思春期は、自身について深く考えると同時に他人の目を気にする時期です。発達障害のあるこどもが思春期を迎えると、自身が周囲からどのように見られているのか判らず、混乱してしまうことも少なくありません。そのため、日常生活の様々な場面で違和感を抱き、孤立してしまうケースが見られます。場合によっては、日常生活や学校生活を送ることが難しくなってしまうので、周囲の人々に理解してもらうことが何より大切です。
発達障害のあるこどもは、集団行動や学校行事、友達との会話が苦手な傾向があります。そのためこの時期、仲間と一緒に過ごすことが難しくなり、ひとりで過ごす時間が増えたりします。また、人から注意されることが多くなることや、相手の気持ちが理解できず喧嘩になりやすいことも特徴です。自身の気持ちをうまく相手に伝えられないことが原因で、混乱してしまうことも少なくありません。一方的な会話や比喩や皮肉をそのまま受け止めてしまい、誤解やすれ違いが起きるケースもあります。
発達障害のあるこどもは、複数の物事を同時に進めることが苦手だったり、優先順位を付けることが難しく感じたりすることも多く見られます。例えば、宿題、家事、友達との約束等、同時に進めなければならない場合、どれを先にやればよいのか判断できないため、ひとりで悩みを抱えてしまい追い詰められてしまうことも多いようです。これらのことは、忘れっぽかったり集中力が続かなかったりする障害の特徴によるものなので、重要なことを見落とさないための工夫が必要となります。
目標へ向けてゴールまでの段取りを考えることや、スケジュールを組んで行動することにも難しさを感じやすいので、計画を立てるときは親や周囲のフォローが必要となります。親や先生に具体的なステップを示してもらい、一緒にスケジュールを組むようにすれば、少しずつ計画的に行動する力を養えます。
他のことに気を取られやすく、思い付きで行動しやすいのも発達障害のあるこどもに見られやすい特徴です。そのため、片付けや整理整頓が苦手な傾向にあります。片付けを始めても最後まで集中できず、部屋が散らかった状態になりやすいのは、空間把握能力や物事に対する順位付けが苦手なことや、面倒なことを先延ばしにする癖(回避行動)等の障害の特徴が関係しています。
例えば、ASD(自閉スペクトラム症)のこどもは、物を規則正しく並べることは得意です。しかし、整理整頓となると、単に積み上げただけになっているケースが少なくありません。
発達障害のあるこどもたちは、頻繁に忘れ物をしてしまったり、約束や提出物の締め切りを忘れたりすることが多くあります。また、注意を持続させることや情報を正確に記憶することが苦手なので、うっかりミスも多くなります。学校の授業で必要な教材を忘れたり、家庭での約束を忘れたりすることが頻繁に起こるようになると、ストレスが溜まりやすくなるので注意が必要です。
中学生になると、勉強についていけないようになり、LD(学習障害)であることが発覚するケースもあります。学習障害があるこどもは、特定の教科や学習活動を困難に感じやすいのが特徴です。苦手な分野はこどもによって異なりますが、美術や音楽、体育等の実技的な教科が苦手なケースも多く見受けられます。発達障害があるこどもには、手先や体を動かすイメージがうまくつかめないことも多く、実技をともなう教科を難しいと感じるようになります。
発達障害のあるこどもたちにとって、思春期は特に多くの悩みを抱えやすい時期です。心身の急激な変化とともに、社会的な期待や学業のプレッシャーも増す中で、発達障害がある中でどのように向き合っていけばよいのかと、これまで以上の不安を感じるかもしれません。
ケース:友達の輪の中に入れない
発達障害があるこどもには、集団行動やコミュニケーションを取ることが苦手だったり、グループの会話に入れなかったりする等の特徴が現れます。特に、本人が興味を持てない話題には関心が持てないことも多いため、友達の話についていけないといった悩みを抱えるこどもも多くいます。
だからと言って、このような状況で無理に友達に合わせたり、会話に参加したりする必要はありません。本人をよく理解してくれる少数の友達と仲良くしたり、楽しめる趣味に取り組んだりする等、本人がリラックスできる環境に身を置いて周囲とより良い関係をつくることが大切です。
ケース:悪気がないのに友達を不快な気持ちにさせてしまう
想像することが苦手な特徴を持つ発達障害がある場合、相手の気持ちを理解できないことが原因で、無意識に友達を傷付ける言動となってしまうことがあります。このようなトラブルを引き起こさないために、まず、相手が不快になる理由を無理のない範囲で考えてみましょう。相手が怒った理由を自力で特定するのが難しい場合には、親や友達等、信頼できる人に相談してサポートしてもらうことも良いでしょう。
ケース:身だしなみに無頓着である
発達障害のあるこどもには、身だしなみを気にしないといった特徴もあります。周囲の人から「髪の毛がボサボサ」「服装がだらしない」と指摘されてもご自身では理解できないケースも多いため、学校でからかわれてしまったり、仲間外れにされたりする傾向があるようです。
身だしなみに関する対策は、各家庭で取り組みやすいことなので、親と相談して具体的にどうすればよいのかアドバイスしてもらいましょう。例えば、必要に応じて身だしなみを整えるためのルールやチェックリストを作成するなど自己管理能力を高めていきましょう。
