく、地方公共団体における生涯学習提供者や社会教育施設等においても共生社会の実現に向けて同様に推進されるべきものです。 専修学校及び各種学校を設置する事業者においては、後述する教育段階の留意点を参考として対応することが望ましい。
(1)合理的配慮に関する留意点
障害のある幼児、児童及び生徒に対する合理的配慮の提供については、中央教育審議会初等中等教育分科会の報告に示された合理的配慮の考え方を踏まえて対応することが適当であり、主として以下の点に留意すること。
ア 合理的配慮の合意形成に当たっては、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするといった目的に合致するかどうかの観点から検討が行われることが重要である。
イ 合理的配慮は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じ、設置者・学校及び本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ合意形成を図った上で提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが重要である。
ウ 合理的配慮の合意形成後も、幼児、児童及び生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しができることを共通理解とすることが重要である。
エ 合理的配慮は、障害者がその能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであるインクルーシブ教育システムの理念に照らし、その障害のある幼児、児童及び生徒が十分な教育が受けられるために提供できているかという観点から評価することが重要である。例えば、個別の教育支援計画や個別の指導計画について、各学校において計画に基づき実行した結果を評価して定期的に見直すなど、PDCAサイクルを確立させていくことが重要である。
オ 進学や進級等の移行時においても途切れることのない一貫した支援を提供するため、個別の教育支援計画の引継ぎ、学校間や関係機関も含めた情報交換等により、合理的配慮の引継ぎを行うことが必要である。なお、学校教育分野において、障害のある幼児、児童及び生徒の将来的な自立と社会参加を見据えた障害の早期発見・早期支援の必要性及びインクルーシブ教育システムの理念に鑑み、幼児教育段階や小学校入学時点において、意思の表明の有無に関わらず、幼児及び児童に対して適切と思われる支援を検討するため、幼児及び児童の障害の状態等の把握に努めることが望ましい。具体的には、保護者と連携し、プライバシーにも留意しつつ、地方公共団体が実施する乳幼児健診の結果や就学前の療育の状況、就学相談の内容を参考とし、後述する校内委員会において幼児及び児童の支援のニーズ等に関する実態把握を適切に行うこと等が考えられる。また、障害のある子供一人一人の教育的ニーズや必要な支援の内容を、複数の担当者で検討したり、実態の的確な把握(各種のアセスメント等)や個別の教育支援計画等を作成するために専門家等の活用を図ったりするなど、具体的な対応を組織的に進めることが大切である。
(2)合理的配慮の例
別紙1のほか、報告において整理された合理的配慮の観点や障害種別の例及び独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運営する「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」や「特別支援教育教材ポータルサイト」も参考とすることが効果的である。 なお、これらに示されているもの以外は提供する必要がないということではなく、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されることが望ましい。
(3)相談体制の整備に関する留意点
学校の校長(園長を含む。以下同じ)は、特別支援教育の実施の責任者として、自らが特別支援教育や障害に関する認識を深めるとともに、リーダーシップを発揮しつつ、特別支援学校のセンター的機能等も活用しながら、次の体制の整備を行い、組織として十分に機能するよう教職員を指導することが重要である。
ア 特別支援教育コーディネーターの指名
各学校の校長は、各学校における特別支援教育の推進のため、主に、後述する校内委員会や校内研修の企画・運営、関係諸機関や関係する学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口などの役割を担う教員を「特別支援教育コーディネーター」に指名し、校務分掌に明確に位置付ける。また、校長は、特別支援教育コーディネーターが合理的配慮の合意形成、提供、評価、引継ぎ等の一連の過程において重要な役割を担うことに十分留意し、学校において組織的に機能するよう努める。
イ 特別支援教育に関する校内委員会の設置
各学校においては、校長のリーダーシップの下、全校的な支援体制を確立し、障害のある又はその可能性があり特別な支援を必要としている幼児、児童及び生徒の実態把握や支援方策の検討等を行うため、校内に特別支援教育に関する校内委員会を設置する。校内委員会は、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、教務主任、生徒指導主事、通級による指導担当教員、特別支援学級担当教員、養護教諭、対象の幼児、児童及び生徒の学級担任、学年主任、その他必要と認められる者などで構成する。
学校においては、幼児、児童及び生徒・保護者等からの相談及び現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明を受けた学級担任や特別支援教育コーディネーター等と本人・保護者との対話による合意形成が困難である場合には、校内委員会を含む校内体制への接続が確実に行われるようにし、校長のリーダーシップの下、合意形成に向けた検討を組織的に行うことが必要である。このような校内体制を用いてもなお合意形成が難しい場合は、設置者である学校法人等が、法的知見を有する専門家等の助言を得るなどしつつ、法の趣旨に即して適切に対応することが必要である。また、必要に応じ、法に基づいて設置される地域の相談窓口と連携を図ることも考えられる。
(4)研修・啓発に関する留意点
基本方針は、地域住民等に対する啓発活動として、「国民一人一人が法の趣旨について理解を深め、建設的対話を通じた相互理解が促進されるよう、障害者も含め、広く周知・啓発を行うことが重要である」としている。 この周知・啓発において学校教育が果たす役割は大きく、例えば、交流及び共同学習は、障害のない幼児、児童及び生徒が障害のある幼児、児童及び生徒と特別支援教育に対する正しい理解と認識を深めるための絶好の機会であり、同じ社会に生きる人間として、お互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶ場である。また、障害のある幼児、児童及び生徒の保護者、障害のない幼児、児童及び生徒の保護者や地域の方々が、共同学習や学校開放等を通じて学校教育に関わることにより、障害者に対する理解を深めていくことができる。学校においては、学校教育が担う重要な役割を認識し、幼児、児童及び生徒の指導や保護者との連絡に携わる教職員一人一人が、研修等を通じて、法の趣旨を理解するとともに、障害に関する理解を深めることが重要である。
障害のある学生の修学支援については、本項に記載の内容のほか、文部科学省高等教育局長決定による「障害のある学生の修学支援に関する検討会」において報告されている各「まとめ」も参照しつつ対応することが望ましい。
(1)合理的配慮に関する留意点
障害のある学生に対する合理的配慮の提供については、大学等(大学及び高等専門学校をいう)が個々の学生の状態・特性等に応じて提供するものであり、多様かつ個別性が高いものである。合理的配慮を提供するに当たり、大学等が指針とすべき考え方を項目別に以下のように整理した。ここで示すもの以外は合理的配慮として提供する必要がないというものではなく、個々の学生の障害の状態・特性や教育的ニーズ等に応じて配慮されることが望まれる。
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(2)合理的配慮の例
別紙1のほか、独立行政法人日本学生支援機構が作成する「大学等における障害のある学生への支援・配慮事例」や「教職員のための障害学生修学支援ガイド」、「合理的配慮ハンドブック」等も参考とすることが効果的である。なお、これらに示されているもの以外は提供する必要がないということではなく、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されることが望ましい。
(3)相談体制の整備に関する留意点
大学等の学長(校長を含む)は、リーダーシップを発揮し、大学等全体として、学生から相談を受けた時の体制整備を含む次のような支援体制を確保することが重要である。
ア 担当部署の設置及び適切な人的配置