ケース:イライラしたり、落ち込んだりする
思春期は体と心が大人になる前の段階です。この時期は、ホルモンバランスが影響して感情の起伏は激しくなります。特に発達障害のあるこどもは、感情をコントロールすることが苦手な傾向にあります。突然イライラしたり落ち込んだりすることも、頻繁に起こることがあるかもしれません。
このようなときは、可能な範囲でイライラや落ち込みの原因を特定してみましょう。ひとりで過ごす時間を大切にしたり、好きなことをしたり、気持ちをリセットする方法が見つかれば、感情をコントロールしやすくなります。
ケース:恋愛や性に関することについて
思春期になると、恋愛や性に対して興味を持つこどもが増えます。発達障害があるこどもの場合、そのような興味から女性の体を凝視してしまったり、異性に付きまとったり、場合によっては騙されて性トラブルに巻き込まれてしまうこともあるため注意が必要です。性に対する興味がありながら、性的な行動の意味を理解できないことが原因となるケースもありますが、親や学校にサポートしてもらい、性に関する正しい知識や身を守る方法を身に付けておくことが必要です。
特に、異性への付きまといは迷惑行為に発展する可能性もあります。衝動的な行動をなくすための代替案として、相手の気持ちを確認したり、写真を持ち歩いたりすることで付きまとい行為へ発展するのを抑えるのも1つの方法です。
思春期を迎えると、発達障害の有無に関係なく反抗期が訪れますが、過剰に怒りっぽくなって周囲に強く当たったり、挑発を繰り返したりする反抗挑戦性障害(反抗挑発症)に発展する場合もあります。
この時期、親の言動によっては、こどもの心身に影響を及ぼす可能性もあるため注意が必要です。こどもが感情を抑えられなくなる前に、いつも味方でいることや近くで見守っていることを伝えておきましょう。親が過保護や過干渉にならないよう十分に注意しながら、適度な距離感を保つように意識することで、こどものストレスを軽減できます。
発達障害のある思春期のこどもは、成長過程で様々な困難に直面します。特に思春期は、心身ともに大きく変化する時期です。発達障害があるこどもにとっては、さらに複雑な問題を引き起こす可能性があります。思春期に適切なサポートが受けられなかった場合には、重大な二次障害(併存症)を発症するリスクが高くなるので注意が必要です。
二次障害の主な症状
二次障害は、内在化障害と外在化障害といった2つのタイプに分かれます。
- うつ病
- 適応障害
- 不安障害
- 自己否定感
- 暴力
- 暴言
- 感情不安定
- 自傷行為
《内在化障害》には、感情や精神状態が内向きに影響を与えるもので、うつ病や適応障害などが含まれます。内在化障害の場合、心の中に抱えた苦しみやストレスが表に出にくいため、周囲が気付きにくいケースも少なくありません。
一方、《外在化障害》は、感情や行動が外向きに影響を与えます。暴力や暴言、感情の不安定さ、自傷行為などが見られます。これらの行動は周囲に対しても影響を及ぼしやすいので、家庭や学校でも見て分かる状態になることが特徴です。
二次障害が発生すると、日常生活や社会生活でさらに困難が増すことも考えられます。早めの段階で相談し、適切なサポートを受けることが二次障害のリスク軽減につながります。
発達障害のある思春期のこどもたちは、心身ともに大きな変化を経験する中で、様々な困難に直面します。この時期に適切なサポートを受けることは、二次障害が発生するリスクを抑えるためにも欠かせません。
うつ病等の精神疾患は、生活リズムが乱れていると発症しやすくなります。規則正しい生活リズムを身に付けることは非常に重要です。毎日一定の睡眠時間を確保し、バランスの取れた食事を摂ることは、心身の健康を維持することにつながります。規則正しい生活リズムは、体内時計を整える効果が期待できるため、精神的な安定感を得やすくなります。
発達障害のあるこどもは、その特徴から無意識のうちに作業に集中しすぎたり、物事に対して真面目に取り組んだりする傾向があります。その結果、ストレスを溜め込みやすくなり、二次障害を引き起こすリスクが高くなります。適度に休むことは、ストレスの蓄積を防ぐために欠かせません。休憩時間を計画的に取り入れるなど、気持ちがリラックスする方法を見つけるようにしましょう。
発達障害のあるこどもは自己肯定感が低いという特徴もあり、それがストレスの原因になってしまうケースもあります。自己肯定感を高めるために、小さな達成感を得られる活動を増やし、成功体験を積み重ねていくことも大切です。心理療法やトレーニングなど、専門家によるサポートを受けながら自己肯定感を高めていく方法もあります。
発達障害がある思春期のこどもは、コミュニケーションや計画性などで多くの困難を抱えやすくなっています。これらの困難は、友人関係や学業に悪影響を及ぼし、さらには自己肯定感の低下につながることも少なくありません。特に、適切な支援やサポートがない場合には、うつ病や適応障害等の二次障害を引き起こすリスクが高まります。
規則正しい生活リズムを保つことやストレスを溜め込まないよう適度に休むこと、また自己肯定感を高めることは二次障害の予防につながります。ひとりで悩みを抱え込まずに、早めの段階で周囲の信頼できる人たち(専門家を含む)に相談してみてください。