支援体制を整備するに当たり、必要に応じ、障害のある学生の支援を専門に行う担当部署の設置及び適切な人的配置(専門性のある専任教職員、コーディネーター、相談員、手話通訳等の専門技術を有する支援者等)を行うほか、学内(学生相談に関する部署・施設、保健管理に関する部署・施設、学習支援に関する部署・施設、障害に関する様々な専門性を持つ教職員)との役割を明確にした上で、関係部署・施設との連携を図ること。なお、障害のある学生の所属学部や学科、担当教職員により提供する支援の内容が著しく異なるなどの状況が発生した場合は、学長及び障害のある学生の支援を専門に行う担当部署を中心に、これらの事案の内容を十分に確認した上で、必要な調整を図り、さらに再発防止のための措置を講じることが重要である。加えて、障害のある学生と大学等との間で提供する合理的配慮の内容の決定が困難な場合、大学等は、本人からの不服申立てを受理し、障害のある学生への支援を行う部署や委員会等に対して、第三者的視点から中立的な立場で調停ができる、紛争解決のための調整を行う学内組織を整備することが望ましい。これらの調整の結果、なお合意形成が難しい場合は、大学等の設置者である学校法人等が、法的知見を有する専門家等の助言を得るなどしつつ、法の趣旨に即して適切に対応することが必要であること。併せて、大学等は、学内の紛争解決のための学内組織の存在に加えて、法に基づく紛争解決のための学外の相談窓口の存在を障害のある学生に周知し、必要に応じて連携を図ることが重要である。
イ 外部資源の活用
障害は多岐にわたり、各大学等内の資源のみでは十分な対応が困難な場合があることから、必要に応じ、学外(地方公共団体、社会福祉法人、NPO、他の大学等、特別支援学校など)の教育資源の活用や障害者関係団体、医療、福祉、労働関係機関等との連携についても検討する。
ウ 周囲の学生を支援者としての活用
障害のある学生の日常的な支援には、多数の人材が必要となる場合が多いことから、周囲の学生を支援者として活用することも一つの方法である。
一方で、これらの学生の支援者としての活用に当たっては、一部の学生に過度な負担が掛かることや支援に携わる学生と障害のある学生の人間関係に問題が生じる場合があることから、これらに十分留意するとともに、障害の知識や対応方法、守秘義務の徹底等、事前に十分な研修を行い、支援の質を担保した上で実施することが重要である。
(4)学生・教職員の理解促進・意識啓発を図るための配慮
障害のある学生からの様々な相談は、必ずしも担当部署に対して行われるとは限らず、障害のある学生の身近にいる学生や教職員に対して行われることが多いと考えられる。それらに適切に対応するためには、障害により日常生活や学習場面において様々な困難が生じることについて、周囲の学生や教職員が理解していることが望ましく、その理解促進・意識啓発を図ることが重要である。なお、情報の共有方法・共有内容等については、合理的配慮の内容決定と同様に、障害のある学生本人との建設的対話による相互理解を通じて決定する必要があることに留意する。
(5)情報公開
各大学等は、障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を明確に示すことが重要であること。 また、各大学等が明確にすべき受入れ姿勢・方針は、入学試験における障害のある受験者への配慮の内容、大学構内のバリアフリーの状況、入学後の支援内容・支援体制(支援に関する窓口の設置状況、授業や試験等における支援体制、教材の保障等)、受入れ実績(入学者数、在学者数、卒業・修了者数、就職者数等)など、可能な限り具体的に明示することが望ましく、それらの情報をホームページ等に掲載するなど、広く情報を公開することが重要である。なお、ホームページ等に掲載する情報は、障害のある者が利用できるように情報アクセシビリティに配慮することが望まれる。
(1)合理的配慮に関する留意点
障害の有無にかかわらず、交流する機会や共に学ぶ機会を広く整備していくことが重要である。教育基本法第3条では「生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」と規定されている。また同法第4条第2項において、「国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない」と規定されており、社会教育施設等の担当者や生涯学習における学習機会提供者においては、学習参加者本人・家族等と可能な限りの合意形成を図った上で、一人一人の障害の状態やニーズ等に応じた合理的配慮を決定し、提供することが期待されている。「学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議」の報告書では、以下に挙げるバリアが指摘されている。
- 学びの場における施設・設備面における環境のバリア
- 学習機会の提供主体等の「障害」に対する理解や合理的配慮に関する知識の不十分さによる意識のバリア
- 学びの場にたどり着くまでの情報や学習に参加した際の情報保障の不十分さによる情報のバリア
①については、公民館や図書館において個別に定めている設置や運営についての基準の中で、障害者の参加促進や円滑な利用に向けた施設整備に努めるものとしていること。加えて②意識のバリア③情報のバリアに留意し、社会教育施設等における既存事業において、合理的配慮の準備があることを周知する等、段階を踏み、継続して障害者が安心して学ぶことができる環境を醸成することも必要である。障害があることで、自由に学習機会を選択し、学ぶことが阻害されないよう、担当者や生涯学習提供者が、障害や合理的配慮への理解を深め、参加のための情報提供段階から留意することが望まれる。
(2)合理的配慮の例
別紙1に記載のある学習参加時の合理的配慮だけでなく、潜在的ニーズのある障害者が社会教育施設等での学びの情報を取得し、選択するに当たっての障壁について、以下に挙げる配慮を提供することが望ましい。
- 講座の広報に「車椅子来場可」、「補助犬同伴可」等、アイコン等を用いてわかりやすく表示する。
- 視覚障害者へのパンフレットやイベントチラシに、点字版を作成したり、アプリで読込みできる音声コードを記載して郵送したりする 。
- 知的障害や発達障害のある参加者に向けたパンフレットや資料等にルビを振る。
スポーツ分野については、スポーツ基本法第2条第5項において、「スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない」と規定されている。スポーツに関する施設及びサービス等を提供する事業者においては、障害の有無にかかわらず誰もが楽しく安全にスポーツに親しむことができる環境を整備し、障害者がスポーツに参加する機会の拡充を図るとの基本的な考え方を踏まえて対応することが適当である。
文化芸術分野について、文化芸術基本法の前文は、「我が国の文化芸術の振興を図るためには、文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し、文化芸術活動を行う者の自主性を尊重することを旨としつつ、文化芸術を国民の身近なものとし、それを尊重し大切にするよう包括的に施策を推進していくことが不可欠である」との理念を、障害者による文化芸術活動の推進に関する法律第3条は、「文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、国民が障害の有無にかかわらず、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるよう、障害者による文化芸術活動を幅広く促進すること」等の基本理念をそれぞれ掲げている。文化芸術分野の関係事業者においては、これらの理念に基づき、障害の有無にかかわらず、誰もが文化芸術活動に親しむことができるよう、適切に対応することが重要である。具体的には、以下の点に留意する。
- 合理的配慮は、一人一人の障害の状態や必要な支援、活動内容等に応じて決定されるものである。本人・保護者等とよく相談し、可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましい。
- 障害者が使用する用具等が施設の管理・維持に与える影響の程度については、具体的場面や状況により異なるものであるため、当該場面や状況に応じて、柔軟に対応することが重要である。
<初等中等教育段階>
第1 学校法人等における対応の留意事項
本指針における関係事業者に当たる学校法人等は、次の点に留意しつつ、法に適切に対応することが必要であること。
(1)特別支援教育の理念
全ての学校において、障害のある幼児、児童及び生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うこと。
さらに、特別支援教育は、障害のある幼児、児童及び生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものであり、我が国の現在および将来の社会にとって重要な意味を持っていること。
(2)合理的配慮の提供(本指針第2の2及び別紙2「学校教育分野」の2(1))
ア 対話による合意形成
合理的配慮は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じ、学校法人等及び本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ合意形成を図った上で提供すること。
学校法人等は、本人・保護者から、学校教育を受けるために個別の変更・調整を必要としている旨の意思の表明があった場合において、均衡を失した又は過度の負担を課すものであると判断した場合には、本人・保護者に分かりやすく説明し、実現可能な代替措置を提案するなど、合意形成のための対話の場を設けること。対話においては、現在必要とされている変更・調整は何か、何を優先して提供する必要があるかなどについて共通理解を図ること。
イ 個別の教育支援計画への明記
合意された合理的配慮の内容は、個別の教育支援計画に明記し、当該幼児、児童及び生徒に関わる教職員、特別支援教育支援員、関係機関の職員等がプライバシーに配慮しつつ情報を共有する。また、進級や進学等の移行期の引継ぎにより、一貫した組織的な支援が行われるようにする。
ウ 合理的配慮の柔軟な見直し
合理的配慮は、その障害のある子供が十分な教育が受けられるために提供できているかという観点から評価することが重要であり、合理的配慮の合意形成後も、幼児、児童及び生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら、合理的配慮の内容を柔軟に見直すことができることを、学校法人等及び本人・保護者との間で共通理解とする。
エ 公立学校の事例の活用
学校法人等においては、公立学校の合理的配慮の提供例を参考とし、過重な負担とならない範囲で、同様の対応に努める。その際、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運営する「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」の活用が有効である。
(3)相談体制の整備(本指針第3及び別紙2「学校教育分野」の2(3))
学校の校長は、特別支援教育コーディネーターの指名、特別支援教育に関する校内委員会の設置を一層徹底し、本人・保護者からの相談に組織的かつ迅速に対応する体制を整備する。各学校の設置者は、各学校における必要な環境の整備に努めると共に、このような校内体制を用いてもなお合意形成が難しい場合は、法的知見を有する専門家等の助言を得るなどしつつ、法の趣旨に即して適切に対応する。学校法人等においては、相談窓口や相談を受け付けた後の手続の流れについて、あらかじめ周知し、本人・保護者が相談体制を利用しやすい環境作りに努める。
第2 教育委員会等における対応
教育委員会及びその設置する学校(以下「教育委員会等」)においては、法に適切に対応するに当たり、「第1 学校法人等における対応の留意事項」の各項目にも十分留意すると。さらに、公的な教育を担う機関として、次の点にも留意する。
(1)公的な教育機関としての責任
学校は、合理的配慮の提供者であることに加え、障害のある幼児、児童及び生徒が社会に参加していくに当たり、適切な「意思の表明」ができるよう、必要な支援を自分で選択し、他者に伝える力を身に付けるための教育を担う機関でもある。全ての教育委員会等において、公的な教育機関としての役割の重要性とその責任を十分認識し、特別支援教育の推進に努める。
(2)研修・啓発の推進
法の施行を契機として、従来から取組が進められている教員の専門性の向上に加え、全ての教職員が、法の趣旨を理解し、適切に対応できるようにするための研修・啓発を行うこと。研修等の実施に当たっては、国・私立学校関係者や保育所関係者も受講できるようにすることが望ましいこと。
(3)事例の蓄積と共有
教育委員会においては、合理的配慮の好事例や相談事例を、各学校の個別の経験知にとどめることなく、順次蓄積し広く共有することにより、地方公共団体全体としての対応の水準を高めるよう努める。事例の蓄積と共有に当たっては、「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」を運営する独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の要請に応じて連携することが望ましい。
(4)学校教育に係る都道府県対応要領及び市町村対応要領の作成
学校教育分野は、障害者との関係性が長期にわたるなど、固有の特徴を有することから、各教育委員会においては、法に適切に対応するため、学校教育に係る都道府県対応要領及び市町村対応要領又はこれらに類するガイドラインを作成するよう努めること。これから作成に着手する教育委員会においては、本指針及び文部科学省対応要領も参考としつつ、地域の実態に応じた内容とすることが望ましい。
作成した都道府県対応要領等は、法第10条第3項の規定に基づき、本人・保護者その他関係者の閲覧に供するため、公表するよう努める。
<高等教育段階>
高等教育段階においては、法に適切に対応するため、本指針に加え、文部科学省の「障害のある学生の修学支援に関する検討会」が取りまとめた報告書(「第一次まとめ(平成24年度)」、「第二次まとめ(平成28年度)」、「第三次まとめ(令和5年度)」)や、独立行政法人日本学生支援機構の策定する「大学等における障害のある学生への支援・配慮事例」や「教職員のための障害学生修学支援ガイド」、「合理的配慮ハンドブック」等も参照することが望ましい。